ベートーベン:ピアノソナタ第23番「熱情」
P:ケンプ 1951年録音
Beethoven:ピアノソナタ第23番「熱情」 「第1楽章」
Beethoven:ピアノソナタ第23番「熱情」 「第2?3楽章」
ベートーベン中期の大傑作
外面的には荒れ狂うようなパッションにあふれていますが、それを生み出しているのは寸分の隙もないほどに造形された構成です。
その意味では、ベートーベンの中期ソナタの最高傑作と言って間違いはないでしょう。
しかしこのパラドックスはピアニストに大変な困難を課します。
なぜならば、氷のような冷静沈着さを持って荒れ狂わねばならないのです。禁欲的なまでにその音楽的な構成を再現して見せないと作品はガタガタになります。かといって、それをきちんと仕上げるだけでは肝心のパッションがスポイルされてしまいます。
その困難さゆえに多くのピアニストがチャレンジし続けた作品だと言えます。ただし、冷静に狂うのは難しい!!
第1楽章
アレグロ・アッサイ ヘ短調 8分の12拍子 ソナタ形式
第2楽章
アンダンテ・コン・モート 変ニ長調 4分の2拍子 変奏曲形式
この変奏曲は限りなく美しい。激しい闘争はこの美の中に埋没していく!
第3楽章
アレグロ・マ・ノン・トロッポ ヘ短調 4分の2拍子 ソナタ形式
あらゆる障害を蹴散らして驀進していくベートーベン。まさに、「This is the BEETHOVEN」
お恥ずかしながら・・・
ユング君はあまりピアノ曲が好きではなかったので、ケンプもそれほど真面目に聞いたことがありませんでした。と言うか、彼の録音で一番よく聞いていたのは、彼自身の編曲になるバッハの小品集でした。「KENPFF PLAYS BACH」とタイトルのついた一枚で、「主よ、人の望みの喜びよ」とか「シチリアーノ」というユング君の大好きな作品がおさめられているので、これはよく聞きました。
ケンプと言えば伝統的なドイツのピアニストと言うことで、さぞやゴツゴツした演奏をする人だろうと言う先入観があったのですが、ここで聞ける演奏はなかなかにロマンティックで柔和な演奏だったもので、「なるほど、こういうポピュラーな小品はそれなりに甘口に演奏するんだ」などと思ったものでした。
ところが、今回あらためてケンプの録音をあれこれ聞いてみて分かったのは、ケンプという人はぶっきらぼうでゴツゴツした演奏をする人ではなかったんだという事です。彼は、ベートーベンを演奏しても、基本的にはバッハの小品集で聞かせてくれたようなロマンティシズムをたたえた音楽を聞かせてくれる人でした。
ユング君の頭の中には刷り込みのように、「ドイツの伝統的なピアニスト」=「バックハウス」=「ぶっきらぼう&ゴツゴツ」という定式が出来上がっていたのですが、ここでもまた図式的に割り切ってしまうことの愚かさを知らされたわけです。
ケンプはモノラル期とステレオ期にそれぞれソナタの全集を残していて、世間的には後年のステレオ期の演奏の方が「甘口」とされているようです。しかし、このモノラル期の録音にしても、バックハウスなどと比べるとはるかにロマンティックで人肌の暖かみを感じさせてくれます。
たしかに、ケンプにバックハウスの凄みを求めることは出来ません。しかし、いつもいつもそう言う音楽と対峙しているとしんどくなるのも事実で、そう言うときにはケンプの演奏は3月の雨のように心にしみ込んできます。
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