ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21
(P)チャールズ・ローゼン:ジョン・プリッチャード指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年1月11日,13日録音
Chopin:Piano Concerto No.2, Op.21 [1.Maestoso]
Chopin:Piano Concerto No.2, Op.21 [2.Larghetto]
Chopin:Piano Concerto No.2, Op.21 [3.Allegro vivace]
僕は悲しいかな、僕の理想を発見したようだ
ナンバーリングは第2番となっていますが、ショパンにとって最初の協奏曲はこちらの方です。
1829年にウィーンにおいてピアニストデビューをはたしたショパンは、その大成功をうけてこの協奏曲の作曲に着手します。そして、よく知られているようにこの創作の原動力となったのは、ショパンにとっては初恋の女性であったコンスタンティア・グワドコフスカです。
第1番の協奏曲が彼女への追憶の音楽だとすれば、これはまさに彼女への憧れの音楽となっています。とりわけ第2楽章のラルゲットは若きショパン以外の誰も書き得なかった瑞々しくも純真な憧れに満ちた音楽となっています。
「僕は悲しいかな、僕の理想を発見したようだ。この半年というもの、毎晩彼女を夢見るがまだ彼女とは一言も口をきいていない。あの人のことを想っているあいだに僕は僕の協奏曲のアダージョを書いた」
友人にこう書き送ったおくように、まさにこれこそが青年の初恋の音楽です。
一つの分岐点に位置した録音
この演奏を「今」という時代においてみれば、何となく自己主張の少ない「平均」的な演奏という感はぬぐえません。
隅から隅まで曖昧なところなどは全くなく、年を重ねるにつれて指摘されたテクニックの衰えも感じません。
よく言えば明晰、しかし取りようによっては単純にすぎる明暗の二分法と映らないわけではありません。
彼は64年に
幾つかのベートーベンのソナタを録音しています。
それはホールの響きなどは一切取り込んでいないような、まるでピアノの中にマイクを突っ込んで録音したのではないかと思うほどの音作りなのです。そして、そう言うアプローチが構築製が何よりも重視される音楽では見事にツボにはまっているのです。
それと同じようなことが、新ウィーン楽派の音楽や彼が擁護し続けたエリオット・カーターのような音楽にも言えました。
ところが、それと同じようなアプローチをショパンのような音楽に適用することは、当時にあってはある種の「新しさ」があったのかもしれませんが、結果としてはそれほど上手く言っていないように聞こえます。
おそらく、こういう音楽は音符を正確に音に変換して積み上げていくだけでは、何かとても大切なものがこぼれ落ちてしまうのでしょう。
それは、例えばこのようなものです。
(P)アルフレッド・コルトー:ジョン・バルビローリ指揮 管弦楽団 1935年7月8日録音
内田光子がいみじくも「コルトーを聴いた時には、このスケベじじいと思うが、いざ自分でテンポ・ルバートして弾こうとすると、コルトーほどルバートの何たるかを知っていた人はいないことに気付く。」と語っていたように、下品になるすれすれのところで立ち上がってくる上質なロマンティシズムを味あわせてほしいのです。
しかし、それもまた内田が語るように絶えてしまい、変わりに誰も彼もが楽譜を精緻に分析して、その分析結果を精緻に報告してくれるだけなのです。
そう言う意味では、これはそう言う一つの分岐点に位置した録音なのかもしれません。
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