クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

J.S.バッハ:ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ(第1番) ト長調 BWV1027

(ヴィオラ・ダ・ガンバ)アウグスト・ヴェンツィンガー (チェンバロ)フリッツ・ノイマイヤー 1951年4月20日録音



Bac:Sonatas for Viola da Gamba and Harpsichord in G major, BWV 1027 [1.Adagio]

Bac:Sonatas for Viola da Gamba and Harpsichord in G major, BWV 1027 [2.Allegro ma non tanto]

Bac:Sonatas for Viola da Gamba and Harpsichord in G major, BWV 1027 [3.Andante]

Bac:Sonatas for Viola da Gamba and Harpsichord in G major, BWV 1027 [4.Allegro moderato]


「ヴィオラ・ダ・ガンバ」のために書かれた作品

「ヴィオラ・ダ・ガンバ」と言われても、それって何?という時代が長く続いたのですが、古楽器の復興に伴って認知度も上がってきているようです。
写真を見ていただければ分かるように、外見はチェロと殆ど変わりません。



音域によって「トレブル、アルト、テナー、バス」という種類があるのですが、バッハの時代においても独奏楽器として使用されるのは既に「バス」のみで、ここで紹介してるバッハの「ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ」でもその楽器が想定されています。
そして、「ヴィオラ・ダ・ガンバ」と言えば殆どがこの「バス」を想定されていますので見た目がチェロにそっくりと言うことになるようです。

ただし、見た目や音域はチェロとそっくりでも楽器の構造はかなり異なります。
まず何よりも、チェロなどのヴァイオリン属の楽器は5度間隔で調弦された4本の弦で構成されているのに対して、ガンバ属は4度間隔で調弦された6本または7本の弦で構成されています。
また、ヴァイオリン属は「ヴィオラ・ダ・ブラッチョ(腕の弓楽器)」とよばれたのに対して、「ヴィオラ・ダ・ガンバ」、つまりは「脚の弦楽器」だったという演奏法の違いです。

写真を見てもらえば分かるように「ヴィオラ・ダ・ガンバ」には「チェロ」のようなエンド・ピンがありません。ですから、この楽器を演奏素ためには脚で楽器を挟み込む必要があるのです。

バッハ以前の時代には弦楽器と言えば殆どがこの「ガンバ属」だったのですが、彗星のように突如現れたヴァイオリン属によってその地位を取って代わられました。
ヴァイオリン属の特徴はその機動性の高さと音色の輝かしさです。とりわけ、演奏される場所がごく内輪の小さな部屋が主体だった時代にはガンバ属の繊細で柔らかな響きはピッタリだったのですが、次第に広いホールが演奏会場の主体になるとその音量の小ささとくすんだ感じの響きは敬遠されるようになっていきました。

ですから、チェロとヴィオラ・ダ・ガンバは見た目は似ていても全く別の楽器であり、バッハが明確に「ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ」と記している以上は、この作品は「ヴィオラ・ダ・ガンバ」によって演奏されるべき作品だと言えます。
とは言え、長きにわたって「ヴィオラ・ダ・ガンバ」は過去に消え去った楽器だったわけであり、結果としてこの作品は長きにわたって「チェロ・ソナタ」として演奏されてきた歴史を持っているわけです。実際、最近になってもマイスキーやヨー・ヨーマなども「チェロ・ソナタ」としてこれらの作品を録音しています。
そして、それらの演奏もまた聞けば十分に納得できるものであり、一部の原理主義者のようにそれを「正誤」の問題で云々するのはあまりにも狭量と言うべきでしょう。

しかし、それでもチェロとヴィオラ・ダ・ガンバは異なる楽器であり、それ故にヴィオラ・ダ・ガンバで演奏されたときにだけ味わえる世界があることも事実です。
例えば、第1番のソナタのことを「考え得るもっとも快く、もっとも純粋な田園詩」と評した人がいます。そして、その作品を「田園詩」とすべきためにはヴィオラ・ダ・ガンバほど相応しい楽器はないのです。

ベルリオーズの幻想交響曲をピリオド楽器(これを古楽器と表現すると眦つり上げて文句をつけてくる原理主義者もいますので^^;)で演奏して得意顔の連中を見ると一言も二言も文句をつけたくなるのですが、こういう作品をヴィオラ・ダ・ガンバで演奏することは十分すぎるほどの意味と価値があると思います。

ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ ト長調 BWV1027

「2本のフルートと通奏低音のためのソナタ BWV1039」と全く同じ音楽で、楽器構成という「衣装」だけを付け替えた作品です。一般的にはこのフルート作品の方が原曲で、このヴィオラ・ダ・ガンバの方が編曲と言われているのですが、確定はしていないようです。
全曲を通して非常に伸びやかな音楽であり、バッハにとってもお気に入りの音楽だったようです。


  1. 第1楽章:アダージョ ト長調

  2. 第2楽章:アレグロ・マ・ノン・タント ト長調

  3. 第3楽章:アンダンテ ホ短調

  4. 第4楽章:アレゴロ・モデラート ト長調



ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ ニ長調 BWV1028

この作品は6弦ではなくて7弦のガンバでないと演奏できないことで有名です。ただし、その弾けない部分はオクターブ上げれば演奏できるらしくて、7弦のガンバが調達できないときはその様にして演奏されたそうです。
また、第4楽章は高度な技巧が必要で、当時のガンバの名手がどの程度の名人芸を見つけていたかが推し量れる音楽でもあります。


  1. 第1楽章:アダージョ ニ長調

  2. 第2楽章:アレグロ ニ長調

  3. 第3楽章:アンダンテ ロ短調

  4. 第4楽章:アレグロ ニ長調



ヴィオラ・ダ・ガンバとチェンバロのためのソナタ ト短調 BWV1029

この作品だけ3楽章構成なのですが、それはただ単に一つ楽章が少ないと言うだけでなく、これだけが「急-緩-急」という協奏曲の形式を採用したと見るべき事のようなのです。
ちなみに1番と2番の4楽章構成は「緩-急-緩-急」という教会ソナタの形式に則っています。


  1. 第1楽章:ヴィヴァーチェ ト短調

  2. 第2楽章:アダージョ 変ロ長調

  3. 第3楽章:アレグロ ト短調



心穏やかに安心して聞ける演奏


「August Wenzinger」は「アウグスト・ヴェンツィンガー」と読むようです。
そう断り書きをしなければいけないほどに今では忘れ去られた存在になっています。

少し調べてみると、「ベルリンでエマヌエル・フォイアマンの個人レッスンを受けた。1929年から1934年までブレーメンのオーケストラの首席チェロ奏者を務める。」となっています。
しかし、その後「ヴィオラ・ダ・ガンバ」の研究を始め、1934年にはバーゼル・スコラ・カントルムのヴィオラ・ダ・ガンバの教授として参加ししています。

ここでまたもや、バーゼル・スコラ・カントルムが登場しますね。ただし、「バーゼル・スコラ・カントルム」って何という人は、この古学専門の大学が「パウル・ザッハー」が私財を投じて開設したことを思い出してください。
でも、「パウル・ザッハー」って誰?と言う人のために、もう一度過去の記述を引用しておきます。

「パウル・ザッハーはスイスの有名製薬会社のオーナーであった未亡人と結婚することで巨万の富を手に入れます。そして、彼自身は経営者としての手腕も発揮して会社の業績回復にも貢献したらしいのですが、最大の功績は同時代の作曲家へのスポンサー役を果たしたことです。
彼は、バルトークだけでなくストラヴィンスキーやオネゲル、ヒンデミット、ヘンツェ、エリオット・カーターなどに作品を依頼し、その数は200を超えるとも言われています。もしも、このザッハーの働きがなければ20世紀のクラシック音楽はその相貌を変えていたかも知れません。」

つまりは、彼は20世紀の音楽だけでなく、古楽の復興においても大きな貢献を為したわけです。

「アウグスト・ヴェンツィンガー」の「ヴィオラ・ダ・ガンバ教本」は今も発刊されているようなのでそれなりに大きな存在だったのでしょう。
しかし、彼の手になる「ヴィオラ・ダ・ガンバ」の演奏が、今の演奏水準から行ってどれほどの価値があるのかは私の知識では全く分かりません。ただし、私のような保守的な駄耳にとっては、いわゆる「ピリオド演奏」という言葉が想起させる神経質なひいきと演奏とは全く持って無縁なので、心穏やかに安心して聞けたことだけは申し述べておきます。

それからもう一つ、50年代前半の録音なのですが音質は極めて優秀です。さらに、こういう小さな楽器編成の音楽では録音がモノラルであることもほとんどマイナスにはなりませんから、これを予備知識なしで聞かされて50年から52年にかけての録音だと言うことを言い当てられる人はまずいないでしょう。
それほどまでに優秀です。

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