クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:ハンガリー舞曲集(全21曲)

ハンス・シュミット=イッセルシュテット指揮 北ドイツ放送交響楽団 1962年9月5日&8日録音



Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.1

Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.2

Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.3

Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.4

Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.5

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Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.19

Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.20

Brahms:21 Hungarian Dances (Orchestra), WoO 1 No.21


ジプシー音楽を下敷きにした作品

ブラームスのハンガリー舞曲と言えば、第5番だけが突出して有名です。それはきっと、チャップリンが「独裁者」の中で見事に使って見せたことが大きく寄与しているのでしょう。
しかし、ハンガー舞曲は第5番だけではありません。それ以外にも素敵なメロディがあふれていて、ある意味、その手の才能に恵まれなかったブラームスにしては「愛想」のよい作品に仕上がっています。

この作品が書かれることになるきっかけは、若きブラームスがエドゥアルト・レメーニというヴァイオリニストの伴奏ピアニストとしてどさ回りをしていた頃にさかのぼります。
レメーニはジプシー・スタイルの演奏が持ち味で、暇があればジプシー音楽を演奏していました。ブラームスはその音楽が気に入ったようで、暇があればレメーニが演奏するジプシー音楽をメモしていました。そして、そのメモをもとに少しずつ作品として仕上げていったものがハンガリー舞曲集となったわけです。
ですから、後にブラームスがハンガリー舞曲集を発表したときも、「作曲」とはせずに「編曲」とし、さらに作品番号も与えませんでした。

しかし、このブラームスらしい「謙虚」な姿勢があとから彼を救うことになります。
この作品は当初は出版を断られるのですが、後にブラームスの重要なパートナーとなるジムロックが出版を引き受けます。そして、一般家庭にピアノが普及しはじめた社会情勢も追い風となって、この楽譜は飛ぶように売れます。それは、ジムロックだけでなくブラームスにも大きな経済的成功をもたらすことになります。
この成功を見て頭にきたのがレメーニでした。自分が教えてやったジプシーの音楽を勝手に使って、ブラームス一人だけ大もうけしていたのが許せなかったのでしょう。彼はことあるごとに、ブラームスを自分の作品を盗んだ男だと攻撃しました。
ブラームスはこの攻撃に対して静観を決めつけていたようですが、黙っていられなかったのはジムロックの方だったようで、ついにレメーニとジムロックは裁判で白黒をつけることになります。結果は、ブラームスが「作曲」とはせずに「編曲」とした事、そもそも原作者そのもの特定が難しいことなどから、レメーニの敗訴で決着します。

しかし、この裁判によって、ブラームスは続く第3集・第4集においては出来るかぎり自作の旋律を使うようになり、さらにジプシーの音楽を使うときも徹底的に編曲を施して「盗作攻撃」を受けないように配慮するようになりました。
結果として、前半の10曲と後半の10曲ではずいぶんテイストが変わってしまいました。明らかに、後半の作品の方がブラームス的な洗練を感じますが、前半の作品に見られた奔放なジプシーらしさは失われています。
よって、当然のことながら今も昔も人気が高い作品は前半10曲に集中することになります。

ブラームスは間違いなく偉大な作曲家ですが、この事実の中に彼の唯一とも言えるウィークポイントが浮かび上がってきます。

<第1集>
1. ト短調 (Allegro molto)
2. ニ短調 (Allegro non assai)
3. ヘ長調 (Allegretto)
4. ヘ短調 (Poco sostenutto)
5. 嬰ヘ短調 (Allegro)

<第2集>
6. 変ニ長調 (Vivace)
7. イ長調 (Allegretto)
8. イ短調 (Presto)
9. ホ短調 (Allegro non troppo)
10. ホ長調 (Presto)

<第3集>
11. ニ短調 (Poco andante)
12. ニ短調 (Presto)
13. ニ長調 (Andantino grazioso)
14. ニ短調 (Un poco andante)
15. 変ロ長調 (Allegretto grazioso)
16. ヘ短調 (Con moto)

<第4集>
17. 嬰ヘ短調 (Andantino)
18. ニ長調 (Molto vivace)
19. ロ短調 (Allegretto)
20. ホ短調 (Poco allegretto)
21. ホ短調 (Vivace)

雲に隠れた膨大な山塊に気づかせてくれる存在


「ハンス・シュミット=イッセルシュテット」と言う名前があまりにも長すぎたのか、気づけば、このそこそこ著名な指揮者の録音をほとんど取り上げていないことに気づきました。やはり、人のやることにはどこか「欠落」が伴うものです。

なお、この長すぎる名前は、本当は「ハンス・シュミット」だったようです。
しかし、この「ハンス・シュミット」というのは「鍛冶屋のヨハネス」という意味になるそうで、ドイツでは「鈴木一郎」くらいにありふれた名前だそうです。そこで、母方の「イッセルシュテット」を後につけることで少しでも印象を強くしようとして「ハンス・シュミット=イッセルシュテット(以下、あまりにも長いので『イッセルシュテット)』)としたそうです。

ただ、芸風の方は、そう言う名前をめぐるちょっとしたあざとさとは対照的に「穏健」そのものです。
そして、その音楽を聞いていて、ふと思い出したことがありました。

確かに、フルトヴェングラーやクナッパーツブッシュやクレンペラーなどと言う存在は実に偉大なものでした。それは、たとえてみれば、雲海の上にその山巓を抜きんでて誇示する偉大な山々でした。そして、私たちの多くはその偉大なる高峰群を、その山塊から遠く離れた東海の島国から長きにわたって眺めていたわけです。
しかし、遠く眺めるだけではなく、やがて少なくない人々はその山塊の麓に足を運べるようになる時代がきました。そして、山麓にたどり着いてみれば、クラシック音楽という巨大な山塊の大部分はその雲の下に姿を隠していたことに気づくようになりました。

私もまた、若い頃に何度かヨーロッパに足を運ぶようになって、ヨーロッパの楽団だからと言ってどれもこれもが抜きんでて素晴らしいわけでないと言う「当たり前の事実」に気づくようになりました。しかし、その反面、小さな街にも歌劇場があり、教会では日曜日ごとにミサと称する(^^;音楽会が開かれている事実に驚かされました。
小さな村の教会でバッハのコラールを聴いたときの感動は今も深く記憶に刻み込まれています。

そして、そのような雲の下に隠れている膨大な山塊を知らずして、その上にそびえている高峰群の本当の素晴らしさを理解することができるのだろうか、と言う疑問にとらわれたものでした。

おそらく、今という時代からこのイッセルシュテットという山塊を眺めれば、それは時々、その頂きを垣間見ることができるような山かもしれません。特に、戦後は北ドイツ放送交響楽団の事実上の音楽監督としての仕事に全力を傾注して、セッションでの録音には熱心でなかったために、有名な割には録音には恵まれていません。
おそらく、イッセルシュテットと言って真っ先に思い浮かぶのは、1965年から68年にかけて行われたベートーベンの交響曲全集、とりわけ第8番の録音でしょう。オケはウィーン・フィルハーモニー管弦楽団でした。
しかし、それ以外で彼の録音を尋ねられて、ぐに答えることが出来る人は多くないように思われます。

その意味で、彼は雲海の上にかすかにその頂きをつきだしている存在なのです。
しかし、それだからこそ、そう言う雲海の下に没してしまっている彼の録音を聞き直してみると、その雲の下に隠れているクラシック音楽という山塊の巨大さを気づかせてくれるように思うのです。

彼の芸術には「オレがオレが」という灰汁の強い自己主張は全くありません。彼の録音の何を聞いても、そこにはきちんと整理された過不足のない表現が実現されています。
かといって、その過不足のなさは、戦後のクラシック音楽を覆った「新即物主義」に基づいた「原点に忠実な演奏」というのとも根本的に違います。もちろん、彼の演奏はスコアを恣意的に弄るような古いタイプの演奏とは遠い位置にありますが、それでいながら、長い歴史を持つクラシック音楽という世界に受け継がれてきた「伝統」をしっかりとふまえた「穏健さ」が貫かれているのです。

それは、一見すれば穏やかな微笑みに満ちているようでいながら、その穏やかさの底に伝統を守る強靱な意志と頑固さが貫かれています。
そして、そのような強い意志と頑固さこそが、もしかしたらフルトヴェングラーとの出会いを経た後のメニューヒンをすくませたものかもしれません。

頂きを仰ぎ見ることは大切なことで。
しかし、頂きだけを眺めていたのでは見落ちしてしまうこともたくさんあると言うことは肝に銘じておいた方がいいようです。

とは言え、例えばこのブラームスのハンガリー舞曲集、確かに魅力的な表現であることは否定しないのですが、こういう作品の性格もあるので、こういう穏健な表現スタイルで21曲を連続で聞き通すといささか退屈してくるのも事実です。
そして、その事実に気づいてこそ、この穏やかに隠された強靱な意志と頑固さを突き破っていこうという新しい意志と頑固さが生まれてくる意味と必然性が始めて理解できるような気がします。

よせられたコメント

2017-01-29:コタロー


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