クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:交響曲第3番 変ホ長調 「エロイカ(英雄)」 作品55

マルコム・サージェント指揮 BBC交響楽団 1961年5月1~2日録音



Beethoven:Symphony No.3 in F flat major Op.55 "Eroica" [1.Allegro con brio]

Beethoven:Symphony No.3 in F flat major Op.55 "Eroica" [2.Marcia funebre. Adagio assai]

Beethoven:Symphony No.3 in F flat major Op.55 "Eroica" [3.Scherzo. Allegro vivace ? Trio]

Beethoven:Symphony No.3 in F flat major Op.55 "Eroica" [4.Finale. Allegro molto]


音楽史における最大の奇跡

今日のコンサートプログラムにおいて「交響曲」というジャンルはそのもっとも重要なポジションを占めています。しかし、この音楽形式が誕生のはじめからそのような地位を占めていたわけではありません。
 浅学にして、その歴史を詳細につづる力はありませんが、ハイドンがその様式を確立し、モーツァルトがそれを受け継ぎ、ベートーベンが完成させたといって大きな間違いはないでしょう。

 特に重要なのが、この「エロイカ」と呼ばれるベートーベンの第3交響曲です。
 ハイリゲンシュタットの遺書とセットになって語られることが多い作品です。人生における危機的状況をくぐり抜けた一人の男が、そこで味わった人生の重みをすべて投げ込んだ音楽となっています。

 ハイドンからモーツァルト、そしてベートーベンの1,2番の交響曲を概観してみると、そこには着実な連続性をみることができます。たとえば、ベートーベンの第1交響曲を聞けば、それは疑いもなくモーツァルトのジュピターの後継者であることを誰もが納得できます。
 そして第2交響曲は1番をさらに発展させた立派な交響曲であることに異論はないでしょう。

 ところが、このエロイカが第2交響曲を継承させ発展させたものかと問われれば躊躇せざるを得ません。それほどまでに、この二つの間には大きな溝が横たわっています。

 エロイカにおいては、形式や様式というものは二次的な意味しか与えられていません。優先されているのは、そこで表現されるべき「人間的真実」であり、その目的のためにはいかなる表現方法も辞さないという確固たる姿勢が貫かれています。
 たとえば、第2楽章の中間部で鳴り響くトランペットの音は、当時の聴衆には何かの間違いとしか思えなかったようです。第1、第2というすばらしい「傑作」を書き上げたベートーベンが、どうして急にこんな「へんてこりんな音楽」を書いたのかと訝ったという話も伝わっています。

 それほどまでに、この作品は時代の常識を突き抜けていました。
 しかし、この飛躍によってこそ、交響曲がクラシック音楽における最も重要な音楽形式の一つとなりました。いや、それどことろか、クラシック音楽という芸術そのものを新しい時代へと飛躍させました。
 事物というものは着実な積み重ねと前進だけで壁を突破するのではなく、時にこのような劇的な飛躍によって新しい局面が切り開かれるものだという事を改めて確認させてくれます。

 その事を思えば、エロイカこそが交響曲というジャンルにおける最高の作品であり、それどころか、クラシック音楽という芸術分野における最高の作品であることをユング君は確信しています。それも、「One of the Best」ではなく、「The Best」であると確信しているユング君です。

行儀良く端正な音楽


トルトゥリエのエルガー:チェロ協奏曲を聴き直してみて、指揮者がサージェントであることに気づき、懐かしい思いがしました。

高校の同じクラスにクラシック音楽に入れ込んでいる変な奴がいて、カセットデッキを持ち込んでは「これを聴け!」と押しつけるのでみんなから恐れられていたのですが(^^;、何故か私とは波長があったので、その「これを聴け!」という音楽を結構面白く聴いていました。
その友人が「これを聴け!」と押しつけていたのがシベリウスでした。そして、彼はいかにシベリウスという作曲家が偉大な存在であるかを熱っぽく語っていました。

ですから、なけなしの小遣いをはたいてカラヤンの悲愴を買った次に選んだのがシベリウスだったわけです。
ただし、彼が「聴け!」というシベリウスの音楽はいまいちよく分かんないので、できれば一番安いのにしようと言うことで選んだのがニューセラフィムシリーズのサージェント盤だったわけです。

サージェントという人は存命中は結構ブイブイ言わせた人で人気もあり、ビートルズの録音現場にも「ハロー!!」等と訪ねていったりもして話題にもなったりしました。しかし、67年になくなってしまうと急激に認知度は下がってしまい、私がクラシック音楽などというものを聞き始めた70年代中頃には「セラフィムシリーズ」という廉価版の看板指揮者になっていました。そして、世がLPレコードからCDへと移行しはじめた80年代にはいると、本当に過去の人になってしまいました。

さて、どうしてそんな事になったのかと不思議にも思ったので、EMIを中心として残された彼の録音をある程度まとめて聞き直してみました。そして、その結果としてある事実に気づかされました。

サージェントという人はイギリスの作曲家の良き理解者であり支持者でもありました。エルガー、ホルスト、ブリテン等というそれなりに認知度のある作曲家だけでなく、ウォルトンやヴォーン=ウィリアムズ、さらにはアフリカ系イギリス人のサミュエル・コールリッジ=テイラー等の作品も熱心に取り上げています。
また、合唱の指揮者としてスタートしたこともあって、合唱を伴った作品の扱いは得意としていて、メンデルスゾーンの「エリヤ」、ヘンデルの「メサイア」という定番だけでなく、エルガーも「ゲロンティアスの夢」やウォルトンの「ベルシャザールの饗宴」などと言うレアな作品もよく取り上げています。
そして、そう言うレアではあるけれども、彼にとっては「手の内」に入った音楽では、非常にアグレッシブな演奏を聴かせてくれます。言葉をかえれば、自信満々に「自分の音楽」を展開してくれていて聞きごたえは十分にあります。

ところが、それが一転してベートーベンやシューベルトみたいな、いわゆるドイツ・オーストリア系の正統派の音楽になると、急に行儀良くなるのです。例えば、1960年に録音したベートーベンの3番「エロイカ」やシューベルトの「未完成」になると、いわゆる楷書風のさらっとした音楽になってしまっています。それを趣味の良い外連味のない音楽と評することも出来るのでしょうが、こういう二つの顔を見せつけられると「内弁慶」という言葉が頭の上を過ぎらざるを得ません。
そして、クラシック音楽の世界というのは、辺境部分でどんなに素晴らしい演奏を聴かせても、ドイツ・オーストリア系の正統派の部分でそれなりの実績を残さないと、早晩その存在は忘れ去られるという「悲しい現実」に行き当たることになるのです。

もちろん、その事の是非、または価値判断は保留しますが、この事実に思い当たったときに思い浮かんだ顔が「OZAWA」でした。
もちろん、彼に対する評価が今後どうなっていき、どのような形で定着していくのかは私如きが云々するよう話ではありません。しかし、彼のディスコグラフィを眺めてみれば、ベートーベンの欠落はあまりに大きいと言わざるを得ません。彼もまた、時を経ればサージェントのような存在になっていく可能性は低くはないと思います。

よせられたコメント

2015-09-29:ジェネシス


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