ハイドン:交響曲第104番 ニ長調 「ロンドン」
カラヤン指揮 ウィーンフィル 1959年3月27日&28日録音
Haydn:交響曲第104番 ニ長調 「ロンドン」 「第1楽章」
Haydn:交響曲第104番 ニ長調 「ロンドン」 「第2楽章」
Haydn:交響曲第104番 ニ長調 「ロンドン」 「第3楽章」
Haydn:交響曲第104番 ニ長調 「ロンドン」 「第4楽章」
ハイドン最後の交響曲
この作品を音楽史の中においてみると、モーツァルトは既に全作品を書き終えて(?)この世を去っています。
ベートーベンはと言えば、ウィーンでの初めての演奏会を成功させ音楽家としての地歩を築き上げていたところでした。そしてその数年後に不滅の9曲と呼ばれる偉大な交響曲の第1番を世に送り出すことになります。
ハイドンは交響曲の父とばれ、その生涯に100をこえる作品を書き上げてこの音楽形式をクラシック音楽における重要なジャンルとして確立した人物です。
しかし、その彼の生涯の中を足早に駆け抜けていったモーツァルトは、この音楽形式をハイドン自身が想像もしなかったような地点にまで引き上げてしまいました。さらに、彼の跡を継いだベートーベンによって、それはクラシック音楽の王者(?)ともいうべき地位にまで引き上げてしまいました。
そう言う音楽史に中においてみると、ハイドンの交響曲が見劣りして見えることは否定できません。
しかし、これはベートーベンの1番にまっすぐにつながっていく作品です。音楽職人ハイドンがその持てるスキルの全てをつぎ込んで、次にくる新しい時代を切り開いた作品です。
私はその事をクレンペラーによる演奏を聞いてハッキリと教えられました。
モーツァルトのジュピターはやはり天才が生みだした異形の作品、交響曲の系譜においてベートーベンにつながっていったのはハイドンであることを確認させてくれます。
カラヤンという音楽家が持っている美質が最も自然に表現されている「優れもの」
ウィーンフィルとコンビを組んだ一連のデッカ録音は今ではすっかり影が薄くなってしまいました。しかし、彼が1959年にまとめて録音した3つの音楽(ベトーベンの7番、ハイドンのロンドン交響曲、そしてモーツァルトのト短調交響曲)をこうして聴き直してみると、「意外といいね」というレベルではなく、もしかしたらカラヤンという音楽家が持っている美質が最も自然に表現されている「優れもの」ではないかと思うようになりました。
カラヤンという人は、例えばクレンペラーのように、もしくはヴァントのように、煉瓦を一つずつ丹念に積み上げていって巨大な構築物を作り上げるような音楽家ではありません。そうではなくて、横への流れを重視し、明確な意志を持ってクッキリとメロディラインを描き出すことに重きを置いた音楽家でした。
そして、この国の通のクラシック音楽ファンはどういう訳か、、前者のようなスタンスは後者のスタンスにに対して優位性を持ったものとしてきました。
口の悪い私の友人などは、「カラヤンの音楽って何を聞いても映画音楽みたい」と宣っていたものでした。
しかし、そう言う理解の仕方には大きな間違いがあることに私も最近になって気づくようになりました。
確かにカラヤンの音楽は気持ちよく横へ横へと流れていきます。その意味では、耳あたりのいい映画音楽のように聞こえるのかもしれません。
しかし、聞く耳をしっかり持っていれば、メロディラインが横へ横へと気持ちよく流れていっても、そこで鳴り響くオケの音は決して映画音楽のように薄っぺらいものでないことは容易に聞き取れるはずです。映画音楽が一般的に薄っぺらく聞こえるのは、耳に届きやすい主旋律はしっかり書き込んでいても、それを本当に魅力ある響きへと変えていく内声部がおざなりにしか書かれていないことが原因です。
そして、例え響きを魅力あるものに変える内声部がしっかりと書き込まれていても、主旋律にしか耳がいかない凡庸な指揮者の棒だと、それもまた薄っぺらい音楽になってしまうことも周知の事実です。
当然の事ですが、カラヤンはそのような凡庸な音楽家ではありません。
カラヤンの耳は全ての声部に対してコントロールを怠りませんし、それらの声部を極めてバランスよく配置していく能力には驚かされます。そして、彼の真骨頂は、強靱な集中力でそのような絶妙なバランスを保ちながら、確固とした意志でぐいぐいと旋律線を描き出していく「強さ」を持っていることです。
それは、例えてみれば、極めてコントロールしにくいレーシングカーで複雑な曲線路を勇気を持って鮮やかに走り抜けるようなものかもしれません。彼は、目の前の曲線路の中に己が走り抜けるべきラインをしっかりと設定すると、そのラインに躊躇うことなく突っ込んでいきます。カーブの入り口で様子を見ながら少しずつハンドルを切るというような、凡庸な指揮者がやるよう不細工なことは決してしないのです。
ベートーベンの7番の第2楽章などは、そう言うカラヤンの美質が良く出た音楽ですし、ハイドンのロンドン交響曲も、こんなにもメロディラインが美しい音楽だったのか!と驚かされます。
モーツァルトト短調シンフォニーも本当に流麗な作りですが、ただし、その流麗さが過ぎて鼻につく人もいるかもしれません。(それって、あんたのことでしょう^^;)
そして、もう一つ特筆すべき事は、このウィーンフィルとの録音ではそのようなカラヤンの美質が極めて自然な形で実現していることです。おそらく、カラヤンが目指そうとした音楽の形とウィーンフィルの本能が上手くマッチングしているのでしょう。ここには、後のカラヤン美学全開のベルリンフィルとの音楽のような「人工臭」が全くありません。
もちろん、カラヤンの強烈な個性とそれを現実のものにするベルリンフィルの高度の合奏能力、とりわけ弦楽器群の優れた響きによって実現された響きは、20世紀のオーケストラ美学の一つの到達点であったことは否定しません。しかし、その磨き抜かれた響きのあまりの完成度の高さゆえに、そして横への流れがあまりにも重視されすぎることでリズム感が希薄になる部分もあったりして、結果として作り物めいた違和感を感じる場面があったことも否定できません。
それと比べると、このウィーンフィルとの録音は、カラヤンらしい美しさは堪能できるし、その美しさには一切の作り物めいた不自然さは感じられません。ですから、カラヤンという音楽家が持っている美質が最も自然に表現されている「優れもの」と感じたのです。
これはもう、残りのデッカ録音も全てアップしないといけませんね。
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