ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ストコフスキー指揮 ストコフスキー・シンフォニー・オーケストラ (fl)ジュリアス・ベイカー 1957年2月5&8日録音
Debussy:牧神の午後への前奏曲
苦手なドビュッシーの中でこれだけは大好きでした。
ドビュッシーは苦手だ・・・、と言うことはあちこちで書いてきました。ピアニストが誰だったかは忘れましたが、オール・ドビュッシーのプログラムで、コンサートが始まると同時に爆睡してしまったことがあるほどです。あの茫漠としたつかまえどころのない音楽が私の体質には合わないと言うことなのでしょう。
しかし、そんな中で、なぜかこの「牧神の午後への前奏曲」だけは若い頃から大好きでした。
何とも言えない「カッタルーイ」雰囲気がぬるま湯に浸かっているような気分の良さを与えてくれるのです。言葉をかえれば、いつもはつかまえどころがないと感じるあの茫漠たる雰囲気が、この作品でははぐれ雲になって漂っているような心地よさとして体に染みこんでくるのです。
我ながら、実に不思議な話です。
何故だろう?と自分の心の中を探ってみて、ふと気づいたのは、響きは「茫漠」としていても、音楽全体の構成はそれなりに筋が通っているように聞こえることです。響きも茫漠、形式も茫漠ではつかまえどころがないのですが、この作品では茫漠たる響きで夢のような世界を語っているという「形式感」を感じ取れる事に気づかされました。
それは、この作品がロマン派の音楽から離陸する分岐点に位置していることが大きな理由なのでしょう。
牧神以前、以後とよく言われるように、この作品はロマン派に別れを告げて、20世紀の新しい音楽世界を切り開いた作品として位置づけられます。そして、それ故に冒頭のフルートの響きに代表されるような「革新性」に話が集中するのですが、逆から見れば、まだまだロマン派のしっぽが切れていないと言うことも言えます。そして、その切れていないしっぽの故に、ドビュッシーが苦手な人間にもこの作品を素直に受け入れられる素地になっているのかもしれません。それは、調性のある音楽に安心感を感じる古い人間にとっての「碇」みたいなものだったのかもしれません。
グラマラスなドビュッシー
「ドビュッシーは苦手」と、あちこちでふれてまわっています。その最大の原因は、おそらく、「軽さ」にあるのでしょう。その茫漠たる響きの中に浮かび上がるカルさの世界がどうにもこうにも私の好みと合わないのでしょう。
ですから、ドビュッシーが本当に好きな人からすれば避けて通りたいこういう演奏が、私にとってはかえって好ましく思えてしまいます。
このストコフスキーによるドビュッシーは、ひと言で言えば「グラマラスなドビュッシー」です。
例えば、ジュリアス・ベイカーがフルートソロを担当している「牧神の午後」などは、その太めの音色がドビュッシーの「軽さ」を蹴散らしてくれます。そして、それを支えるストコフスキーの棒も濃厚な響きで、この上もなく官能的な世界を描き出してくれます。
そして、そう言うスタイルは「月の光」でも同じです。
しかしなのです、考えてみればドビュッシーのお里はワーグナーです。
もちろん、「牧神の午後への前奏曲」や「ベルがマスク組曲」が生み出されたのは、二度にわたるバイロイト訪問でワーグナーとは異なる世界に踏み出す決意をした後ですから、そこにワーグナーの残滓を見いだすのはお門違いなのは分かっています。しかし、ストコフスキーとベイカーという芸人二人の手になると、そんな音楽史的意味づけなどはどこかに吹っ飛んでしまって、いとも容易く万人受けするスタイルに変わってしまうのが実に面白いのです。
そして、こういう演奏を聴くと、「やっぱり、みんな本当はドビュッシーは苦手なんだな」と一人安心をしたり、納得したりしてしまいます。
とはいえ、決してスタンダードな演奏ではないので、こう言うのでファーストコンタクトするのは好ましくないでしょう。そのあたりが、難しいところです。
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