ベートーベン:交響曲第8番 ヘ長調 作品93
コンヴィチュニー指揮 ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団 1959年~1961年録音
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第1楽章」
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第2楽章」
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第3楽章」
Beethoven:交響曲第8番 ヘ長調 作品93 「第4楽章」
谷間に咲く花、なんて言わないでください。
初期の1番・2番をのぞけば、もっとも影が薄いのがこの8番の交響曲です。どうも大曲にはさまれると分が悪いようで、4番の交響曲にもにたようなことがいえます。
しかし、4番の方は、カルロス・クライバーによるすばらしい演奏によって、その真価が多くの人に知られるようになりました。それだけが原因とは思いませんが、最近ではけっこうな人気曲になっています。
たしかに、第一楽章の瞑想的な序奏部分から、第1主題が一気にはじけ出すところなど、もっと早くから人気が出ても不思議でない華やかな要素をもっています。
それに比べると、8番は地味なだけにますます影の薄さが目立ちます。
おまけに、交響曲の世界で8番という数字は、大曲、人気曲が多い数字です。
マーラーの8番は「千人の交響曲」というとんでもない大編成の曲です。
ブルックナーの8番についてはなんの説明もいりません。
シューベルトやドヴォルザークの8番は、ともに大変な人気曲です。
8番という数字は野球にたとえれば、3番、4番バッターに匹敵するようなスター選手が並んでいます。そんな中で、ベートーベンの8番はその番号通りの8番バッターです。これで守備位置がライトだったら最低です。
しかし、ユング君の見るところ、彼は「8番、ライト」ではなく、守備の要であるショートかセカンドを守っているようです。
確かに、野球チーム「ベートーベン」を代表するスター選手ではありませんが、玄人をうならせる渋いプレーを確実にこなす「いぶし銀」の選手であることは間違いありません。
急に話がシビアになりますが、この作品の真価は、リズム動機による交響曲の構築という命題に対する、もう一つの解答だと言う点にあります。
もちろん、第1の解答は7番の交響曲ですが、この8番もそれに劣らぬすばらしい解答となっています。ただし、7番がこの上もなく華やかな解答だったのに対して、8番は分かる人にしか分からないと言う玄人好みの作品になっているところに、両者の違いがあります。
そして、「スター指揮者」と呼ばれるような人よりは、いわゆる「玄人好みの指揮者」の方が、この曲ですばらしい演奏を聞かせてくれると言うのも興味深い事実です。
そして、そう言う人の演奏でこの8番を聞くと、決してこの曲が「小粋でしゃれた交響曲」などではなく、疑いもなく後期のベートーベンを代表する堂々たるシンフォニーであることに気づかせてくれます。
大物に互しても存在価値のある全集
振り返ってみれば、1950年代の後半から1960年代の初頭、言葉をかえればモノラル録音からステレオ録音へと移行していった時期というのは、とてつもなく凄い時代だったと言うことに気づかされます。
例えば、ベートーベンの交響曲全集という、このクラシック音楽の王道を概観するだけでも、これだけの録音がリリースされています。
- クリュイタンス指揮 ベルリンフィル 1957年~1961年録音
- クレンペラー指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1957年~1961年録音
- シューリヒト指揮 パリ音楽院管弦楽団 1957年~1958年録音(これのみモノラル録音)
- ワルター指揮 コロンビア交響楽団 1958年~1959年録音
- コンヴィチュニー ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管 1959年~1961年録音
- レイホヴィッツ指揮 ロイヤルフィル 1961年録音
- クリップス指揮 ロンドン交響楽団 1961年録音
- カラヤン指揮 ベルリンフィル 1961年~1962年録音
調べれば他にもあるのかもしれませんが、わずか5年間の間にこれだけも多様性のあるベートーベン像が提供されたというのは壮観というしかありません。
明晰さの極みともいうべきクリュイタンス盤、巨大な構築物として偉容を示したクレンペラー盤、ピリオド楽器による演奏でさえ裸足で逃げ出していきそうな快速演奏のレイホヴィッツ盤、そこまでじゃないけれど若々しくてスピーディーなベートーベンを提起したカラヤン盤・・・等々です。
そう言う多様性の中に、この「コンヴィチュニー&ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管」の演奏を置いてみると、どのように映るのでしょうか。
パッと聞いただけでは、いささか特徴に乏しい演奏のように聞こえます。言葉をかえれば、聞き手の耳をさっと捕まえてしまうような魅力には乏しいかもしれません。
確かに、こうして並べてみると、クリップスやワルターの演奏はいささか分が悪いことは否めません。シューリヒトも、かなり状態の悪いモノラル録音ということで、「ステンドグラスのようなベートーヴェン像」もいささかくすみ気味なのが残念です。
しかし、コンヴィチュニーの録音は、聞き手の耳をすぐに虜にするような愛想の良さや声高な主張はありません。しかし、結局は最後まで聞かされて、その後には大きな満足感が残るという「大人の演奏」に仕上がっています。
もしかしたら、「今日はベートーベンでも聴いてみようか・・・!」と思い立った時に、結局は手が伸びる回数が一番多くなるという録音かもしれません。
俗な言い方をすれば、噛めば噛むほど味の出る演奏です。
では、その味とはどんなものでしょう?
まず、すぐに気がつくのは、今ではなかなか聞くことのできなくなったふくよかで暖かみのあるオケの響きの素晴らしさです。きらきらした華やかさとは正反対の厚みのある響きです。弦もいいですが、特に木管群の響きが魅力的です。
昔のヨーロッパのオケというのは、みんなこんな響きを持っていたのですが、いつの間にか華やかであってもどこかメタリックな感じの響きに変化してしまいました。
確かに、昨今のオケと比べれば機能的とは言えないのでしょうが、それでもこの生成りのザラッとしたような響きは魅力的です。そして、馬鹿ウマではないけれども、内部の見通しも良く透明感も失っていません。
まずは、これが味の一つめでしょうか。
二つめは、やはりドイツの力こぶ!
これはもう説明の必要はないでしょう。ドンと構えていて、ここぞというところではぐっと力こぶが入る演奏というのは、聞けそうでいて、現実にはなかなか聞けない音楽です。セル&クリーブランド管などが典型なのですが、グンとパワーが入っても最終的にはスタイリッシュに格好良く決まってしまうのです。もちろん、それはそれでいいのですが、時にはこういう「野蛮さ」みたいなモノが残っている演奏も聴いてみたくなります。
しかし、例えば田園の第2楽章や終楽章の牧人の歌などどを聞くと意外なほどに優しさにあふれていて驚かされたりします。
そう言えば、テンシュテットが録音した田園も同じような歌心に満ちた演奏で、最後の牧人の歌は神に呼びかけるような崇高さにあふれていたのを思い出しました。もしかしたら、東独ではベート?ベンの田園をこんな風に演奏する伝統でもあったのでしょうか。
とは言え、このコンヴィチュニーの基本は緩除楽章も「淡麗辛口」です。
お子様向きではありません。
そして最後にあげておきたいのが、隅々まで指揮者の指示が行き届いていて、まさにコンヴィチュニーという指揮者が信じるベートーヴェン像がか確固として提示されていることです。そして、その解釈が(これもまた好きな言葉ではないのですが)、この時代にまで連綿と引き継がれてきた伝統的なベートーベン像を見事なまでに具体化してくれているということです。
まあ、こういう言い方だけでは何も言っていないのに等しいのですが、一つ一つのフレーズや響きには(おそらくは劇場的な継承として伝統的に引き継がれてきたであろう)微妙なニュアンスが込められていて、この録音に向けてさぞや何度も練習を積み重ねただろうなと思わせられます。
そんなわけで、同時代の大物に混じると地味で目立たない全集ではあるのですが、内容的には充分五分に渡り合えるだけの「格」を持った録音であることは保障できます。
<追記>
昨日、コンヴィチュニーの田園をアップしたところ、「私の手持ちのCDにはPマークが63年になっています。著作権は大丈夫なのでしょうか?」という趣旨のメールをいただきました。
62年発行の「洋楽レコード総目録」によりますと、コンヴィチュニー指揮のベートーベンの交響曲は61年に全て分売で国内発売されています。そして、翌62年には全集という形でまとめてリリ?スされたようです。ですから、間違いなく2012年の段階でパブリックドメインとなっています。
それにしても、CDの発売元が満足に初出年も確定できないとは困った話です。
なお、ついでですので、どなたかレイホヴィッツの録音の初出年をご存じの方はいないでしょうか。録音は1961年の4月から6月にかけて集中的に行われたことは分かっているのですが、どう調べても「初出年」が分かりません。
この録音は、リーダーズ・ダイジェストの会員向けに頒布されたものなので、目録を探しても一切手がかりはありません。基本は会員向けの頒布なのでおそらくは61年から62年にかけて出回ったと思うのですが、どうしても裏が取れません。どこかの市会議員みたいに裏も取らずに公開するわけにもいかないので困っています。
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