ベートーベン:チェロソナタ第3番 イ長調 作品69
Vc.フルニエ グルダ(P) 1959年6月23,24日&28日録音
Beethoven:チェロソナタ第3番 イ長調 作品69 「第1楽章」
Beethoven:チェロソナタ第3番 イ長調 作品69 「第2楽章」
Beethoven:チェロソナタ第3番 イ長調 作品69 「第3楽章」
チェロの新約聖書
チェロという楽器はヴァイオリンやヴィオラと比べると独奏楽器として活躍する作品は多くはありません。例えば、モーツァルトはチェロを独奏楽器とした作品は一つも残していません。これは、チェロを飯の種にする演奏家にとってはかえすがえすも残念なことでしょう。
そんな中で、ベートーベンが5つのチェロソナタを残してくれたことは、バッハの6つの無伴奏組曲とならんで、チェリストに対する福音となっています。
また、ベートーベンのチェロソナタはベートーベンの初期に2つ、中期に1つ、そして後期に2つという具合に、その全生涯にわたって実にバランスよく作曲されたために、1番から順番に5番まで聞き通すと、ベートーベンという偉大な音楽家の歩んだ道をミニチュアを見るように俯瞰できるという「特典」がついてきます。(^^)
俗な言い方になりますが、バッハの無伴奏組曲がチェロの旧約聖書とするなら、ベートーベンのチェロソナタは新約聖書と言っていい存在です。
(1)二つのチェロソナタ 作品5
1796年にベルリンで完成されたこの二つのソナタは、プロイセン国王フリードリヒを念頭に置いて作曲されたと言われています。よく知られているように、フリードリヒはチェロの名手として知られており、この二つのソナタを献呈する事によって何らかの利益と保証を得ようとしたようです。
初演は宮廷楽団の首席チェリストだったデュポールとベートーベン自身によって国王の前で行われました。
この二つのソナタは、明るくて快活な第1番、感傷的な第2番というように性格的には対照的ですが、ともに長大な序奏部を持っていて、そこでたっぷりとチェロに歌わせるようになっているところは、明らかにフリードリヒを意識した作りになっています。
また、至る所に華やかなピアノのパッセージが鏤められていることも、国王の前でベートーベン自身がピアニストとして演奏することを十分に意識したものだと思われます。
(2)チェロソナタ第3番 作品69
ベートーベンのチェロソナタの中では最もよく知られている作品です。傑作の森と言われるベートーベン中期を代表するソナタだといえます。第1楽章冒頭の、チェロに相応しいのびのびとしたメロディを聞くだけで思わず引き寄せられるような魅力を内包しています。
全体としてみると、チェロはかなり広い音域にわたって活躍し、とりわけ高音域を自由に駆使することによってピアノと同等に渡り合う地位を獲得しています。
この作品は、ベートーベンの支援者であったグライヘンシュタイン男爵に献呈されています。
当初、男爵にはピアノ協奏曲第4番を献呈するつもりだったのが、ルドルフ大公に献呈してしまったので、かわりにチェロの名手でもあった男爵のためにこの作品を書いたと言われています。
(3)二つのチェロソナタ 作品102
ベートーベンの後期を特徴づける幻想的な雰囲気がこの二つのソナタにもあふれています。とりわけ、第5番のソナタは第2楽章に長大なアダージョを配して、深い宗教的な感情をたたえています。
この作品は、ラズモフスキー家の弦楽四重奏団のチェロ奏者であったリンケのために書かれ、エルデーディ伯爵夫人に献呈されています。伯爵夫人はベートーベンの良き理解者であり、私生活上の煩わしい出来事に対しても良き相談相手としてあれこれと尽力してくれた人物でした。
リンケと伯爵夫人の関係については諸説があるようですが、ピアノの名手でもあった伯爵夫人がリンケとともに演奏が楽しめるようにと、夫人への感謝の意味をこめて作曲したと言われています。
才気あふれるピアノ、美しくも風格あふれるチェロ
ハイフェッツやリッチなどを集中的にアップしたので、少しチェロの響きも聞きたくなって、真っ先に選んだのがこのフルニエとグルダのコンビによる録音です。
グルダはこの時の一連の録音を思い出して、「フルニエはあらゆる点で指導者」で、「非常に多くを学んだ」と語っています。
かなりの変わり者で、エキセントリックな面ばかりが強調されるグルダがこのような謙虚な言葉を語っていたという事実にまず驚かされます。
しかし、彼は途中でジャズに転向しようとしたときも、決してクラシック音楽が嫌になったわけでなく、自分が学んできた古い伝統的な音楽を土台に新しい方向を模索しようとしたものだったと言われています。その意味では、彼は伝統的な音楽というものを根底では大切にした人だったと言えるのですから、件の発言もその延長線上で捉えればそれほど違和感はないのかもしれません。
また、フルニエのチェロは非常に包容力が大きいように聞こえます。
この録音でも、(特に一連の変奏曲では)グルダはかなり奔放に振る舞っていて、そのあふれるような才気を遺憾なく発揮しています。そして、そう言う奔放なグルダのピアノをフルニエは実に大きな構えの中で包み込んでいるように聞こえます。そして、そのチェロの響きの何という美しいこと!!
なるほど、このような演奏だったら、グルダも本当に自分というものを発揮し、さらにはこの共演によって学ぶことは多かっただろうと納得できるます。
まさに、「才気あふれるピアノ、美しくも風格あふれるチェロ」が堪能できる録音です。
それから、こんな事を書いていて、ふと一つの光景を思い出しました。
最後の来日公演の時に、彼は「次は何を弾こうか?」と聴衆に語りかけました。すると、客席からは咄嗟に「アリア!!」という声がかえってきます。グルダは、「まさか、僕の?そんなのでいいの。」とこたえると客席は大拍手、そして彼は静かに「グルダのアリア」を演奏し始めました。
「そんなのでいいの。」という言葉は決して謙遜ではなく、彼の人柄の真実があらわれたものなのでしょう。
「フルニエはあらゆる点で指導者」で、「非常に多くを学んだ」と言う言葉も、そう言う彼の人柄の真実を伝えるエピソードなのでしょう。
よせられたコメント
2013-07-05:Hide
- フォイアマン、ロストロポーヴィッチ、ヨーヨーマの演奏を何十年も聞き込んでいるため、フルニエは随所に恣意的な表情付けを感じてしまうのだが、実に立派な演奏である。グルダのピアノは本当に素晴らしい。このソナタのピアノ演奏としてはリヒテルに次ぎトップクラスであろう。録音も古さを感じさせない美しい音質で優れている。この様な名演の名録音がパブリックドメインで自由に聴けることは喜ばしいとともに、今後の音楽業界はどうなるのだろうと不安を感じる。
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