クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:パガニーニの主題による変奏曲 イ短調 作品35

(P)カッチェン 1958年録音





Brahms:パガニーニの主題による変奏曲 イ短調 作品35 Book1

Brahms:パガニーニの主題による変奏曲 イ短調 作品35 Book2


とんでもない難曲・・・怪我するぞ!!

ピアノをやっている人に聞くと、この作品を真っ正直に練習していると怪我をするそうです。
もちろん、難曲と言われる作品は数多くあるのですが、その中でもこの作品の運指はかなりひねくれているそうで、それをそのまま真面目練習していると腱鞘炎になること請け合い・・・らしいです。

この作品は、音楽的な内容よりは技巧そのものに焦点を絞ってとことんやってみたらどうなるかと言う興味で作ったとブラームス自身も語っています。そして、そのきっかけを作ったのはタウジッヒという優れた技巧を持ったピアニストとの出会いだったと伝えられています。
タウジッヒはブラームスに対してパガニーニの主題を使った華やか変奏曲を書かないかと強くすすめたようで、ブラームス自身もリストに代表される華やかなピアノ曲に興味もあったようで、その結果としてこんな作品が出来上がったようなのです。その大変さは、こちらのサイトあたりを見ていただければよく分かるのではないでしょうか。

なお、この変奏曲は14の変奏ずつ二冊にまとめられていますから、合計で28の変奏から成り立っています。
これを、まとめて演奏すべきか、それともバラバラに演奏してもよいものかと悩んだピアニストが、ある日直接ブラームスにたずねたそうです。するとブラームスは「第1冊を演奏し終わった後に少しだけ休みなさい。それで、観客が満足しないようだったら2冊目を演奏しなさい」と答えたそうです。・・・もちろん、これはブラームスらしいひねくれた冗談です。

早世のピアニスト


カッチェンと言っても、今ではそれ誰?と言う方も多いのではないでしょうか。ですから、今回は簡単にこの早世のピアニストについて紹介しておきます。

彼は音楽的にはサラブレッドとも言うべき環境の中で育ちました。一族の大部分が音楽の先生や演奏家であり、弁護士だった父もアマチュアの域を超えるほどのヴァイオリニストだったそうです。そんな環境の中で、ピアニストだった祖母がカッチェンにピアノを教え、音楽院の先生だった祖父が理論を教えたそうです。
おかげで、わずか10歳でモーツァルトのピアノ協奏曲第20番を演奏会で弾いてデビューするという早熟の天才でした。

まあ、ここまではこの世界ではよくある話です。凄いのはここからです。
弁護士だったカッチェンの父は正規の教育をきちんを受けるべきだという信念を持っていたようで、彼はその父の信念に沿って音楽学校には進まず、普通の高校からHaverford Collegeへ進学します。専攻は哲学と英米文学だったようで、彼はこのカレッジの4年の過程を3年で終えて、なおかつ首席だったそうです。当然その間はピアニストとしての活動は一切行わなかったのですが、「知的好奇心を育ててくれたことで、レパートリーとしてより精神的な面でチャレンジングな作品への関心を持つようになった」と彼は肯定的に語っています。

また、子供時代のカッチェンは水泳選手や卓球選手として活躍し、家でピアノの練習をしていないときは庭で野球をするのが大好きだったそうです。昨今のステージママが聞けば卒倒しそうな話ですが、彼は平気でボール運動を楽しんでいたようです。
このことが彼の常人とは思えないパワフルな演奏活動の基礎を築いたと言えそうです。

つまり、カッチェンとはどんなピアニストだったのかと聞かれれば、「知的なブルドーザー」と言えそうなのです。

彼の音楽に対するアプローチは感性よりは理詰めの知的な構成を特徴としていました。しかし、そう言うアプローチから想像されるようなか弱さは微塵もなかったのがカッチェンというピアニストの特徴でした。タッチは力強くクリアで、音量もたっぷりある聞き映えのするピアニストだったようです。
さらに凄いのはそのスタミナで、彼は1日12時間の練習を平然と続けたそうです。
コンサートにおいてもベートーヴェンの第3番にラフマニノフの第2番、さらにブラームスの第2番の3つのピアノ協奏曲を一気に演奏したり、シューベルトのピアノソナタ第21番、ベートーヴェンのディアベリ変奏曲を弾いた後でアンコールとしてベートーヴェンの熱情ソナタ全楽章を演奏する・・・なんて言うことをちょくちょくやったようです。
聴衆は大喜びか、吐き気がしたかのどちらかでしょうが、まあすさまじいスタミナです。

そんな超人ピアニストだったカッチェンがどうして記憶の彼方に消えようとしているのかと言えば、おそらくはそう言うハードワークが祟ったのでしょう、わずか42歳で肺ガンのためにこの世を去ったのです。
ある人は、そのバイタリティに富み陽気な42年の人生を振り返って「カッチェンの限界を知らない興味と活力と昼夜の別ない生活は、ボードレールのように、1度の人生でその3倍の人生を生きたということをまさに表している。彼が4月に亡くなった時、カッチェンは42歳ではなく、126歳だったんだ。」と語ったほどです。
歴史にイフはありませんが、彼がもう少し長く活動を続ける事が出来ていれば、ピアニスト業界の絵地図も随分変わったものになったことでしょう。

なお、ここで紹介している二つのブラームスの変奏曲は、そんなカッチェンの特徴がもっともよく出ている優れた演奏だと思います。彼は60年代の初めにももう一度この二つの変奏曲を録音していますが、どちらも優れた演奏であり、今もってこの作品の一つのスタンダードとしての位置を占めています。

よせられたコメント

2010-12-06:yoshimi


2012-10-02:horowitz


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