ブラームス:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 変ロ長調 作品24
(P)カッチェン 1958年録音
Brahms:ヘンデルの主題による変奏曲とフーガ 変ロ長調 作品24
ブラームスの自信作・・・のようです。
ブラームスは「変奏曲」という形式が好きだったようで、数多くの変奏曲を手がけています。そんな数ある変奏曲のなかで一番有名なのは言うまでもなく、オーケストラ用に書かれたハイドンの主題による変奏曲でしょう。そして、ピアノ独奏用の変奏曲としてはこのヘンデルの主題による変奏曲とフーガがもっとも親しまれているのではないでしょうか。
世間的には、パガニーニの主題による変奏曲と並んでブラームスのピアノ変奏曲の双璧をなす作品とされ、パガニーニの方は技巧の極致を追求し、ヘンデルの方は音楽的内容の極致を追求したなどと書かれています。
しかし、聞いてみれば、どちらもエネルギッシュで、華やかで、聴き応え満点の作品であり、規模的にも雄大です。そして、若きブラームスのあふれるようなイマジネーションと、それをしっかりとした形に仕上げていく熟練の職人技が感じ取れて、実に素敵です。
ブラームスと言えば一般的には地味で渋いというのが通り相場なのですが、あれはある程度年を食ってからの話です。若い頃の作品はこの変奏曲に代表されるような華やかさのある作品が主流です。晩年の小品もいいですが、聞き手の方もあまり老け込まないように、たまにはこういう作品を聞くのもいいでしょう。
ちなみに、この作品は1861年に作られたもので、彼はクララに宛てて「あなたの誕生日のために、あなたがこれまで聞いたことがないような変奏曲を作りました」と書き送っているそうです。ブラームスにとってもこの作品にはかなりの自信があったようです。
早世のピアニスト
カッチェンと言っても、今ではそれ誰?と言う方も多いのではないでしょうか。ですから、今回は簡単にこの早世のピアニストについて紹介しておきます。
彼は音楽的にはサラブレッドとも言うべき環境の中で育ちました。一族の大部分が音楽の先生や演奏家であり、弁護士だった父もアマチュアの域を超えるほどのヴァイオリニストだったそうです。そんな環境の中で、ピアニストだった祖母がカッチェンにピアノを教え、音楽院の先生だった祖父が理論を教えたそうです。
おかげで、わずか10歳でモーツァルトのピアノ協奏曲第20番を演奏会で弾いてデビューするという早熟の天才でした。
まあ、ここまではこの世界ではよくある話です。凄いのはここからです。
弁護士だったカッチェンの父は正規の教育をきちんを受けるべきだという信念を持っていたようで、彼はその父の信念に沿って音楽学校には進まず、普通の高校からHaverford Collegeへ進学します。専攻は哲学と英米文学だったようで、彼はこのカレッジの4年の過程を3年で終えて、なおかつ首席だったそうです。当然その間はピアニストとしての活動は一切行わなかったのですが、「知的好奇心を育ててくれたことで、レパートリーとしてより精神的な面でチャレンジングな作品への関心を持つようになった」と彼は肯定的に語っています。
また、子供時代のカッチェンは水泳選手や卓球選手として活躍し、家でピアノの練習をしていないときは庭で野球をするのが大好きだったそうです。昨今のステージママが聞けば卒倒しそうな話ですが、彼は平気でボール運動を楽しんでいたようです。
このことが彼の常人とは思えないパワフルな演奏活動の基礎を築いたと言えそうです。
つまり、カッチェンとはどんなピアニストだったのかと聞かれれば、「知的なブルドーザー」と言えそうなのです。
彼の音楽に対するアプローチは感性よりは理詰めの知的な構成を特徴としていました。しかし、そう言うアプローチから想像されるようなか弱さは微塵もなかったのがカッチェンというピアニストの特徴でした。タッチは力強くクリアで、音量もたっぷりある聞き映えのするピアニストだったようです。
さらに凄いのはそのスタミナで、彼は1日12時間の練習を平然と続けたそうです。
コンサートにおいてもベートーヴェンの第3番にラフマニノフの第2番、さらにブラームスの第2番の3つのピアノ協奏曲を一気に演奏したり、シューベルトのピアノソナタ第21番、ベートーヴェンのディアベリ変奏曲を弾いた後でアンコールとしてベートーヴェンの熱情ソナタ全楽章を演奏する・・・なんて言うことをちょくちょくやったようです。
聴衆は大喜びか、吐き気がしたかのどちらかでしょうが、まあすさまじいスタミナです。
そんな超人ピアニストだったカッチェンがどうして記憶の彼方に消えようとしているのかと言えば、おそらくはそう言うハードワークが祟ったのでしょう、わずか42歳で肺ガンのためにこの世を去ったのです。
ある人は、そのバイタリティに富み陽気な42年の人生を振り返って「カッチェンの限界を知らない興味と活力と昼夜の別ない生活は、ボードレールのように、1度の人生でその3倍の人生を生きたということをまさに表している。彼が4月に亡くなった時、カッチェンは42歳ではなく、126歳だったんだ。」と語ったほどです。
歴史にイフはありませんが、彼がもう少し長く活動を続ける事が出来ていれば、ピアニスト業界の絵地図も随分変わったものになったことでしょう。
なお、ここで紹介している二つのブラームスの変奏曲は、そんなカッチェンの特徴がもっともよく出ている優れた演奏だと思います。彼は60年代の初めにももう一度この二つの変奏曲を録音していますが、どちらも優れた演奏であり、今もってこの作品の一つのスタンダードとしての位置を占めています。
よせられたコメント
2010-12-23:yoshimi
- カッチェンのプロフィール、私のブログからかなり引用されてますね。
http://kimamalove.blog94.fc2.com/blog-entry-901.html
>ある人は、そのバイタリティに富み陽気な42年の人生を振り返って「カッチェンの限界を知らない興味と活力と昼夜の別ない生活は、ボードレールのように、 1度の人生でその3倍の人生を生きたということをまさに表している。彼が4月に亡くなった時、カッチェンは42歳ではなく、126歳だったんだ。」と語ったほどです。
ある人と言うのは、米国の作曲家ネッド・ローレム。カッチェンの友人です。
>当然その間はピアニストとしての活動は一切行わなかったのですが
”一切”というのは誤り。学内で定期的にリサイタルを行ってました。
演奏を聴き比べればわかりますが、明らかに一番最後(1960年代)に録音したスタジオ録音の方が優れています。
特に58年録音のパガニーニ変奏曲はテクニカルな面でキレが悪いですね。
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