モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 K364
Vn.ハイフェッツ Va.プリムローズ ソロモン指揮 RCA交響楽団 1956年10月2日録音
Mozart:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364 「第1楽章」
Mozart:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364 「第2楽章」
Mozart:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調 K364 「第3楽章」
痛切なる青春の音楽
私が初めてウィーンとザルツブルグを訪れたのは1992年のことで、ちょうどその前の年はモーツァルトの没後200年という事で大変な盛り上がりをみせた後でした。とはいっても、未だに町のあちこちにその「余熱」のようなものがくすぶっているようで、いまさらながらモーツァルトいう存在の大きさを実感させられました。
さて、その没後200年の行事の中で、非常に印象に残っているシーンがあります。それは、ヨーロッパで制作されたモーツァルトの伝記ドラマだったと思うのですが、若きモーツァルトが失意の底で野良犬のように夜のウィーンをさまよい歩くシーンです。そこにかぶさるように流れてきた協奏交響曲の第2楽章の冒頭のメロディがこのシーンに見事なまでにマッチングしていました。
ドラマのBGMというのは安直に選択されることが多くて邪魔にしかならないことの方が多いのですが、その時ばかりは若きモーツァルトの痛切なまでの悲しみを見事に表現していて深く心に刻み込まれたシーンでした。
ところが、一度聞けば絶対に忘れないほどに魅力的なメロディなのに、そのメロディは楽章の冒頭に姿を現すだけで、その後は二度と姿を見せないことに恥ずかしながら最近になって気がつきました。
似たような形に変形されては何度も姿を現すのですが、あのメロディは完全な形では二度と姿を現さないのです。
もったいないといえばこれほどもったいない話はありません。しかし、その「奥ゆかしさ」というか「もどかしさ」がこの作品にいいようのない陰影をあたえているようです。
冒頭の部分で愛しき人の面影をしっかりと刻み込んでおいて、あとはその面影を求めて聞き手をさまよい歩かせるような風情です。そして、時々その面影に似た人を見かけるのですが、それは似てはいてもいつも別人なのです。そして、音楽はその面影に二度と巡り会えないままに終わりを迎えます。
いかにモーツァルトといえども、青春というものがもつ悲しみをこれほどまでに甘く、そして痛切にえがききった作品はそうあるものではありません。
クールビューティー
いやぁ、驚いた。
何の気なしに聞き始めたのに、その素晴らしさにしばし呆然とさせられてしまいました。
元々、ハイフェッツ→モーツァルトというのがピントこないので全く期待していなかったのです。しかし、つまらぬ先入観というのは、いつの時にも害あって利のないことを改めて教えられました。
そして、これほどの卓越した録音であるにもかかわらず、世間ではあまり取り上げられることのないことに不思議さを感じました。
おそらく、モーツァルトをこのように演奏することにかつては大いに違和感があったのだろうと思います。しかし、いわゆる古楽器による演奏という洗礼を受けている耳には、何の違和感も感じないはずです。その意味では。時代に先んじた演奏だった言えるのかもしれません。
この「ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲」という長い名を持つ作品は、もしかしたら数あるモーツァルトの作品の中でも一番好きな部類に入る作品かもしれません。そして、その作品のイメージは、セル命の私にとっては当然のことながら、セル&クリーブランドのコンビによる録音によって形作られています。セルのモーツァルトというのは意外と相性がいいのですが、その中でもとびきり素敵なのがこの協奏交響曲の録音でした。
セルのことを冷たい機械のような演奏するという批判に出会うたびに(最近は、こんな事を言う輩はほとんど絶滅したかに見えますが・・・)、そんならこの作品の第2楽章を聞いてみろ!と心の中で呟いたものです。
決して情緒に流されず、甘さ控えめのなから、本当のロマンティシズムがこみ上げてくるようなあの演奏のどこが機械的で冷たいのか、一度きちんと説明してみろ、などと一人ぶつぶつとぼやいていたものです。
ところが、このハイフェッツが主導した録音は、そんなセルの音楽でさえ「甘みがききすぎているよ!」と言わざるを得ないほどの、キリリとした辛口の演奏に仕上がっているじゃないですか!!
まさに、クールビューティー!!・・・の一言に尽きる演奏です。
それと、さらに驚かされたのは、録音の素晴らしさです。とうていステレオ録音黎明期の音とは思えないほどの素晴らしさです。この録音の良さがあるからこそ、ハイフェッツの切れ味抜群の造形を堪能することができます。もちろん、ハイフェッツの盟友、プリムローズのヴィオラも見事なものです。
これは、もっともっと聞かれてもいい録音だと確信します。
よせられたコメント
2022-06-25:コタロー
- この曲にはセルの名盤もありますが、ハイフェッツの甘さ控えめで達者な演奏はみごとなものですね。ただ、この作品の「肝」と言える第2楽章では、セルの方が音楽の感情移入の点で勝っていると思います。
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