バッハ:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825
カークパトリック 1959年9月17日〜19日録音
Bach:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825 「Prelude」
Bach:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825 「Allemande」
Bach:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825 「Courante」
Bach:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825 「Sarabande」
Bach:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825 「Menuett?/?」
Bach:パルティータ 第1番 変ロ長調 BWV 825 「Gigue」
バッハの鍵盤楽器による「組曲」の中では最も聞きごたえのある作品
バッハはいろいろな楽器を使った「組曲」(パルティータ)という形式でたくさんの作品を書いています。ヴァイオリンやチェロを使った無伴奏のパルティータや鍵盤楽器を使ったものです。
とりわけ、鍵盤楽器を使ったものとしては「イギリス組曲」「フランス組曲」、そしてただ単に「パルティータ」とだけ題されたものが有名です。
一般的には、「組曲」というのは様々な国の舞曲を組み合わせたものとして構成されるのですが、この最後の「パルティータ」にまで至ると、その様な「約束事」は次第に後景に追いやられ、バッハ自身の自由な独創性が前面に出てくるようになります。
たとえば、パルティータの基本的な構成は「プレリュード-アルマンド-クーラント-サラバンド-ジーグ」が一般的ですが、バッハはその構成をかなり自由に変更しています。冒頭のプレリュードの形式を以下のように、様々な形式を採用しているのもその一例です。
第1曲:Praeludium 第2曲:Sinfonia 第3曲:Fantasia 第4曲:Ouverture 第5曲:Praeambulum 第6曲:Toccata
そして、この最初の曲で作品全体の雰囲気を宣言していることもよく分かります。
それ以外にも、同じ形式が割り振られていても、実際に聞いてみると全く雰囲気が異なるというものも多くあります。
おそらくバッハの鍵盤楽器による「組曲」の中では最も聞きごたえのある作品であることは間違いありません。
第1番変ロ長調 BWV 825
Prelude - Allemande - Courante - Sarabande - Menuett I - Menuett II - Gigue
第2番ハ短調 BWV826
Sinfonia - Allemande - Courante - Sarabande - Rondeaux - Capriccio
第3番イ短調 BWV827
Fantasia - Allemande - Corrente - Sarabande - Burlesca - Scherzo - Gigue
第4番ニ長調 BWV828
Ouverture - Allemande - Courante - Aria - Sarabande - Menuett - Gigue
第5番ト長調 BWV829
Preambulum - Allemande - Corrente - Sarabande - Tempo di Minuetto - Passepied - Gigue
第6番ホ短調 BWV830
Toccata - Allemande - Corrente - Air - Sarabande - Tempo di Gavotta - Gigue
グールドとカークパトリック
まずカークパトリック先生の演奏を聴いた最初の印象は、何ともパラパラした感じの、まるで「インディカ米」みたいだな(^^;・・・です。
一つ一つの声部が完全に対等平等で、いくつもの線が絡まりあって音楽を構成していく様は実に見事であり、聞いていて一種の生理的快感さえ覚えます。
詳しいことは分かりませんが、おそらくこの演奏で使っているチェンバロは、ランドフスカがプレイエル社に作らせた「モダン・チェンバロ」だろうと思われます。世間では、「ランドフスカ・モデル」とよばれるこのチェンバロは、鋼鉄製のピアノのフレームにチェンバロの機構を入れたもので、最近はいたって評判の悪い代物です。
聞くところによると、このモデルはコンサートホールでも使えるように音を大きくしただけでなく、クレッシェンドやディクレッシェンドもできるという「お化けシステム」だったようです。
ですから、ランドフスカによるバッハの録音を聞いてみると、音色はチェンバロでも音楽の作りは旋律と伴奏という感じで、かなり粘りけのある「ジャポニカ米」の風情です。
カークパトリックはそのランドフスカの弟子ですし、さらに歴史的なチェンバロの機構が研究され本来のチェンバロが復刻され出すのは60年代以降ですから、おそらく間違いないと思います。
しかし、演奏雰囲気は師であるランドフスカとは随分と異なります。
この背景には、間違いなくグールドの影響があると思います。
グールドが56年に発表したゴルドベルグ変奏曲が与えた影響は絶大なものがありました。右手が旋律、左手が伴奏で、ボソボソと精神性重視の「面白くない」演奏をするのがバッハの伝統だったところに、まさに誰も考えつかなかったようなバッハ像を提示したのですから。
グールドのバッハの特長は、それぞれの声部に主従関係を持ち込まずに、それぞれを対等平等に響かせて、それぞれが絡まり合って進行していく音楽の構造を描ききることでした。10本の指が対等平等の力を持ってすべての音をクリアに響かせるバッハは躍動感に満ちていました。
おそらく、カークパトリック先生はそのグールドの演奏を聴いて思ったはずです。
ピアノでそこまでできるなら、チェンバロならもっと凄いところまでいけるぞ!!
確かに、59年にカークパトリックが録音したパルティータと、グールドが57年に録音したパルティータの5番・6番を較べると、そのパラパラ感の徹底ぶりは明らかです。特にパルティータ6番の「Toccata」等を聞き比べると、同じ音楽とは思えないほどにグールドの方がロマンティックで粘りけがあります。もちろん、カークパトリック先生の方は徹底的にパラパラしています。
ただし、70年代にグールドが録音したフランス組曲と、57年に録音したカークパトリック先生のフランス組曲を聴いてみると、同じくらいパラパラしています。グールドはバッハだけでなく、どの作曲家の作品を取り上げても対位法的に分析しなければ気が済まないピアニストでした。そして、晩年に近づきテンポが遅くなるほどにパラパラ感はいっそう強くなります。
しかし、同じようなことでも、それをピアノを使って実現するのと、チェンバロを使って実現するのとでは、その困難さには大きな違いがあったようです。
「ピアノを使ってバッハを演奏するのは曲がりくねった細い道をパワステのない車で運転するようなものだ」と語ったのはグールドではなかったでしょうか。確かに、チェンバロを使ったカークパトリック先生の演奏では実に軽々と一つ一つの声部がクッキリと浮かび上がってきます。録音もかなり優秀です。もしかしたら、マイクをチェンバロの中に突っ込んで録音したのかもしれません。
ただ、あまりにもパラパラしすぎているので、頭の中で音楽の姿を把握するのに「努力」が必要です。それに較べると、グールドの演奏からは、適度なパラパラ感の背後からはっきりとバッハの声が聞こえてくるような気がします。そして、私の頭が古いからなのでしょう、後年のパラパラ感の徹底したフランス組曲よりは、ある程度粘りけのあるこの60年代前半頃までの演奏の方が好ましく思えます。
きっと、私の頭が古いのでしょう。
よせられたコメント
2013-09-22:加藤啓雄
- カークパトリックのチェンバロ演奏、永く愛好してきました。語りだすときりがないので、お伝えしたいことを簡単にまとめてみます。
グールドといえばゴルトベルクですが、貴HPにアップされているカークパトリックの録音は1958年のアルヒーフへのステレオ録音であり、グールドの最初のCBSへの録音年(1955)よりも確かに後です。演奏のコンセプトが確かに似通っており、カークパトリックがグールドの影響を受けたと考えたくなるのも無理はありません。
しかし、カークパトリックは、実は1952年にアメリカのハイドンソサエティに、ゴルトベルクを含むクラヴィーア練習曲集全4巻(パルティータ全曲含む)をドルメッチ製のハープシコードで録音していることを忘れてはならないと思います。1958年のアルヒーフ盤と比べても、ほとんど演奏の雰囲気は変わっておらず、楽器の音色は、むしろアルヒーフで用いているノイペルトよりも、はるかに柔らかく魅力的です。
カークパトリックは、1930年代にゴルトベルクの楽譜校訂を行っており、同曲の研究者としても高名です。私は、カークパトリックがグールドの影響を受けたのではなく、グールドがカークパトリックのチェンバロ演奏を参考に、あの独創的なピアノ演奏を構築したのだと考えています。たとえば、アリアの前半11小節目の分散和音を下降形で弾いているのはカークパトリックとグールドくらいですが、これはカークパトリックが校訂した楽譜上での指示に従っているからに他なりません。
なお、レオンハルトはカークパトリックよりも1年あとの1953年に、モダン楽器を用いてゴルトベルクを録音しています。
カークパトリックがモダンを用いたのは1960年台初頭までであり、1960年台後半にはもっぱらヒストリカルのコピーを使って録音している点も重要です。アルヒーフのスカルラッティのソナタ集はCDで入手可能です。また、CDにはなっていませんが、グラモフォンに録音された平均律やチェンバロリサイタルは楽器も含めて非常に魅力的です。
ちなみに、ハイドンソサエティのバッハの録音は、MUSIC&ARTS:CD?976としてCD復刻されています。
また、SP時代のカークパトリックの録音も、PearlからGEMM CD9245として復刻されています。ここまでさかのぼってもスタイルは後年のものとはそれほど変わらず、シェイプアップされた軽やかな演奏を繰り広げています。チェンバロ演奏の現代を切り開いた偉大な音楽家だと思います。
【最近の更新(10件)】
[2026-10-15]

メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調, Op.25(Mendelssohn:Piano Concerto No.1 in G minor, Op.25)
(P)モーラ・リンパニー:ラファエル・クーベリック指揮、フィルハーモニア管弦楽団 1952年録音(Moura Lympany:(Con)Rafael Kubelik The Philharmonia Orchestra Recorded on 1952)
[2026-10-13]

ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72(Dvorak:Slavonic Dances Op.72)
クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1952年&1954年録音(Kurt Sanderling:Leningrad Philharmonic Orchestra Recorded on, 1952 & 1954)
[2026-10-11]

ヴィオッティ:ヴァイオリン二重奏曲 ト長調(Viotti:Duet for Violin Solo in G minor)
(Vn)ジョコンダ・デ・ヴィート:(Vn)イェフディ・メニューイン 1955年12月4日&6日録音(Gioconda de Vito:(Vn)Yehudi Menuhin Recorded on Decembr 4&6, 1955)
[2026-10-09]

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲 ハ長調 「喜び」 Op. 8, No. 6, RV 180(Vivald:Violin Concerto in C Major, Op. 8, No. 6, RV 180, "Il piacere")
(Vn)フェリックス・アーヨ:イ・ムジチ合奏団 1961年9月20日~28日録音(Felix Ayo:Musici, I Recorded on September 20-28, 1961)
[2026-10-07]

J.S.バッハ:カンタータ第51番「全地よ、神を向かえて歓呼せよ」,BWV 51(J.S.Bach:Cantata: "Jauchzet Gott in Allen Landen", BWV 51)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ペーター・ゲルホルン指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1950年10月6日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(cpn)Peter Gellhorn Philharmonia Orchestra Recorded on October 6, 1950)
[2026-10-05]

J.S.バッハ:管弦楽組曲第4番 ニ長調 BWV1069(J.S.Bach:Orchestral Suite No.4 in D major, BWV 1069)
クルト・レーデル指揮:ミュンヘン・プロ・アルテ室内管弦楽団 1962年2月録音(Kurt Redel:The Pro Arte Chamber Orchstra of Munich Recorded on February, 1962)
[2026-10-02]

ルイス・デ・ミラン:「エル・マエストロ」からのファンタジア、舞曲、そしてロマンセ(Luys Milan:Fantasias, Dances And Romances From El Maestro)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ:(T)ベルンハルト・ミヒャエリス 1956年11月30日~12月1日録音(Walter Gerwig:(T)Bernhard Michaelis Recorded on Novembar 30~December 1, 1956)
[2026-09-30]

ヴィヴァルデ:オーボエ協奏曲 ハ長調, Rv.447(Vivaldi:Oboe Concerto in C major, RV.447)
レナート・ファッサーノ指揮:(Ob)レナート・ザンフィーニ ローマ合奏団 1958年発行(Renato Fasano:(Ob)Renato Zanfini Virtuosi Di Roma Published in 1958)
[2026-09-28]

マヌエル・ポンセ:南の協奏曲(Manuel Ponce:Concierto del Sur)
(Gt)アンドレス・セゴビア:エンリケ・ホルダ指揮 シンフォニー・オブ・ジ・エア 1958年録音(Andres Segovia:(con)Enrique Jorda the Symphony of the Air Recorded in 1958)
[2026-09-26]

モーツァルト:モテット「踊れ、喜べ、幸いなる魂よ」{エクスルターテ・ユビラーテ), K.165(Mozart:Exsultate, Jubilate, K.165/K.158A)
(S)エリーザベト・シュヴァルツコップ:ワルター・ジュスキント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1947年5月26日,28日録音(Elisabeth Schwarzkopf:(con)Walter Susskind Philharmonia Orchestra Recorded on May 26,28, 1947)