クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

シューベルト:歌曲集「白鳥の歌」

バス・バリトン:ハンス・ホッター (P)ムーア 1954年5月28日〜30日録音





Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第1曲「愛の使い」(Liebesbotschaft)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第2曲「兵士の予感」(Kriegers Ahnung)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第3曲「春の憧れ」(Fru"hlingssehnsucht)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第4曲「セレナーデ」(Sta"ndchen)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第5曲「住処」(Aufenthalt)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第6曲「遠国にて」(In der Ferne)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第7曲「別れ」(Abschied)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第8曲「アトラス」(Der Atlas)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第9曲「君の肖像」(Ihr Bild)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第10曲「漁師の娘」(Das Fischerma"dchen)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第11曲「街」(Die Stadt)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第12曲「海辺にて」(Am Meer)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第13曲「影法師」(Der Doppelga"nger)

Schubert:歌曲集 「白鳥の歌」 第14曲「鳩の便り」(Die Taubenpost)


シューベルトが探し求めたリートの理想

よく知られているように、この「白鳥の歌」と題された歌曲集はシューベルトによって編まれたものではありません。
彼の死後、出版業者のハスリンガーが中心となって、シューベルトが亡くなった年に作曲された歌曲をまとめたものです。第1曲から第7曲までがレルシュタープの詩に曲をつけたもので、続く第8曲から第13曲までがハイネの詩による作品で、ともに8月に集中的に書かれたものです。そして、最後の第14曲がザイドルの詩によるもので、おそらくはシューベルトの最後の作品であろうと考えられています。
ですから、歌曲集とは言っても「美しき水車小屋の娘」や「冬の旅」のような統一感はありません。いや、統一感どころか、たとえば第13曲までのハイネの詩による作品と最後の第14曲「鳩の使い」があまりにも雰囲気が異なるので、演奏会では第13曲までしか取り上げない歌手もいるほどです。

しかし、曲集としての統一感には欠けるものの、一つ一つの作品を見てみれば、シューベルトの最晩年の到達点を示すような作品が目白押しです。

シューベルトの歌曲の中でもっとも有名な作品の一つであろう「セレナード」が含まれています。
極限にまで音の数を切り詰めてこの上もない静けさと凄味をただよわせる「影法師」や「君の肖像」のような作品があります。
そして、それとは対照的なまでにほのぼのとした明るさにつつまれた「春のあこがれ」や「鳩の使い」は洗練の極みです。

それ故に、シューベルトが探し求めたリートの理想の姿がここにあるという評価には十分納得がいきます。
本人が亡くなった後の余計なお節介もたまにはいいものです。

<レルシュタープの詩による歌曲>

第1曲「愛の使い」(Liebesbotschaft)
第2曲「兵士の予感」(Kriegers Ahnung)
第3曲「春の憧れ」(Fru"hlingssehnsucht)
第4曲「セレナーデ」(Sta"ndchen)
第5曲「住処」(Aufenthalt)
第6曲「遠国にて」(In der Ferne)
第7曲「別れ」(Abschied)

<ハイネの詩による歌曲>

第8曲「アトラス」(Der Atlas)
第9曲「君の肖像」(Ihr Bild)
第10曲「漁師の娘」(Das Fischerma"dchen)
第11曲「街」(Die Stadt)
第12曲「海辺にて」(Am Meer)
第13曲「影法師」(Der Doppelga"nger)

<ザイドルの詩による歌曲>

第14曲「鳩の便り」(Die Taubenpost

コース料理として賞味するならばこれがベストでしょう。


ずいぶん前にこんな事を書いていました。
「ホッターに関してはムーアをピアニストに迎えて50年代に録音した素晴らしい演奏がありますが、この40年代の録音もなかなかに素晴らしいものです。 」

ホンと、忘れていました。
54年にムーアと録音した「冬の旅」や「白鳥の歌」はいまでも現役盤としての価値を失っていない素晴らしい演奏ではないですか!!もうとっくの昔にパブリックドメインの仲間に入りながら、それをかくも長きにわたって失念していたとは、まったくもって歌曲に対するアンテナが低いユング君です。

そして、これもまたどこかで書いたことがあるのですが、フィッシャーディースカウの歌唱で冬の旅などの歌曲集を聞くのが好きになれませんでした。
いくつかの歌曲をバラで聞いていると素晴らしいと思うのですが、24曲とか14曲をまとめて聞かされるとしんどくなるのです。

そう言えば、どこかの料理人が、最初の料理を口に入れた途端に「うまい!!」と思われるような料理はダメなんだと言っていました。なぜならば、料理というのは最初の一品から最後の一品までのトータルで成りたっているものだから、最後の料理を食べ終わって「あぁー、おいしかった」という満足感を感じてもらうのが理想だというのです。
ですから、最初の一品から「うまい!」なんて感嘆されると全体のバランスが崩れ、後が続かないというのです。

おそらく、歌曲集というのも似たような側面があるのだと思います。
一品、一品をアラカルトで賞味すればフィッシャーディースカウは絶品です。
しかし、コース料理として「冬の旅」や「白鳥の歌」を賞味するならば、このホッターの録音を凌駕するものは思いつきません。

淡々と歌っているように見えながら、その奥から人生の苦さがにじみ出ます。そして、ホッターが素晴らしいのは、その苦さをさらに優しさのようなもので包みこんでいく大きさにあふれている事です。
54年のモノラル録音ですが、音楽的においしい部分は上手にすくい取っていますので、音質面では何の不満もありません。今もって「現役盤」としての地位を確保しているのも当然だと言えます。

よせられたコメント

2013-08-18:nakamoto


2019-09-15:平谷浩一


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