モーツァルト:ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 K.498 「ケーゲルシュタット」
(Cl)レジナルド・ケル (Va)リリアン・フックス (P)ミエチスワフ・ホルショフスキ 1950年7月録音
Mozart:ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 K.498 「ケーゲルシュタット」 「第1楽章」
Mozart:ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 K.498 「ケーゲルシュタット」 「第2楽章」
Mozart:ピアノ、クラリネットとヴィオラのための三重奏曲 変ホ長調 K.498 「ケーゲルシュタット」 「第3楽章」
親密さと幸福感に満ちた音楽
「ケーゲルシュタット」とあだ名のついた作品ですが、これはどうやら事実確認に混同があるようです。「ケーゲルシュタット」とは日本語になおすと「九柱戯」となるそうですが、余計に意味が分からなくなります。調べてみると、ボーリングの前身に当たる競技のようで、円錐形のピンを9本並べて、それを木製の玉で倒した数を競い合うというルールだったようで、まあ、こんな感じだったようです。

そして、この作品に「ケーゲルシュタット」とあだ名がついたのは、モーツァルトがこの「ケーゲルシュタット」をしながらペンをすすめて仕上げたという「逸話」が残っているからで、これもまた「モーツァルト天才伝説」を彩る一つとして良く語られるエピソードです。
しかし、「ケーゲルシュタットをしながら」と書かれているのは、この作品が書かれる10日あまり前にできたK497の方で、おそらくは相前後するこの二つの作品が混同されたのではないかというのが最近の定説です。
実際、このクラリネット・トリオを聴いてみると、決して遊びの合間に片手まで書かれたような音楽だとは到底思えません。あのアインシュタインもこの作品を「モーツァルトの創造のなかで無比のものである。」と述べているのです。
ピアノ、ヴィオラ、クラリネットという不思議な楽器構成を持つ作品ですが、基本的にはモーツァルトの最も優秀なピアノの弟子の一人であったフランツィスカのために書かれたものです。フランツィスカはウィーンの植物学者であったジャカン男爵の娘であり、彼らはモーツァルト夫妻とかなり親しい関係にあったようです。
おそらく、この作品はそのジャカン家において、娘のフランツィスカとモーツァルト(彼はヴィオラも演奏した)、そしてラリネットの名手であったシュタドラーによって演奏されたものと思われます。親密さと幸福感に満ちたこの作品は、開発されて間もないクラリネットという楽器の可能性のほとんど全てを開発し尽くしています。モーツァルトは営業上の理由(?)から、クラリネットパートはヴァイオリンで代替可能と記していますが、この作品の何とも言えない長閑な歌心を味わうにはクラリネットでなければいけません。
「ほかのどんな楽器もクラリネットほどこの曲の旋律的な香気、深くしなやかな伴奏音型を再現することはできない(アインシュタイン)」のです。
モーツァルトの膨大な作品群の中ではそれほどの有名作ではありませんが、是非とも多くの人に知ってもらいたい音楽です。
イギリスを代表するクラリネット奏者
Reginald Kell(レジナルド ケル)はイギリスのヨークに生まれ、当初はヴァイオリンを学ぶものの、15歳の時にクラリネットに転向し、その後イギリスを代表する多くのオケで首席奏者をつとめたというのが経歴です。その後、1939年にトスカニーニにその才能を認められてルツェルンの音楽祭に招かれます。戦後は活動の本拠をアメリカに移し、ソリストとして活躍しながらも室内楽団対も主催するという売れっ子となります。また、教育者としても大変に有能な人だったようで、当時すでに名声を獲得していたベニー・グッドマンがレッスンを受けに来たというのは有名な話です。また、いくつかの教則本も残していて、クラリネットをやっている人にきくとそれは「拷問」に近い代物だそうです。
さて、演奏の方ですが、残念ながら同時代に活躍したウラッハと比べると少しガッカリするかもしれません。しかし、それはあまりにもウラッハが偉大にすぎるからであって、聞いていると心がふんわりと癒されて仕事に行くのがいやになるような素敵な音色は、それはそれとして魅力があります。
特に印象的なのは、アレグロのようなテンポの速い楽章では割合にすっきりと音楽を仕上げるのに対して、アダージョになるとテンポを落として実に丹念に歌い上げるのが心に残ります。また、その歌い方たるや、テンポ・音色・音量ともてる要素をフルに動員して実にねっちりと表情をつけていきます。特に、一つの楽章の中でアレグロとアダージョが頻繁に交代するモーツァルトのクインテットの第4楽章などはなかなかの聞きものです。
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