ショーソン:詩曲 Op.25
(Vn)ジャック・ティボー ポール・パレー指揮 コンセール・ラムルー管弦楽団 1947年10月録音
Chausson:詩曲
世紀末を反映した音楽

ショーソンは若くして(44歳)不慮の事故(一部では自殺説もあるそうです)で亡くなったために、日本での認知度はあまり高くないようです。
そんな中で、唯一知れ渡っているのがこの「詩曲」です。
しかし、神秘的に静かに始まって、そしてあまりおおきな盛り上がりも見せずに最後も静かに曲を閉じるこの作品は、それほど一般受けする作品とも言えません。
ショーソンは表面的には非常に恵まれた環境のもとでその人生を送ったかのように見えます。幼い頃から優れた家庭教師によって英才教育を施され、幸せな結婚と裕福な家庭生活を築き上げると言う、ヨーロッパにおける典型的な中産階級の一員でした。
しかし、そんな表面的な豊かさとは裏腹に、彼の作品からは、その内面に巣くっているどうしようもないペシミズムが見え隠れします。
この「詩曲」の全編を覆っている夢も、儚さだけでなく、何だかゾッとするような情念があちこちで姿を見せます。それは疑いもなく、世紀末ヨーロッパを蔽っていた、とらえ所のない漠然とした焦燥感や苛立ちのようなものが反映しています。
最初はツルゲーネフの『勝ち誇れる恋の歌』に触発されて書き始められたものの、やがてはその標題性を破棄して、ただ単に『詩曲』とされたのは、狭い文学世界のテーマを乗り越えて、その様な時代の風を反映したより普遍性の高い作品になった事への自負もあったのでしょう。
媚薬のような演奏
サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」やこの『詩曲』はともに、サラサーテとイザイという偉大なヴァイオリニストの意向が十分に反映された作品です。それだけに、難しくはあってもそれは無理を強いられる難しさではなく、さらには演奏家の努力が報われる作品でもあります。
それだけに、それなりに名の通ったヴァイオリニストならば必ず録音している作品であり、多くの『名盤』がひしめいています。
この『詩曲』にしても、ざっと数え上げるだけで古くはエネスコから始まり、49年のヌヴー、もちろん51年のハイフェッツ、それからこのオイストラフやフランチェスカッティ、そしてクレーメルにキョン=ファ・チョン(私が初めてこの作品を聞いたのは彼女。刷り込みかもしれませんが、今でも個人的にはこれがベストです。)に至るまで(おい、それ以降の新し録音はどうなっているんだ!!)枚挙に暇がありません。
そんな中で異彩を放っているのがこのティボーの録音でしょう。
はっきり言って、あまり上手くはありません。オケもいまいちです。
でも、この演奏の全体を覆う退廃的な雰囲気はこの作品にピッタリであり、こういう雰囲気を出せるヴァイオリニストは彼以外いないのです。
確かに、この作品のファースト・チョイスにはならない録音ですが、あれこれと聞いてきた人にはかけがえのない魅力をはなつ録音であることは間違いありません。そして、技術最優先の風潮の中で失ってしまったものの大きさを感じさせられる録音でもあります。
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