クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

グリーグ:ピアノ・ソナタ ホ短調, op.7(Grieg:Piano Sonata in E minor, Op.7)

(P)アルド・チッコリーニ:1964年12月28日~29日録音(Aldo Ciccolini:Recorded on December 28-29, 1964)



Grieg:Piano Sonata in E minor, Op.7 [1.Allegro moderato]

Grieg:Piano Sonata in E minor, Op.7 [2.Andante molto]

Grieg:Piano Sonata in E minor, Op.7 [3.Alla menuetto]

Grieg:Piano Sonata in E minor, Op.7 [4.Finale. Molto allegro]


若書きの作品

グリーグのピアノ作品といえば、まずはピアノ協奏曲、そして抒情小曲集(第1集~第10集までで全66曲)が思い浮かびます。さて、それ以外となるとなかなか思いつきません。
調べてみれば、ピアノソナタが1曲、そしてバラードが1曲あたりがそこそこ有名だそうです。

このうちソナタは若書きの作品であり、驚くことに協奏曲も十分に若書きの範疇に入る作品みたいです。ソナタは1865年、協奏曲は1868年に書かれています。グリーグが1943年に生まれていますから、ともに20代前半のころの作品ということになり、改めて驚かkされました。ちなみに彼の生涯にわたって書かれ継がれた抒情小曲集の第1集も1864年に書かれています。ですから、今日よく聞かれるグリーグのピアノ作品の大部分が若書きの作品ということになります。

グリーグは母親が優れたピアニストだったことに影響を受けて、幼いころからピアノに親しんでいきました。そして、そんなグリーグのお気に入りはショパンだったそうで、とりわけショパンならではの繊細な詩情がちりばめられた小品がお気に入りだったようで、その志向は後に作曲家になっても変わることはなかったようです。彼のピアノ作品は抒情小曲集に代表されるような詩情あふれる小品が大部分を占めていて、構成感の整った大規模なピアノ作品はソナタと協奏曲の2曲だけとなるようなのです。

グリーグは15歳でライプツィヒの音楽院で学び始めるのですが、その学びの時を終えて帰国した直後に書かれたのがピアノ・ソナタでした。
ですから、この作品はその学びの成果を確かめるようにソナタの基本にのっとって作曲されています。しかし、ベースはそうであっても、そこにはすでに後の民族的作風を思わせる部分はすでに芽生えています。
これは全くの受け売りですが、第1楽章には彼が尊敬していたデンマークの作曲家ゲーゼ(ガーデとも表記される)のピアノソナタの影響があらわれており、第3楽章には同じくオペラや交響曲を多く残したデンマークのハルトマンの影響を強く受けているとのことです。と言われても、それがどこにどういう形で影響を受けているのかわからないですね。ゲーゼやハルトマンの作品なんて聞いたことがないからですね。

でもまあ、そういう趣を持った作品だということらしいです。

それからもう一つ、グリーグの生涯をあれこれ調べていて気付いたのは、彼は若くして多くの優れた音楽家と出会い、そしてそういう音楽家から多くの支援と教えによってその才能を伸ばし、さらには作曲家として認められていくという幸福な道筋をたどった人だということです。
こういう不思議な縁をもたらす幸せな人はクラシック音楽という変人の集まりみたいな世界ではきわめてまれなことだと言っていいでしょうし、そういう幸福感のようなものが彼の作品にの底にいつも流れているような気がします。

パリッとした粋な雰囲気


チッコリーニという人は非常に息の長い演奏家でした。
2015年に89才でこの世を去るのですが、その直前まで現役のピアニストとして活動をしていました。晩年は日本とも縁が深く、毎年のように来日公演を行っていて、90才を迎える2016年にも公演が予定されていたほどです。
ピアニストには長命の人が多く、その最期まで現役として活動を続ける人は多いのですが、その少なくない部分が「誰か止める人はいないのか!」と言いたくなるような醜態をさらすことは少なくありません。しかし、チッコリーニはそう言う中にあって、疑いもなく「希有な例外」だったようです。
私は彼のコンサートに足を運んだことはないので人の受け売りの域を出ないのですが、それでも多くの人が晩年のチッコリーニの変貌ぶりに驚き、そして称賛を惜しまないのです。

若い頃のチッコリーニというのは、何というか、パリッとした粋な雰囲気がいつも漂っています。それは、音楽を煉瓦のように積み上げていく「ドイツ風」のピアニストたちとは正反対の場所に位置するピアニストです。
音色はどこまでもからりと乾いていて、一つ一つの音はまるでチェンバロのようにころころとよく転がるのです。そして、彼の名刺代わりだったサティなんかを聞くと、いつもパリッとした粋な雰囲気が漂っていました。

ただ、それはそれなりに美質としては感じながらも、時によっては、そして作品によってはもっとどろっとした「情念」みたいなものが欲しくなるときはありました。
例えば、彼の得意分野でもあったリストもまたある意味ではあっけらかんとしたクリアな響きと強固な形式感によって貫かれていました。トレモロなんかも、驚くほど一音一音が明確に聞こえるので、そこからはふわっとした幻想的な感覚はほぼ皆無です。
しかし、それこそが若い時代のチッコリーニなんですね。
当然のことながら、ここで紹介している一連のグリーグの作品などもまた、北欧的な叙情は後退して、いわゆるラテン的な明晰さに貫かれています。

彼はこういう音楽を地道にやり続けることで、結果として自分の音楽の根っこと土台を強固なものにしていきました。そして、その事が年をとって衰えが出てきたときに、その衰えに相応しい音楽にチェンジする余裕を与えたのでしょう。
晩年のチッコリーニの音楽が、若い頃と較べて本当に素晴らしいものだったのかは私には分かりません。しかし、それは「醜態」でなかったことだけは確かなようですし、その「変貌」を遂げた音楽が多くの人を魅了したことも事実のようです。
しかし、晩年の彼の音楽を特徴づけるふんわりとした響きの底には、若き時代にクリアな響きを駆使したテクニックがあってこその話であることは間違いないことです。

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