シューベルト:ピアノ三重奏曲第1番 変ロ長調, D.898(Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898)
(P)パウル・バドゥラ=スコダ (Cello)アントニオ・ヤニグロ (Violine)ジャン・フルニエ 1953年発行(Antonio Janigro:(P)Paul Badura-Skoda (Violine)Jean Fournier Released on 1953)
Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [1.Allegro moderato]
Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [2.Andante un poco mosso]
Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [3.Scherzo: Allegro & Trio]
Schubert:Piano Trio in B-flat major, D.898 [4.Rondo: Allegro vivace - Presto]
全体を大きな構成の中に見事にまとめきっている
シューベルトは若い時代に1曲のピアノ三重奏曲を残しているのですが、その後はこのジャンルから離れてしまいます。ところが、最晩年になって急に3曲のピアノ三重奏曲を残しています。
それがD.898、D.929そして一楽章のみのD.897です。
このなかで、変ロ長調のD.898だけは自筆譜も失われ成立事情が全くの藪の中で、壮大な規模を持つ変ホ長調のD.929より前に書かれたものなのか、それとも後で書かれたものなのかで議論が続いています。シューベルトはこの変ロ調の作品には「Op.99」を、D.929の方には「Op.100」を要求しているので、一般的にはD.898の方が先に書かれたと見るのが一般的なのですが、出版に至る事情などを考慮する単純にそうとも言いきれぬ面もあるようなのです。
とは言え、そう言う学術的な細かい話は脇に置いておいても、このシューベルトらしい歌謡性にあふれた三重奏曲がシューベルト後期の傑作の一つであることは誰も否定はしないでしょう。何故ならば、歌謡性にあふれた旋律を主題としながらも、全体を大きな構成の中に見事にまとめきっているからです。
おそらく、これもまた最晩年のシューベルトが追い求めた「交響曲への道」の一過程だったのでしょう。
第1楽章ではチェロが歌い出す第2主題が印象的で、それが第1主題と絡みながら転調を重ねて発展していくところは見事です。
続く第2楽章はノクターン風の音楽で微妙な影と深みのある静けさの後に情熱の発露が現れ、最後はまたどこか憧れを秘めた佇まいの中で閉じられます。シューマンは「人間の美しい感情が波のように上下する」と評しています。
第3楽章はリズミカルなスケルツォでポリフォニックな動きも交えながら生き生きとした生命力に溢れています。そして、中間部のとトリオではヴァイオリンとチェロが息の長い旋律を演奏するのも印象的です。
最終楽章はシューベルトは「ロンド」と記しているのですが明らかにロンド形式ではありません。
ある人の解説によると、「A-B-C-A-B-C-コーダ」と言う形になっているようです。そしてCの部分はAとBの音型を合わせたものになっているようです。
準常設のピアノ・トリオ?
ピアノ・トリオと言うものはなかなか難しいものです。パスキエ・トリオみたいな弦楽トリオよりは作品のレパートリーは多いのでしょうが、それでも常設で活動するとなるとなかなか難しいものがあるようです。
ボザール・トリオの様な存在は珍しくて、古いところではカザルス・トリオとか100万ドルトリオ等に代表されるようにリストの寄せ集めみたいなもスタイルが一般的でした。レーベルにしても作品が地味なだけに、ソリストのネームヴァリューでレコードを売るというのが一つの戦略だったのでしょう。
その意味では、このヤニグロ、スコダ、フルニエという組み合わせは常設ではないにしても、ソリストの寄せ集めというレベルをこえた準常設(そんな言葉はありませんが・・・)に近い存在だったような気がします。
有名な100万ドルトリオではハイフェッツとルービンシュタインの折り合いが悪くて争いが絶えず、その間にはさまれたチェロのフォイアマンが仲裁にはいるというのが良くあったというのはよく知られた話です。
まあ、それがソリストとしての意地みたいなものなのですから、争いが絶えないのは当然と言えば当然であり、そう言うぶつかり合いの中で生まれる音楽もまた楽しではあります。
しかし、落ちついた端正な佇まいで純度の高い演奏を聞きたいときにはいささか灰汁が強すぎます。
一人、一人にソリストとしての器量がありながら、その3人が常設のトリオのように息がピッタリ合った組み合わせとしてはヤニグロ、スコダ、フルニエという組み合わせは理想に近いのかもしれません。
おそらくこの3人を並べてみればこんな感じでしょうか。
スコダは若くしてカラヤンに見いだされて世に出て、イェルク・デームスやフリードリヒ・グルダとともに「ウィーン三羽烏」と呼ばれて人気を博しそれに相応しい実力を持っていたが、未だ若造。
ヴァイオリンのフルニエと言えば兄のチェリストであるピエール・フルニエの弟と言われることが多くていささか影の薄い存在です。そのためか世間ではソリストとしてもすこしばかり柔な雰囲気は否定できず等と言われるのですが、この組み合わせで聞かせる彼の演奏は十分に引き締まったものです。
そして、ヤニグロは当時「世界最高のチェリスト」と呼ばれるほどの実力と人気を持っていました。
位置関係から見れば誰がどう見てもヤニグロがリーダーなのです。しかしながら面白いのは、ピアノ・トリオというのは、モーツァルトなどが典型ですが、ピアノが主でありとりわけチェロは縁の下の力持ちという作品が多いのですが、ヤニグロはそう言う作品でも嫌な顔一つ見せず地味な仕事に徹していることです。
もちろん、それがシューベルトやブラームスのようにチェロが存分に活躍するような作品になっても、ヤニグロという人はトリオとしてのアンサンブルを優先して自分だけが目立とうという意志は全くなかったようなのです。
そして、この顔合わせで、ハイドン、モーツァルト、ベートーベンという古典派のピアノ・トリオから始まって、シューベルト、ブラームスからドヴォルザークあたりまで数多くの録音を残してくれているというのは有り難い話です。
この残された録音の多さがソリストの寄せ集めではなくて準常設のピアノ・トリオと言いたくなる所以なのです。
そのおかげで、このトリオの演奏は安心して聞いていることができます。そしかしながら、そう言う安心感は裏返してみれば突出した魅力には欠けると言うことでもあり、結果として圧倒的な支持を集めることは難しいと言うことでもあります。
例えばハイフェッツが仕切った50年代のピアノ・トリオの録音があまりにもザッハリヒカイトの方に傾いていたのとは好対照を成しています。もちろん、どちらが良いかなどと言う話はするつもりはありませんが、それでもこういう落ちついたゆったりとした佇まいの音楽が聞けるというのは有り難いことです。
彼らの演奏はどれをとっても端正でありながらも、録音も50年代初頭としては十分に優秀であり、ロマンティックなヨーロピアンテイストを堪能することが出来ます。
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