ビゼー:「祖国」序曲 作品19
エルネスト・アンセルメ指揮 スイス・ロマンド管弦楽団 1954年10月録音
Bizet:Patrie Ouverture dramatiqueOp.19
チャイコフスキーの序曲「1812年」に影響を与えた作品

フランスの指揮者であったジュール・パドルーからの依頼で作曲された作品です。ジュール・パドルーはパリ11区のサーカス小屋において大衆向けの安価な演奏会を始め、そこで、サン=サーンス、ビゼー、ブラームス、ワーグナー、グリンカ、チャイコフスキーと言う。当時としては(^^;新進気鋭の若手の作曲家の作品を紹介していました。
そして、ジュール・パドルーからのビゼーへの依頼は「交響曲」であったのですが、彼が提出したのはこの序曲「祖国」でした。しかし、ジュール・パドルーはその事には何も言わずに1874年に自らのコンサートで取り上げて初演をおこっています。そして、その初演においてこの作品は大成功をおさめます。
ビゼーがこの作品に「祖国」というタイトルを与えた理由に関しては何も語っていません。ですから、学問的には何も語ることは出来ないのでしょうが、その背景には1870年から71年にかけて戦われた普仏戦争での敗北があったことは昔から指摘されてきました。また、ポーランドが他国によって分割占領されるという悲劇的な出来事への憤りと深い同情もあったのではないかと言うことも語られています。
ただし、ビゼー自身がこの事に関しては何も語っていない以上は全ては「藪の中」です。
ただし、この作品にチャイコフスキーが大きな影響を受けたのは間違いないようで、彼の序曲「1812年」はビゼーのこの作品に対するオマージュであることは確かです。
地中海的な陽光に溢れた音楽であり、爽やかな乾いた風が吹き抜けていくような音楽でもあります
同じ顔ぶれによるビゼーの交響曲を紹介したときには「実にあっさりと、そしてサラッとした感じで仕上げています。よく言えばラテン的な明晰さに溢れていると言えますが、悪く言えばいささか素っ気なくも聞こえます。」と書きました。
それと比べるならば、この58年に録音されたカルメンとアルルの女の組曲はさらにラテン的な明晰さに溢れていて、それ故に素っ気ないと感じる場面もほとんどありません。
例えてみれば、それは地中海的な陽光に溢れた音楽であり、爽やかな乾いた風が吹き抜けていくような音楽でもあります。
それにしても、オーケストラのバランスを完璧にコントロールしていくアンセルメの手腕には驚かされます。
アンセルメと手兵のスイス・ロマンド管弦楽団が始めて来日したときには、録音で聞くことができた完璧なバランスとはほど遠いものだったので、あの絶妙なバランスは録音によるマジックだと言われたものです。しかしながら、「Decca」録音は基本的にワンポイント的なスタイルを守り続けていましたから、編集の段階でオーケストラの個々の楽器のバランスを手直しすることは不可能でした。
アンセルメは最後までマルチ・トラックによる録音を嫌いました。
何故ならば、スタジオ録音において、オーケストラのバランスを整えるのは録音エンジニアの仕事ではなくて指揮者の仕事だと考えていたからです。ですから、彼が録音スタッフに要求したことは、自分が作りあげたその完璧なバランスを出来る限り正確に拾い上げることだったのです。
実際、そのバランスに関するアンセルメの耳の良さは驚異的だったとカルショーも述懐しています。
若き時代に「バランスのセル」とまで言われたジョージ・セルと較べても劣る部分は全くなかっただけでなく、「Decca」の音の良さの最大の原因は「ffrr」などという録音技術によるだけでなく、何よりもアンセルメがつくり出す音の良さに負うところが大きかったとまで言い切っているのです。
アンセルメという指揮者は理知的な指揮者だと言われたのですが、おそらくはその理知的なことの良さが最大限に発揮されたのがこの二つの組曲でしょう。
それから、この二つの組曲の構成なのですが、カルメン組曲の方は一般的なスタイルとは少し変わっていて、いわゆる二つの組曲を合体させて何曲かを間引いています。アルルの女の組曲は二つの組曲を合体させてまとめた形で録音しています。
アルルの女の第1組曲以外はビゼー以外の人が勝手にまとめたものですから、それをどのように再構成しようと指揮者の勝手と言うことなのでしょう。
ビゼー:アルルの女組曲
- 第1組曲 第1曲: 前奏曲
- 第1組曲 第2曲: メヌエット
- 第1組曲 第3曲: アダージェット
- 第1組曲 第4曲: カリヨン(鐘)
- 第2組曲 第1曲: パストラール
- 第2組曲 第2曲: 間奏曲
- 第2組曲 第3曲: メヌエット
- 第2組曲 第4曲: ファランドール
よせられたコメント
2020-07-11:コタロー
- ビゼーの「祖国」序曲、とても懐かしいです!私が小学校5年生当時、父が「コンサートホール・ソサエティ」に入会していました。そしてその年の秋ごろに、偶然ビゼーのレコードが家に届いたのです。指揮者は晩年のミュンシュで、曲目は確か「交響曲ハ長調」、「子どもの遊び」組曲、「祖国」序曲の3曲だったと思います。その中でも最後の序曲では、曲の劇的な内容とミュンシュの精力的で骨太な指揮ぶりが子供心に特に強く印象に残りました。
それに比べると、アンセルメの演奏は洗練されていて軽味のある響きを持った、いわば耳に馴染みやすい音楽になっています。また、録音年代に比して音が良いことは大きなアドバンテージです。
このような思い出深い曲をアップしていただき、ありがとうございました。
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