エルガー:交響曲第1番 変イ長調 作品55
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1956年12月11日~12日録音
Elgar:Symphony No.1 in A-flat major, Op.55 [1. Andante. Nobilmente e semplice]
Elgar:Symphony No.1 in A-flat major, Op.55 [2.Allegro molto]
Elgar:Symphony No.1 in A-flat major, Op.55 [3.Adagio}
Elgar:Symphony No.1 in A-flat major, Op.55 [4.Lento - Allegro]
イギリス最初の交響曲

イギリスは音楽創作の分野では長く不毛の地でした。それこそ何百年にもわたってイギリスは音楽を消費するだけで、たまに活躍する人が現れてもそれはヘンデルやハイドンなどの外国人でした。そんなイギリスにあって、それこそヘンリー・パーセル以来、久々に登場した世界レベルの作曲家、それがエルガーでした。ですから、イギリス人のエルガーに対する思い入れは大変なものがあります。そして、エニグマ変奏曲や威風堂々等で世界的名声を博したこの作曲家にイギリスの人々が求めたのは「交響曲」でした。何しろ、クラシック音楽の王道とも言うべき交響曲をイギリス人で作曲した人はいなかったのですから。(世界的には通用しないような作品なら作曲した人がいたのかもしれませんが、そんな作品はすでに歴史の彼方に消え去ってしまっています。)
おそらく、この期待はエルガーにとって大変なプレッシャーであったろうと想像されます。しかし、彼はそのプレッシャーに潰されることなく、ついに50歳を迎えた1907年に創作に着手し、翌08年に完成させます。そして、その年の暮れにハンス・リヒター指揮、ハレ管弦楽団のコンビで初演が行われ、熱狂的な成功をおさめます。指揮棒をとったリヒターも「当代最高の交響曲」と絶賛したことで、翌09年には100回を超える演奏が行われました。
オペラならば、一度あたれば劇場で繰り返し演奏されるのですが、交響曲の成功でこんなにも演奏されるとは希有のことです。それは、裏返してみれば、いかにイギリス人が自国の作曲家による交響曲を待ちわびていたかの証左だったともいえます。
しかし、残念ながら、現在からこの作品を眺めてみれば、「えっ?エルガーって交響曲も作曲していたの?」なんて言われるのがオチでしょう。やはり、ドーバー海峡を越えた大陸側で作曲された幾多の交響曲と比べると構成の弱さや後期ロマン派の後追いと言われるオリジナリティの稀薄さが気になります。
とはいえ、冒頭の主題(全曲を貫くモットーとしての役割を果たしている)が何度も繰り返されながら次第に気分が高揚していく第1楽章はなかなかに感動的ですし、その主題が最後にもう一度現れて作品を締めくくるフィナーレもなかなかに素晴らしいです。そして、静かで美しい叙情性に満ちた第3楽章の風情も聴くものを捉えてはなさい魅力があります。
「えっ?エルガーって交響曲も作曲していたの?」と言う人は多いと思いますが、決して聞いて損はない作品です。
この音符を愛してください。
「この音符を愛してください。」とバルビローリは常にオーケストラプレイヤーに語りかけていたそうです。エルガーとバルビローリと言えば定番中の定番とも言うべき組み合わせですが、その演奏を聴くたびにこのバルビローリの言葉が思い浮かびます。
どちらかと言えばゆったりとしたテンポで一つ一つの音符を慈しむように、そしてその余韻を確かめ時には振り返るような風情は、まさにエルガーの全ての音符を愛したバルビローリならではの演奏です。
なお、バルビローリは1962年にもフィルハーモニア管でこの交響曲を録音していて、一般的にはそちらの方が世間に流布しています。しかし、このハレ管との間で録音された56年盤もそれに劣ることのないすぐれた演奏です。
よせられたコメント
2009-05-25:Sammy
- この作品の世界を得意とする指揮者がオーケストラとともにいつくしむように作り上げた…そんな感じでしょうか。大きな表現幅でためらうことなくロマンティックに歌い抜かれたこの演奏、まさにバルビローリの真骨頂でしょう。録音も十分に良く、エルガーはやはりこうでなくては、と感嘆しつつ聞き惚れてしまう名演です。作品にも改めて惚れ直してしまいます。
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(P)ギオマール・ノヴァエス:1956年発行(Guiomar Novaes:Published in 1956)