ブルックナー:交響曲第8番
フルトヴェングラー指揮 ウィーンフィル 1944年10月17日録音
Bruckner:交響曲第8番「第1楽章」
Bruckner:交響曲第8番「第2楽章」
Bruckner:交響曲第8番「第3楽章」
Bruckner:交響曲第8番「第4楽章」
ブルックナーの最高傑作
おそらくブルックナーの最高傑作であり、交響曲というジャンルにおける一つの頂点をなす作品であることは間違いありません。
もっとも、第9番こそがブルックナーの最高傑作と主張する人も多いですし、少数ですが第5番こそがと言う人もいないわけではありません。しかし、9番の素晴らしさや、5番のフィナーレの圧倒的な迫力は認めつつも、トータルで考えればやはり8番こそがブルックナーを代表するにもっともふさわしい作品ではないでしょうか。
実際、ブルックナー自身もこの8番を自分の作品の中でもっとも美しいものだと述べています。
規模の大きなブルックナー作品の中でもとりわけ規模の大きな作品で、普通に演奏しても80分程度は要する作品です。
また、時間だけでなくオーケストラの楽器編成も巨大化しています。
木管楽器を3本にしたのはこれがはじめてですし、ホルンも8本に増強されています。ハープについても「できれば3台」と指定されています。
つまり、今までになく響きがゴージャスになっています。ともすれば、白黒のモノトーンな響きがブルックナーの特徴だっただけに、この拡張された響きは耳を引きつけます。
また、楽曲構成においても、死の予感が漂う第1楽章(ブルックナーは、第1楽章の最後近くにトランペットとホルンが死の予告を告げる、と語っています)の雰囲気が第2楽所へと引き継がれていきますが、それが第3楽章の宗教的ともいえる美しい音楽によって浄化され、最終楽章での輝かしいフィナーレで結ばれるという、実に分かりやすいものになっています。
もちろん、ブルックナー自身がそのようなプログラムを想定していたのかどうかは分かりませんが、聞き手にとってはそういう筋道は簡単に把握できる構成となっています。
とかく晦渋な作品が多いブルックナーの交響曲の中では4番や7番と並んで聞き易い作品だとはいえます。
違和感を感じる人も多いフルヴェンのブルックナー。
フルトヴェングラーの本質は「演出家」にあると書いたことがありますが、そう言うフルトヴェングラーの特徴がよくあらわれているのが彼のブルックナー演奏です。とにかく彼の演出方針にマッチングしない部分はバッサリと削ったり手を加えたりしてるようです。ユング君自身スコアを片手に厳密にチェックしたわけではありませんが、ぼんやりと聞いていてもかなりの改変は認められます。
同じように平気で改鼠版を使い続けた大物にクナがいますが、聞いてみるとクナの演奏とも明らかに雰囲気が異なります。こういう曖昧な表現はよくないのでしょうが、クナの場合は改鼠版を使って結構好き勝手にやっていても、聞こえてくる音楽はブルックナーそのものです。ところが、フルトヴェングラーの場合はなんだかブルックナーとは別の人物の作品のように感じる部分があります。
こういう演奏はどこかで聞いたような気がすると思いながら記憶の糸をたぐっていて思い当たったのがテンシュテットです。
テンシュテットの場合はブルックナーを後期ロマン派の大規模シンフォニーと割り切って、実に濃厚でロマンティックな音楽に仕上げていましたが、フルトヴェングラーも基本的には同じような音楽づくりをしているように思えました。
ですから、一部では「やりすぎ」「ブルックナーの音楽とはかけ離れている」などという批判が浴びせられてきて、いわゆるブルックナーファンからは無視されてきた歴史を持ちます。当然の事ながら、テンシュテットについても同様の評価がついてまわっています。(それは、「好き嫌い」という範疇よりは「許せない」と言うレベルのようですが・・・)
ただし、ユング君はテンシュテットの演奏でブルックナーを聞くのは大好きです。「違うだろうな?」とは思いつつも抗しきれない魅力があります。それはまたフルトヴェングラーの演奏についても同様です。
また、録音ですが、1944年という戦争中のライブ録音とはにわかに信じかねるほどの優秀さです。
よせられたコメント
2011-01-16:保存則
- 「違和感を感じる人も多い」とは言うものの自身には実に自然に心に染み渡る名演中の名演である様に思える。戦中のフルトヴェングラー特有の鋭さや物々しさの中にVPO特有の麗しい音色が滲み出ている。言うまでも無く緩急の付け方の巧さ、ここぞの盛り上げ何れも見事である。殊に第三楽章のあのデリカシーには喩える言葉さえ持たない。自身はクナッパーツブッシュやシューリヒトをも凌ぐと考える。敢えて比較で言わせて貰うのであれば同指揮者によるBPOの方が更にスケールが雄大である。例えば第二楽章に関しても後者の方に比べVPO盤の方は完全には振舞い切れていない様な気がしなくも無い。気迫が前面に押し出されているのは理解が出来るが。とまれかくまれ宇野功芳によるフルトヴェングラーのブルックナーは「余りにも人間的」等と言う評論には全く同意出来ないし理解出来ない。其処にあるのは圧倒的な広大さや輝き、神々しさであり人間臭さ等と言ったものが入り込む余地等ありはしない。本質から外れた評論だと言わねばならない。此処で真に勝手ながら「自身にとっての」ブル8のランキングを付けさせて頂く。
1 フルトヴェングラー 1949 BPO
2 フルトヴェングラー 1944 VPO
3 朝比奈 1994 大フィル
4 シューリヒト 1963 VPO
5 ヴァント 2001 BPO
6 クナッパーツブッシュ1963 ミュンヘンフィル
7 ヨッフム 1964 BPO
8 朝比奈 2001 大フィル
9 ヴァント 1987 北ドイツ放送響
10 ベーム 1976 VPO
──────────────────
2024-06-01:小林 正樹
- 別にセンチメンタルに浸ってるわけじゃあないけれど・・・。
44年のウィーン、おそらくナチが最後の咆哮をあげて「最後の一兵まで」などと(多分)鍵十字マーク付きのフォルクスラジオからがなり声をあげていたころの録音でしょう。明日をも知れぬ悲痛な環境の中で、この演奏です!緊張感と音楽を仕上げようとする根性が、やはり見えます。もちろんそんなことは僕の空想なんだけど・・。
涙なしではこの演奏は聴けない。フルヴェンの命日にでも一回聴くのみにしようか。
2024-06-04:大串富史
- 今回は管理人様と、フルトヴェングラーと、この音源にわたしの注意を向けてくださった小林様(小林先輩?!)への感謝を込めて。
#この音源を聴いても、自分のベストはやっぱり第8番ではなく第9番だなというのは変わらないものの(まて)、第8番が管理人様(や他の皆様)が仰るところのブルックナーの最高傑作だということは、今回この音源を聴いてよりよく分かったような気がしています。やっぱり最高傑作だけあって、キテレツ度が違う(まて
残念ながらフルヴェン世代ではないので(カラヤン世代でしょうか)、フルヴェンをずっと猫またぎだったわたしに機会を与えてくださった管理人様と諸先輩方への感謝と共に。
#それで本論(違)なのですが、小林様曰く「緊張感と音楽を仕上げようとする根性」という部分には深く賛同するものの、「涙なしではこの演奏は聴けない」というのは、うーん、なんですごめんなさい… 特にこちらのサイトに足繁くお邪魔させていただいてからは、なおのこと、うーん… フルヴェンがキテレツである(これは誉め言葉です)ということ以外は、もうあまり深く考えなくていいのかなあ、みたいに思うようになっています。それはちょうど、自分がベートーベンの時代に生きていたなら、ベートーベンの音楽をキテレツとして鑑賞するものの、ベートーベンの友だちにはあまりなりたくないかも、みたいな。ブルックナーも同じで、第9番を愛する神に捧げるというのは分かるものの、当の神様は迷惑じゃなかったのかと(失礼!でもあの神様は原典に描かれている神様とは別物のように聴こえたりします)。神様云々とは全く無関係に、あなたもキテレツでしたね!でわたしとしてはすんなりだったりします。だからフルヴェンが当時のドイツで「緊張感と音楽を仕上げようとする根性」で音源を後世に残したという、まごうことのない事実をもってよしとすれば、それでいいんではないかと。もっと突っ込んで言ってしまえば、管理人様がモーツァルトの楽曲解説でも書いておられるように、ナチスな演奏家と音楽の出来栄えは別物、クラシック音楽自体もそれを楽しんでいたに違いないナチス党員とは別物、つまりクラシック音楽とて人類に何らかの啓発や感化を与えるような代物にはなり得ない、って、まあそれは二度の大戦で全く証明済みなんでしょうが(いわゆる、二人の証人、ですか)… うーん…
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