クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より「ダッタン人の踊り」

ウィリアム・スタインバーグ指揮 ピッツバーグ交響楽団 1958年3月18日録音





Borodine:Polovetsian Dances from "Prince Igor" [1.Dance No.8]

Borodine:Polovetsian Dances from "Prince Igor" [2.Dance No.17]


今や超有名曲ですね。

10年ほど前の話になるのですが、何人もの方から、「ダッタン人の踊り」をアップしないのかとプッシュされました。
私の感覚としてはボロディンのこの作品はどちらかと言えば辺境のマイナー曲というイメージがあったので、なぜにこんなにもたくさんリクエストが来るんだ?と不思議に感じたものでした。

しかし、調べてみるとコマーシャルなんかにもよく使われているみたいで(JR東海の「うまし うるわし 奈良」)、さらにあの有名なメロディをカバーしたポップス曲なんかも出ていたのでした。
ですから、クラシック音楽に興味は無くても、あのメロディは知っているという人が意外と多いようで少しばかり驚いたものでした。

ご存知のように、この作品は、ボロディンがその生涯をかけて作曲に勤しんだ歌劇「イーゴリ公」の中の1曲です。残念ながら、本職が「化学者」で、趣味として作曲活動を続けていたボロディンはリムスキー・コルサコフの助力を得ながらも、最終的には自らの手でその作品を完成させることは出来ませんでした。
よく知られているように、未完成のまま放置されたロシア五人組の作品を丹念に仕上げていったのはリムスキー・コルサコフだったのですが、この「イーゴリ公」もリムスキー・コルサコフによって仕上げられて、1890年11月4日、サンクト・ペテルブルクのマリンスキー劇場で初演が行われました。

「ダッタン人の踊り」はこのオペラの中の第2幕に登場するのですが、その分かりやすく異国情緒に満ちた音楽は単独で取り上げられるようになり、今では本体の歌劇よりもポピュラリティを得ています。
そして、「ダッタン人の行進」は第3幕の冒頭に流れる音楽で、オペラではこの音楽で幕が上がります。

多くのロシア人の捕虜を連れて凱旋してくる場面であり、伝えられる話によると、ボロディンは日本の大名行列を描いたものをもとにこの音楽をイメージしたそうです。

なお、「ダッタン人」という表記は、原題が「ポロヴェツ人」になっているため、明らかに翻訳ミスによるものと思われます。一時は、ともに中央アジアで活躍する遊牧民族なので似たようなものだろう、と言われていましたが、今では明らかにミスだとされています。
それから、大阪人である私などは、「ダッタン人」という言葉を見ると、大阪の詩人、安西冬衛の「てふてふが一匹韃靼海峡を渡つて行つた。」という一行詩を思い出してしまいます。
もちろん、両者の間には何の関係もありませんが・・・。

完璧なオーケストラ・バランス


こういう一連のロシア音楽演奏を聞かされると、スタインバーグというのは実に不思議な指揮者だと思わざるを得ません。
おそらく、これほどスラブの重みというか、憂愁というか、そう言うものと縁遠い演奏は他には思い当たりません。もっとも、そう言う中にあってチャイコフスキーの「イタリア奇想曲」のように「直線路などは存在しない」と言わんばかりの曲がりくねった演奏を展開したりするときもあるのですが、それでもその曲線路はスラブの憂愁とは異なります。

それ故にか、スタインバーグは「職人的指揮者」として認識され、手堅く作品をまとめるけれども聞くものの胸に迫ってくるものがないなどとも言われたりします。
しかし、こういうロシアの小品をまとめて聞いてみると、「手堅い」という言葉ではすまされないほどに、オーケストラの響きが完璧にコントロールされていることに気づかされます。

録音がワンポイントからマルチになることによって、オーケストラの各楽器の音量バランスは録音が終わってからのエンジニアの仕事みたいな雰囲気が一般化しました。
考えてみればふざけた話で、その結果として録音と実演とでは随分と雰囲気が変わっていて、そのある意味での「雑さ」みたいなものを「ライブゆえの熱気」みたいな言葉に変換して恥じない指揮者も少なくないのは否定しようのない事実です。

それで思い出すのは、アンセルメとスイス・ロマンド管との演奏です。
アンセルメは非常に耳のいい指揮者で、オーケストラのバランスと言うことに関しては完璧にコントロールする能力を持っていました。ところが、初来日の時の演奏はそう言う録音で聞くことのできる演奏とはかけ離れものだったので、あの素晴らしい響きはDeccaの録音マジックだったと誤解されて一気にその評価を下げてしまいました。

しかしながら、来日公演がアンセルメにとっては亡くなる直前の最悪の状態での演奏であり、衰える前のアンセルメのバランス能力の高さにはDeccaのカルショーは太鼓判を押していました。ですから、そう言う前評判に惑わされることなく、衰えたアンセルメの実演に「駄目出し」をした当時の日本の聴衆の耳は確かだったと言えます。
ボロボロの演奏であるにもかかわらず、演奏家がビッグ・ネームであるがゆえに「ブラボー」を叫んでいる昨今の聴衆よりははるかに聞く耳を持っていたと言うことです。

そして、このスタインバーグもまた、オーケストラをコントロールしてバランスを保持するのは録音エンジニアではなくて指揮者の仕事であると確信していた一人だったのです。ただし、そのバランスが常に明るめの方向を向いているので、良く言えば明るく健康的、悪く言えば「脳天気なアメリカン・サウンド」という事にはなります。

しかし、暗い情念よりはどこか明るく爽やかな雰囲気でロシア音楽が完璧に鳴り響いているというのもまた一興ではないでしょうか。
そして、彼が率いたピッツバーグ響の事をアメリカの二流オーケストラという人もいるのですが、それもまたあまりにも聞く耳がないと言わざるを得ませ

よせられたコメント

【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2026-05-30]

プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 ニ長調, Op.19(Prokofiev:Violin Concerto No.1 in D major, Op.19)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニッ音]1956年2月27日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos New York Philharmonic Recorded on February 27, 1956)

[2026-05-28]

ルーセル:フルート三重奏曲 ヘ長調 Op.40(Roussel:Trio for Flute, Viola and Cello in F major, Op.40)
(Cello)エティエンヌ・パスキエ (Vn)ピエール・パスキエ (Fl)ジャン・ピエール・ランパル 1954年発行(Pierre Pasquier:(Cello)Etienne Pasquier (Fl)Jean-Pierre Rampal Published in 1954)

[2026-05-26]

プロコフィエフ:ヴァイオリン協奏曲第2番 ト短調 Op.63(Prokofiev:Violin Concerto No.2 in G minor, Op.63)
(Vn)ダヴィド・オイストラフ:アルチェオ・ガリエラ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1958年5月14日&19日録音(David Oistrakh:(Con)Alceo Galliera The Philharmonia Orchestra Recorded on May 14&19, 1958)

[2026-05-23]

ベートーベン:スイスの歌による6つの変奏曲 WoO 64(Beethoven:6 Variations on a Swiss Song, WoO 64)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)

[2026-05-21]

レスピーギ:イル・トラモント(Respighi:"Il Tramonto" Poem For Quartet And Voice)
バリリ四重奏団:(S)セーナ・ユリナッチ 1954年録音(Barylli Quartet:(S)Sena Jurinac Recorded on 1954)

[2026-05-18]

バルトーク:アレグロ・バルバロ Sz.49(Bartok:Allegro barbaro, Sz.49)
(P)ジェルジ・シャーンドル:1951年1951年9月12日録音(Gyorgy Sandor: Recorded on September 12, 1951)

[2026-05-16]

ケルビーニ:歌劇「アナクレオン」序曲(Cherubini:Anacreon Overture)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:コンセール・ラムルー管弦楽団 1961年1月録音(Igor Markevitch:Concerts Lamoureux Recorded on January, 1961)

[2026-05-14]

リスト:ピアノ協奏曲第2番 イ長調, S.125(Liszt:Piano Concerto No.2 in A major S.125)
(P)レナード・ペナリオ:ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン交響楽団 1963年3月12日~18日録音(Leonard Pennario:(Con)Rene Leibowit London Symphony Orchestra Recorded on March 12-18, 1963)

[2026-05-12]

イザイ:無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番 ニ短調, Op.27-3(Eugene Ysaye:6 Sonatas for Solo Violin, Op.27-3)
(Vn)マイケル・レビン:1959年1月1日録音(Michael Rabin:Recorded on January 1, 1959)

[2026-05-10]

ハイドン:弦楽四重奏曲 ト長調, Hob.III:66(Op.64-4)(Haydn:String Quartet in G major, Hob.III:66(Op.64-4))
ウィーン・コンツェルトハウス四重奏団:1954年3月録音(Vienna Concert House Quartet: Recorded on March, 1954)

?>