ワーグナー:「パルジファル」第1幕への前奏曲&第1幕「舞台転換の音楽」
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮:ウィーン・フィルハーモニ管弦楽団 1950年6月14日~15日録音
Wagner:Parsifal Act1 Prelude
Wagner:Parsifal Transformation Scene
パルジファルを貫いている最大の特徴は、そのしびれるような陶酔感です
ワーグナーの最後の作品であり「舞台神聖祝祭劇」と呼ばれていることもあって、他のワーグナー作品とは少しばかりことなった雰囲気を持っています。
それは、この作品がバイロイトの歌劇場という彼の夢を実現した劇場での上演を前提として作られていることが深く関係しているようです。
ですから、ワーグナーの死後、この作品のバイロイト以外での上演を拒否して彼の遺志を守ろうとしたのは妻であるコジマにとっては当然のことだったのかもしれません。
しかし、その様なワーグナーの遺志も彼の死後30年が経過して著作権が切れると、世界中の歌劇場は待ちかねたようにこの作品を取り上げます。
1913年の大晦日、その深夜からベルリン、ブダペスト、バルセロナの各歌劇場で「パルジファル」が上演されました。
では、ワーグナーがそこまでしてバイロイトにこだわった理由は何だったのでしょうか?
それは、この作品を一度でも耳にすれば誰でもが簡単に納得できるはずです。
このパルジファルを貫いている最大の特徴は、そのしびれるような陶酔感です。そして、その陶酔感は響きの暖かさと、管弦楽と人間の声が渾然一体となったぼかし効果によるものであることは明らかです。
そして、このような音響効果がもっとも理想的に実現される場所こそがバイロイトの歌劇場なのです。
全てが木造で作られた劇場は響きの暖かさをもたらしていますし、何よりもオーケストラピットが蓋をされていることで、オーケストラの音が観客席に直接的に届くのではなくて、一度反射して舞台の上の人間の声とブレンドされ一体化してから届くような仕掛けになっているのです。
このような劇場でパルジファルが上演されるとき、ワーグナーの理想とした響きが実現されるのです。
しかし、ワーグナーが他の劇場での上演を拒否したのは、そう言う理由だけではなかったようです。
彼はもともとエキセントリックな人間でしたが、年をとるにつれてますますその様な傾向は増していったようです。
そんな彼にとって、己の命を削るようにして作り続けてきた作品が一晩の娯楽として歌劇場で提供されることが許し難いものと思えてきました。さらに、せめて娯楽として提供されるならば我慢が出来たものの、やがて歌劇場は社交の場へと変わっていき、音楽なんかそっちのけでおしゃべりを楽しむだけの場所となっていったのでは、ついにワーグナーの怒りが爆発したと言うことなのでしょう。
彼は、パトロンであるバイエルンの国王をそそのかして、自分の作品専用の劇場をバイロイトに建設させます。
そこでは自分の作品を心の底から敬愛するものだけが参加することが許されたのです。
ですから、バイロイトでの演奏は娯楽や社交ではなくて、どこか宗教的な雰囲気がただようものになっていきます。とりわけ、1913年まではパルジファルはここでしか上演できなかったのですから、その演奏はまさに宗教的儀式に近いものだったといえます。
ですから、「舞台神聖祝祭劇」というのはこけおどしのコピーなどではなく、まさに言葉通りの神秘的なイベントだったのです。
Deccaの販売戦略
クナッパーツブッシュとウィーン・フィルハーモニー管弦楽団都のワーグナーと言えば、1950年後半にステレオで録音された素晴らしい演奏が残されています。
それだけに、1950年のモノラル録音が話題に上ることはそれほどありません。しかし、戦火の傷手から漸くにして立ち直りつつあるウィーン・フィルと未だ活気に溢れていたクナッパーツブッシュとの演奏には興味深いものがあります。
本番の演奏が上手くいかなくなったときに「あのクソったれ練習のおかげだな」と毒づいたというのはクナッパーツブッシュの有名な逸話ですが、それはどうやら1948年のバンベルク交響楽団との演奏旅行の時のエピソードだそうです。
シューマンの第4交響曲の第3楽章にはリピートがたくさんあるのですが、それを行うかどうかは指揮者の判断に任されてます。クナッパーツブッシュは練習の時にそのリピートを全て省略して先へ行こうとしたらしいのです。
しかし、楽団員からどこでリピートすべきか指示して欲しいという要望が出たのです。
そして、練習嫌いなクナパーツブッシュにしては珍しく、一つずつリピートするべき場所を丁寧に指示をしたのです。ところが、肝心の本番で数人がそのリピートの場所を取り替えて演奏がほんの一瞬混乱したのです。さらに、その数日後には、今度は自分自身がそのリピートの指示を忘れて振り間違えるという失敗もしでかしてしまうのです。
この時にクナーパーツブッシュの口からでたのが「あのクソったれ練習のおかげだな」だったのです。
そう言うクナーパーツブッシュの勢い(^^v・・・が一番良くでていたのはこの50年前半の時期だったのではないでしょうか。
なお、この一連のワーグナー録音はこの年にバイロイト音楽祭が復活し、翌年にはクナパーツブッシュが登場することが決まったから実現したものでした。Deccaはそのバイロイトでの録音を計画していて、その指揮者としてはクナパーツブッシュに狙いを定めていました。
ですから、これは翌年の目玉商品となるであろうバイロイトでのクナーパーツブッシュの宣伝という意味合いもあったようです。
つまりは、Deccaの販売戦略だったと言えるのです。
そして、1950年のモノラル録音ですが、さすがはDeccaと思わせてくれるほどに優れた音質で収録されています。
クナーパーツブッシュにしては随分と大人しくセッション録音に取り組んだようです。ウィーン・フィルの素晴らしい音色とクナパーツブッシュならではの大柄で重厚な音楽が聞けることに感謝あるのみです。
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