チャイコフスキー:フランチェスカ・ダ・リミニ, Op. 32
ユージン・オーマンディ指揮 フィラデルフィア管弦楽団 1953年12月23日録音
Tchaikovsky:Francesca da Rimini Op.32
あらゆる音楽は表題的である
ダンテの神曲第5歌で描かれたフランチェスカとパオロの物語は多くの作曲家にインスピレーションを与えてきました。チャイコフスキーもその一人であり、常々「あらゆる音楽は表題的である」と語っていた彼にはピッタリの題材でした。
何故ならば、フランチェスカの物語は、チャイコフスキーが終生愛したテーマ、「宿命に逆らい、真実の愛を求めて闘う人間」にジャスト・フィットする物語だったからえす。
ラヴェンナの領主グイド・ダ・ポレンタ家の美しい姫フランチェスカは、父親の命令によってリミニの領主ジョヴァンニのもとに嫁がされることになります。狙いは長年にわたるポレンタ家とマラテスタ家との争いを終わらせるためでした。
しかし、ジョヴァンニは勇猛な武将ではあったのですが、足が不自由で容姿も醜い男でした、
そんなジョヴァンニを娘のフランチェスカが嫌っていることを知った父親は、ジョヴァンニの弟であり、美青年のパオロを代理人として結婚式を執り行うことにします。
当然のように、フランチェスカとパオロは恋に落ち、フランチェスカは結婚式翌日の朝まで、自分が騙されたことに気づかなかったのです。
しかし、騙されたことを知りながらフランチェスカはパオロに伴われてジョヴァンニのもとに嫁ぐのですが、その様な危うい関係が長続きするはずもありません。
ジョヴァンニは少しずつ二人の関係を疑うようになり、やがて、フランチェスカとパオロがランスロットとグイネヴィア王妃の物語を読んでいる姿を盗み見して二人が愛し合っていることを悟ります。
そして、不意にパオロはフランチェスカを抱き寄せた姿を見たジョヴァンニは嫉妬に狂い、密会中の二人を殺してしまうのです。
チャイコフスキーはこの物語にインスピレーションを得て、一つの交響詩を生み出します。
導入部で地獄の門をくぐると、続いて「色欲の罪人」が烈風に曝される地獄の情景が描かれます。その烈風の中で漂いながらもかたく抱き合うパウロとフランチェスカの姿も描かれます。
続く第2部では愛し合うフランチェスカとパウロの対話と恍惚、そして愛の高まりが頂点に達したところにジョヴァンニの憎悪と嫉妬が総奏で表現され、最後にそのジョヴァンの一撃が振り下ろされます。
そして、音楽は再び嵐が吹きすさぶ地獄の情景が描かれて音楽は終わりを告げます。
交響詩にしては長すぎるという批判もあったのですが、今では「ロメオとジュリエット」と並んで、チャイコフスキーを代表する交響詩の一つとなっています。
もっとも、チャイコフスキー自身はこの作品のことを「エピソードに刺激された一時的なパトスで書かれた迫力のないつまらない作品」と語っているのですが、こういう物言いもまた、チャイコフスキーのいつもの癖のようなものだと言えます。
華麗で美しく、そして楽しく
吉田大明神が、オーマンディを文化の「保守者(キーパー)}と断じたの影響はこの国では大きいでしょう。オーマンディを高く評価する人はこの国では決して多くはありません。
しかし、オーマンディとフィラデルフィア管が作り出す音楽の平均点は決して低くはないと思います。
おまけに、このコンビのレパートリーは非常に広いので、たまには違う音楽を演奏しろよ!と言いたくなってしまた今は亡きクライバーさんなんかとは真逆の存在です。
これほどの多様性に満ちた音楽をこれほどのクオリティで、はずれ無しに演奏できるというのは凄いことです。
しかし、時の流れの中で振り返ってみれば、どうしてもこのコンビでなければ!とか、是非ともこのコンビでの録音で聞いてみたい!と言えるような録音はほとんど見あたらない様に思っていました。そういう風に書いたことも記憶にあります。
しかし、昨今の精緻で透明感に溢れてはいるものの、どこか蒸留水のように無色無臭な音楽が増えてくると、オーマンディとフィラデルフィア管が作り出す響きは非常に貴重な存在ではないかと思うようになってきました。
例えば、今ここで聞いてもらっている一連のチャイコフスキー作品のように、どれを聞いても華麗で美しく、そして楽しさに溢れた音楽作りは十分に魅力的なのです。
さらに言えば、その造形はきわめて真っ当でありスタンダードであって、どこにも奇をてらったところはないのですなのです。(序曲19812年での大砲の乱れうちはやり過ぎかもしれませんが・・・^^;)
当然の事ながら、スタンダードに徹してここまで聞かせるというのは、例えばアバドなんかもそう言う側面があったのですが、結構大変なことなのです。(何もしていないように見えて、聞き進んでいくうちに胸が熱くなってくる。)
吉田大明神は、同じように独裁政治体制を敷いてオケに君臨したオーマンディとセルを較べて「創造者(クリエーター)」と「保守者(キーパー)」の違いを指摘したのですが、そこからさらに時を経てみれば、オーマンディがつくり出したフィラデルフィアサウンドは、十分に「創造者(クリエーター)」たる資格があるように思われてくるのです。
確かに、セルとオーマンディでは方向性が全く違っていましたから、セルの側に肩入れをすれば吉田秀和の言葉は見事なまでに正鵠を得ていたのかもしれません。
しかし、音楽が持っている多様性を幅広く受容する気になれば、もっと有り体に言えば、あれこれ難しいことは考えないでただ美しく華やかな音楽を楽しみたいだけなんだと開き直ってみれば、それはまたオーマンディにはあってセルにはなかった貴重な資質だったことに気づくのです。
とりわけ、こういう華やかさを追求したチャイコフスキーの管弦楽作品ならば、オーマンディの魅力が十分に堪能できるのではないでしょうか。
よせられたコメント 2021-07-25:アドラー ユングさんが解説に、この曲の批判に対してチャイコフスキーが「つまらない曲」といつものように自己卑下のコメントをしたと書いてあります。また第6交響曲「悲愴」についてユングさんがチャイコフスキーが「このプログラムは全く主観的なものだ。私は旅行中に頭の中でこれを作曲しながら幾度となく泣いた。」と言っていると解説しています。こういうのを読むと、チャイコフスキーは自分の音楽を理解してもらえないことが悲しかっただろうな、と思います。チャイコフスキーの中で自然に沸き起こる劇的な感情と音楽は、止められるようなものでなかったんだろうと思います。
この曲、余り聞いたことがなかったのですが、オーマンディの指揮が見事で何度も聴いてしまいました。録音は1953年ですか。弦や管楽器の底光りするような音が聞こえてきます。
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