クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

Pieces by Rene Leibowit(2)~ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より序曲・だったん人の踊り/モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲

ルネ・レイボヴィッツ指揮 パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団 1960年録音





Borodin:Prince Igor, Overture

Borodin:Polovtsian Dances from Prince Igor

Mozart:Le nozze di Figaro, K. 492 "Overture"


ボロディン:歌劇「イーゴリ公」・だったん人の踊り」/モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」序曲


ボロディンが作曲を途中で投げ出すのは日常茶飯事なのですが、彼の畢生の大作とも言うべき歌劇「イーゴリ公」もまた結果としては未完のままで終わってしまっています。そして、驚くのは、その歌劇の序曲もまた未完で終わっているのです。
では、未完で終わった歌劇や序曲が今も広く演奏されるのは何故かと言えば、彼の友人であったリムスキー=コルサコフやその弟子であったグラズノフが彼の遺稿を整理して、未完の部分を補って「完成」させてくれたからです。

この序曲に関して言えば、ボロディンは友人たちの集まりでこの「序曲」をピアノで弾いて披露したりしてはいました。しかし、楽譜は残っていませんでした。
そこで登場するのがグラズノフです。
彼は一度聞いた音楽は、例えそれがオーケストラ曲であってもほぼ正確に記憶して、その記憶をもとにスコアに書き起こすことが出来たといいます。ですから、ボロディンがピアノで演奏した「序曲」を思い出して、それにオーケストレーションをつけたのがこの「序曲」だったのです。彼にとってはそれほど難しい作業ではなかったようです。

この手の話は「天才モーツァルト」のエピソードとしてもよく語られるのですが、優れた音楽家ならば、やってやれない話ではないようです。

序曲には当然の事ながら歌劇の旋律が巧みに組み合わされていて、最後は華やかに締めくくるので聞きごたえは十分です。歌劇「イーゴリ公」と言えば「だったん人の踊り」ばかりが有名なのですが、この「序曲」もまた魅力的な音楽です。

ボロディン:歌劇「イーゴリ公」より「だったん人の踊り」


この作品は、ボロディンがその生涯をかけて作曲に勤しんだ歌劇「イーゴリ公」の中の1曲です。残念ながら、本職が「化学者」で、趣味として作曲活動を続けていたボロディンはリムスキー・コルサコフの助力を得ながらも、最終的には自らの手でその作品を完成させることは出来ませんでした。
よく知られているように、未完成のまま放置されたロシア五人組の作品を丹念に仕上げていったのはリムスキー・コルサコフだったのですが、この「イーゴリ公」もリムスキー・コルサコフによって仕上げられて、1890年11月4日、サンクト・ペテルブルクのマリンスキー劇場で初演が行われました。

「ダッタン人の踊り」はこのオペラの中の第2幕に登場するのですが、その分かりやすく異国情緒に満ちた音楽は単独で取り上げられるようになり、今では本体の歌劇よりもポピュラリティを得ています。
そして、「ダッタン人の行進」は第3幕の冒頭に流れる音楽で、オペラではこの音楽で幕が上がります。

多くのロシア人の捕虜を連れて凱旋してくる場面であり、伝えられる話によると、ボロディンは日本の大名行列を描いたものをもとにこの音楽をイメージしたそうです。

なお、「ダッタン人」という表記は、原題が「ポロヴェツ人」になっているため、明らかに翻訳ミスによるものと思われます。一時は、ともに中央アジアで活躍する遊牧民族なので似たようなものだろう、と言われていましたが、今では明らかにミスだとされています。
それから、大阪人である私などは、「ダッタン人」という言葉を見ると、大阪の詩人、安西冬衛の「てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った。」という一行詩を思い出してしまいます。
もちろん、両者の間には何の関係もありませんが・・・。

モーツァルト:「フィガロの結婚」序曲


今さら、なんの説明も必要ないでしょう。伝えられる話によると・・・この序曲は速く演奏できるのならば、速ければ速いほどいいそうです。何処で、誰が言ったかかは思い出せませんが・・・。(^^;

「緩さ」みたいなものが妙に魅力的


高い分析力と良い意味での「緩さ」が上手くマッチして実に良い雰囲気に仕上がっている
レイボヴィッツの演奏を聞くと、どうしてもマルケヴィッチの演奏が比較の対象として浮かび上がってきます。両者の共通点はともに「作曲家」でもあったと言うことです。
レイボヴィッツは「十二音技法の使徒」と呼ばれるほどに新ウィーン楽派の音楽の普及につとめ、あわせてその技法に関しても多くの著書(「現代音楽への道」「十二音技法とは何か」「シェーンベルクとその楽派」など)を残し、自らもその理論の上に立った作品を多く残しています。
マルケヴィッチもまた、第二次世界大戦開戦までは「恐るべき子供たち」の1人として「現代音楽では最も驚異的な人物」であると評されていました。しかし、結果として振り返ってみれば、同じく「恐るべき子供たち」であったストラヴィンスキーやプロコフィエフと較べてみれば、その差は歴然としています。

つまり、気楽な物言いを許してもらうならば、レイボヴィッツが「指揮活動もする作曲家」であったのに対して、マルケヴィッチの場合は「作曲もしていた指揮者」という捉え方をされるようになったのです。
ただし、両者ともに作品を分析する能力に関しては卓越したものを持っていました。しかし、その分析したものをオーケストラに明確に伝え、統率する能力に関しては大きな差があったと言わざるをえません。もっとも、指揮者稼業だけで飯を食っている連中の中でもマルケヴィッチと肩を並べられるほどの指揮の能力を持っていた人は殆どいないでしょうから、それは仕方のないことだったのかもしれません。

しかし、マルケヴィッチの場合は自分が納得できる表現に辿りつくまでは容赦なくオーケストラのメンバーを絞り上げるので、どの録音をとっても強い緊張感に満ちた引き締まった姿が呈示されるのですが、時にはそれが行き過ぎて息苦しさを感じてしまう場合もありました。
それと比べると、レイボヴィッツの指揮には良い意味での緩さがありました。おそらくは、本意としてはマルケヴィッチのように追い込みたかったのかもしれませんが、自分にはそこまでの指揮のスキルというか、粘着性というか、執念というか、そういうものがないことも十分に承知していたのでしょう。

そして、そう言う「緩さ」のようなものが、時にシューマンの交響曲第3番「ライン」の第1楽章ようにとんでもないことになってしまうこともあるのですが、対象が多くの人が聞きなじんだことがあるような「小品」になると、その高い分析力と良い意味での「緩さ」が上手くマッチして実に良い雰囲気に仕上がっていたりします。

調べてみると、レイボヴィッツは「リーダーズ・ダイジェスト」からの依頼で膨大な数の小品を録音しています。
おそらく、レイボヴィッツにとってはそれほど楽しい仕事ではなかったのかもしれませんが、食っていくためには必要な仕事だったのでしょう。あてがわれたオーケストラも「インターナショナル交響楽団」とか「ロンドン音楽祭管弦楽団」「パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団」などと言う「怪しげ」なものばかりです。

おそらく、それらは実在するオーケストラが契約上の関係で名前を出せないための変名である場合もあるのですが、明らかに録音用に臨時編成されたオーケストラも混じっていたようです。
そんなわけで、音楽そのものはレイボヴィッツが本来指向する方よりはどんどん緩くなっていくのですが、聞き手からするとその「緩さ」みたいなものが妙に魅力的に聞こえるのです。

よくぞこれで「O.K」を出したものだと思うような録音もあるのですが、それが指揮者としてのレイボヴィッツの姿を如実にあらわしているのかもしれません。しかし、結果として、ほかではぜったに聞けないユニークな演奏に仕上がっているのですから、聞き手からすればそれを楽しめばいいだけです。

「パリ・コンセール・サンフォニーク協会管弦楽団」とは、おそらく「パリ音楽院管弦楽団」の変名と思われるのですが、そう考えれば実にコンセルヴァトワールのオケらしい演奏です。このオケと若きショルティのバトルは有名なエピソードですが、もしもこの時の指揮者がマルケヴィッチだったらきっと血を見たことでしょう。(^^;。
しかし、そういう「緩さ」が「それ行けどんどん」の華やかさに昇華していて聴き応え満点の演奏になっていることで、に聞き飽きるほどに聞いている音楽にしても実にユニークな表現に仕上がっています。

そんなこんなで、こういう一連の小品の録音はレイボヴィッツという「指揮者」のもう一つの側面を明らかにしてくれているのかもしれません。

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