クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第24番「テレーゼ」 嬰ヘ長調 Op.78(Beethoven:Piano Sonata No.24 in F-sharp major, Op.78 "A Therese")

(P)ハンス・リヒター=ハーザー 1958年5月録音(Hans Richter-Haaser:Recorded on May, 1958)



Beethoven:Piano Sonata No.24 in F-sharp major, Op.78 "A Therese" [1.Adagio cantabile - Allegro ma non troppo]

Beethoven:Piano Sonata No.24 in F-sharp major, Op.78 "A Therese" [2.Allegro vivace]


繊細さへのチャレンジ

巨大で、闘争的な中期の傑作を書いたあとで、今度はそれらとは正反対な、言うなれば「繊細さへのチャレンジ」とも言うべき試みで作曲されたのがこの作品です。
ですから、短い2楽章からなるソナタですが決して地味な作品というわけではありません。

例えば、冒頭の4小節の「Adagio cantabile」は導入部のように見えて、それ以前のものとは全く異なります。
それは、よく聞けばすぐに了解できるように、それに続く主部を導くためのイントロダクションではなくてそれ自身で一つの音楽として完結してしまっています。
そして、音楽として完結しているものが導入になるはずもなく、それは言ってみればごく短いながらも一つの楽章のような位置にあるのです。

このように、このソナタには中期の力強いベートーベンとは全く異なる姿でありながら、作品31で新しい道を模索することを宣言したベートーベンの姿が刻み込まれたソナタになっているのです。

なお、この作品が「テレーゼ・ソナタ」と呼ばれるのはベートーベンとは格別に親しかったブルンスヴィック伯爵家の令嬢テレーゼに献呈されているからです。
一家はベートーベンを快く家庭に迎え入れ、一時はこのテレーゼがベートーベンの「不滅の恋人」に擬せられたこともありました。その説は今日では否定だれているのですが、テレーゼはベートーベンの死後にハンガリーで託児所を作り、生涯独身のままに社会活動に力を尽くしました。
第1楽章冒頭で歌い出される優美な旋律はこのテレーゼを言う女性を想像させるに十分なほど美しい音楽となっていて、ベートーベン自身もこの作品をことのほか気に入っていたことを弟子のシンドラーが伝えています。


  1. 第1楽章:Adagio cantabile - Allegro ma non troppo
    冒頭の「Adagio cantabile」」はそれだけで一つの音楽として完結しています。そして、それに続く「Allegro ma non troppo」は動機の構築ではなくて旋律が持つ叙情的な魅力だけで成り立っています。
    その意味では、ベートーベンのソナタの中でも非常に特殊なポジションを占める音楽になっています。

  2. 第2楽章:Allegro vivace
    ソナタ形式とも、ロンド形式とも見られる独創的なスタイルを持った楽章です。ローゼン先生はこれを「風変わりなロンド」と述べています。ワルトシュタインでは複雑そうに見えて18世紀的な枠に収まっていたロンドがここでは風変わりなスタイルへと歩を進めているのです。
    また、ロンド主題の各部分が唐突にレガートに変わることによって、この楽章の暖かくて叙情的な雰囲気が強められています。



ファンタスティックな世界


こういう人の演奏を聴かされると本当に困ってしまいます。
オレがオレがと前に出てくるタイプではないので、「こう言うところがなかなかのものでしてね」という体で済ますわけにはいかないのです。
と言うか、そう言う文章を綴るための取っかかりがないのです。

だったら、それはつまらない演奏なのかと言われればそんな事はない。
かといって、「とっても立派なベートーベンなのです。終わり。」では子供の作文にもならない。
だから困ってしまうのです。


これが、彼のピアノ・ソナタを聞いたときの率直な感想でした。
例えば、合唱幻想曲のような外連味あふれる作品でもでも控えめな人だなと思ってしったものです。

残された録音の数が少ないこともあって、今となってはリヒター=ハーザーというピアニストを記憶にとどめている人は多くはないと思います。
調べてみると「チェルニーの孫弟子にあたるピアニストで、ベートーヴェン直系のドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」という位置づけになるらしいです。

さらに突っ込んで調べてみると、ピアニストのキャリアを積み上げようという時に戦争に巻き込まれ、防空兵として長期にわたってピアノにふれることのできない生活を強いられたようなのです。
戦争が終わったときには指は完全に錆び付いてしまっていたと本人は述懐しています。

ですから、戦後は指揮者やピアノ教師として活動を再開したようです。
しかし、ピアニストとしての活動を諦めたわけではなく、50年代にはいるとその錆び付いた指も少しずつ復活していったようです。
そして、53年に病気のソリストの代役としてバルトークのコンチェルト(2番)を演奏して復活への第一歩をつかみ取りました。

その後はベートーベンを中心としたレパートリーで評価を確立し、最初に紹介した「ベートーヴェン直系のドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」と呼ばれる地位を築き上げたのです。
しかし、リヒター=ハーザーのピアノはこの「ドイツ・ピアノ音楽の厳粛なる伝道師」」という言葉から連想される「ゴツゴツ」した「無骨さ」とは無縁です。
無縁であるどころか、逆に何とも言えない優雅でファンタスティックな世界が展開されます。

ただし、こういう立派さはぼんやり聞いているとなかなか気がつきにくい性質のものです。
もちろんバックハウスのようなベートーベンも立派なものですが、立派さにはいくつものバリエーションがあることを教えてくれる演奏です。

ただし、人によってはありふれた「スタンダード的な演奏」と判断する人もいるでしょう。それはそれで、決して間違った判断ではないと思います。
しかしながら、「スタンダード」だと思ってもらえるだけでも凄いことなので・・・。

よせられたコメント

2026-01-06:KOSEKI


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