クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:交響曲第4番 ホ短調 作品98

ジョージ・セル指揮 クリーヴランド管弦楽団 1966年4月8日&9日録音





Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [1.Allegro non troppo]

Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [2.Andante moderato]

Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [3.Allegro giocoso]

Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98 [4.Allegro energico e passionato]


とんでもない「へそ曲がり」の作品

ブラームスはあらゆる分野において保守的な人でした。そのためか、晩年には尊敬を受けながらも「もう時代遅れの人」という評価が一般的だったそうです。

この第4番の交響曲はそういう世評にたいするブラームスの一つの解答だったといえます。
形式的には「時代遅れ」どころか「時代錯誤」ともいうべき古い衣装をまとっています。とりわけ最終楽章に用いられた「パッサカリア」という形式はバッハのころでさえ「時代遅れ」であった形式です。
それは、反論と言うよりは、もう「開き直り」と言うべきものでした。
 
しかし、それは同時に、ファッションのように形式だけは新しいものを追い求めながら、肝腎の中身は全く空疎な作品ばかりが生み出され、もてはやされることへの痛烈な皮肉でもあったはずです。

この第4番の交響曲は、どの部分を取り上げても見事なまでにロマン派的なシンフォニーとして完成しています。

冒頭の数小節を聞くだけで老境をむかえたブラームスの深いため息が伝わってきます。第2楽章の中間部で突然に光が射し込んでくるような長調への転調は何度聞いても感動的です。そして最終楽章にとりわけ深くにじみ出す諦念の苦さ!!

それでいながら身にまとった衣装(形式)はとことん古めかしいのです。
新しい形式ばかりを追い求めていた当時の音楽家たちはどのような思いでこの作品を聞いたでしょうか?

控えめではあっても納得できない自分への批判に対する、これほどまでに鮮やかな反論はそうあるものではありません。

  1. 第1楽章 Allegro non troppo ソナタ形式。
    冒頭の秋の枯れ葉が舞い落ちるような第1主題は一度聞くと絶対に忘れることのない素晴らしい旋律です。

  2. 第2楽章 Andante moderato 展開部を欠いたソナタ形式

  3. 第3楽章 Allegro giocosoソナタ形式
    トライアングルやティンパニも活躍するスケルツォ楽章壮大に盛り上がる音楽は初演時にはアンコールが要求されてすぐにもう一度演奏されたというエピソードものっています。

  4. 第4楽章 Allegro energico e passionatoパッサカリア
    管楽器で提示される8小節の主題をもとに30の変奏とコーダで組み立てられています。



整理されきった表現の中に散りばめられた細かいニュアンスを聞き取ってください


セルのブラームスのステレオ録音の初出年がなかなか確定できなかったのですが、多くの方から情報をいただき、全てのステレオ録音が1967年までにリリースされていたことが分かり、ぎりぎりアウトではなくてぎりぎりセーフであることが分かりました。
そのおかげでセルが晩年に一気にステレオ録音したブラームスの4つの交響曲と3つの序曲が全て紹介できるのは有り難い限りです。

とりわけ、第2番と第4番はモノラル録音の時代にもスタジオ録音はしていないので、このステレオ録音はセルという指揮者を知る上ではとても貴重です。
何故ならば、スタジオ録音では、1番も3番に関しては「セルという指揮者は若いときも壮年期も、そして晩年においても、そのスタンスの変わらなさに改めて感心させられました。」と書いたのですが、ライブ録音しか残っていない2番と4番では随分と雰囲気が異なるからです。

第2番に関しては1957年のクリーブランド管弦楽団とのライブ録音と、1958年のケルン放送交響楽団とのライブ録音をすでに紹介しています。
第4番に関しては北ドイツ放送交響楽団との1959年5月25日録音を紹介しています。

第2番のライブ録音に共通するのは、それなりに折り目正しく演奏しながら、最後の場面では結構演奏効果を狙うかのように怒濤の迫力で追い込んでいることです。それは、ホルンが致命的なミスがしでかしたたクリーブランド管弦楽団とのライブ録音ではより顕著であり、1958年のケルン放送交響楽団とのライブ録音でも、最後は結構追い込んでいます。

そして、この第4番でのライブ録音でも、傾向は同じです。
ケルンのオケと較べればいささかおとなしめでしたが、スタジオ録音のセルの姿からすればかなり雰囲気が異なっていることは事実です。

ケルンのオケが基本的に放送局のオーケストラというニュートラルな性格を持っているのに対して、同じ放送局のオケであっても北ドイツ放送交響楽団は疑いもなく「イッセルシュテットのオケ」という刻印が刻み込まれていました。
さらに言えば、北ドイツ放送交響楽団の本拠地ハンブルグはブラームスが生まれた町ですから、この作曲家に寄せる思いには深いものがあります。

オケの背後には常にイッセルシュテットがいて、そのさらに奥にはブラームスが存在する北ドイツ放送交響楽団はセルにとっても扱いやすいオケではなかったのかもしれません。

私は、セルという人はライブでもスタジオ録音でもあまり差がないと思っていました。
特に、クリーブランド管とのライブ録音などを聞くと本当にスタジオ録音との差はほとんどなくて、あの第2番でホルンがミスをするというような「異常事態」でも発生しない限り、「セルのライブ録音というのはミスが訂正されなかったスタジオ録音」みたいなものだと思っていました。

しかし、夏の時期にヨーロッパに渡り、ヨーロッパのオケを指揮するときはかなり手綱を緩めた自由な演奏を展開していることに気づかされます。おそらく、それこそがセルの一番奥に潜んでいるロマン主義的な熱さであって、それが、セルという指揮者の根っこが世紀末ウィーンにあったことにあらためて気づかせてくれるのです。

しかしながら、手兵のクリーブランド管とのスタジオ録音となると、そう言う奔馬が暴れ出すことを極力戒めて、徹底的にバランスを重視しながら完成度の高さを目指した演奏を展開します。そして、その表現が時には整理されきったが故の物足りなさを感じさせることもあるのですが、よく聞き込んでみれば、その整理されきったように見える表現の隅々に細かいニュアンスがちりばめられている事に気づかされます。

さらに言えば、この66年の録音にはモノラルの時代に感じたような厳しい緊張感はありません。60年代に入ってクリーブランド管が完成の域に達してくると、ますます「笑わん殿下」と言われたセルの姿がより際だってきます。
それを人によってはセルが完成したクリーブランド管に包摂されてしまったとも言うのですが、それでもセルの意志は隅々にまで行き届いています。

しかしながら、これこそが「何度も聞き直される」事を前提とした「録音」と言う行為に対する一つの「解」なのでしょう。

よせられたコメント

2020-04-21:コタロー


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