シューベルト(ウィルヘルミ編):アヴェ・マリア
(Vn)エリカ・モリーニ (P)レオン・ポマーズ 1956年録音
Schubert:Ave Maria, D.839(Arr.Wilhelmj)
父の罪が赦されることを祈る歌
シューベルト:アヴェ・マリア D.839
この作品は今となってはウィルヘルミによって編曲されたヴァイオリン曲としての方が有名になっています。
しかしながら、作曲したときからこの歌曲の美しさは多くの人に愛されたようで、シューベルト自身もよく歌っていたようです。
歌詞はイギリスの詩人ウォルター・スコットの「湖上の美人」からとられたものです。
シューベルトはこの叙事詩から7つの詩を選び出して作曲しているのですが、これはその6番目に当たる作品です。
「湖上の美人」はスコットランドのカトリン湖を背景に、エレンを中心とした恋と武勇の物語なのですが、コノ「アヴェ・マリア」はそのエレンが湖畔の聖母象に額づいて父の罪が赦されることを祈る歌です。
アヴェ・マリアやさしき乙女
お聞きください ひとりの娘の願いを
この険しく荒々しい岩山の上より
わが祈りがあなた様のもとへと届きますように
私共は安らかに眠ります 朝が来るまで
たとえ人々がどんなに残酷であろうとも
おお乙女よ、嘆きにくれるこの娘をご覧ください
おお聖母様、嘆願するひとりの子のことをお聞きください
アヴェ・マリア
アヴェ・マリア穢れなきお方
私共がこの岩場に伏して
眠るときも あなたの護りに包まれてさえいれば
この堅い岩も私共には柔らかく感じられることでしょう
あなたがほほ笑めば、バラの香りが漂います
この湿った岩の隙間にも
おお聖母様、この子の願いをお聞きください
おお乙女よ、この娘が呼びかけます
アヴェ・マリア
アヴェ・マリア清らかな乙女よ
大地と空の悪魔たちも
あなたのやさしい眼差しの恵みに追われて
私共のところに住み着くことはできません
私共は頭を垂れて 運命に従いましょう
私共にあなたの聖なる慰めがあるならば
この娘に身をかがめられてください
この子、父のために願いをかける者の方へと
古き良きヨーロッパの象徴のような女性の目に映じた「滅び行くヨーロッパの姿」
エリカ・モリーニと言えば、その背筋の伸びた清冽な音楽がすぐにイメージされます。そして、彼女こそは古き良きヨーロッパの象徴のようなヴァイオリニストでした。
その経歴を見てみれば、20世紀の初頭にオーストリアに生まれ,、わずか14才にしてベルリン・フィルやゲヴァントハウス管弦楽団と共演して衝撃的なデビューをはたしています。父はヨアヒムの系列をくむヴァイオリニストであり、彼女もまた生粋のウィーンが生んだヴァイオリニストでした。
しかし、1938年にナチスの迫害を逃れてアメリカに渡り、その後はニューヨークを拠点として音楽活動を続けることになってしまうのですが、それでも多くの亡命演奏家たちのようにアメリカという新しい社会の価値観に迎合することはありませんでした。彼女のレパートリーはウィーン古典派からブラームスなどのロマン派の作品あたりに限られていて、そう言う基本的なスタンスを彼女はアメリカに移っても頑固なまでに崩さなかったのです。
そんな彼女の目に、戦争に巻き込まれ、あらゆる美しい伝統と文化が破壊され、焼き尽くされていく現実はどのように映ったのでしょう。
確かに、戦後に残された彼女の数少ない録音を聞けば、それでも彼女は凛と背筋を伸ばしているように見えます。
しかし、彼女にしては珍しいレパートリーと思われる幾つかの小品の録音を聞いたときに、そう言うけなげなモリーニとは全く違う姿にふれて呆然としたのです。
そこには、疑いもなく、モリーニという古き良きヨーロッパの象徴のような女性の目に映じた「滅び行くヨーロッパの姿」そのものが刻み込まれていました。
そして、そこでは老いた没落貴族の女性が、過ぎ去った栄光の過去を思い出しながら一人でダンスを踊っているような光景が浮かんでくるのです。
そして、それはどこかで観た映画の一シーンであったような記憶があるのですが、タイトルがどうしても思い出せないのです。もしかしたら、そんなシーンがあったというのは私の妄想かもしれませんが。
いや、そう言う曖昧な映像を引き合いに出すよりも、このモリーニの音楽こそはヨーロッパの没落を見事に描ききっています。
もちろん、言うまでもないことですが、戦争によってどれほど痛めつけられても「現実のヨーロッパ」は滅びることはなく再び蘇っていくのですが、そしてその事をモリーニもまた理解していたのでしょう。しかし、そうして蘇った「新しいヨーロッパ」は彼女にとってはそれはもう全く別のヨーロッパであったのです。
それはすべてのものが消えてなくる事よりも、さらに大きな喪失感を彼女に感じさせたことは容易に想像できます。
よせられたコメント 2019-05-08:joshua サンセット大通り 原題: Sunset Boulevard のラストシーンではないでしょうか?
ビリー・ワイルダー監督でしたね。
貴族をかつての名女優になぞらえればユングさんの文章に合ってくるように思います 2021-02-25:joshua 考え直してみると、モリーニの演奏からYUNG氏が思い描くイメージの映画とは、【舞踏会の手帖】かもしれませんね。
【最近の更新(10件)】
[2026-10-30]
ヘンデル:ハープ協奏曲変ロ長調 Op.4-6(Handel:Harp Concerto in B-flat major, Op.4, No.6)
(Harp)リリー・ラスキーヌ:ジャン=フランソワ・パイヤール指揮 パイヤール室内管弦楽団 1964年1月22日録音(Lily Laskine:(Con)Jean-Francois Paillard Orchestre de chambre Jean-Francois Paillard Recorded on Januery 22, 1964)
[2026-10-27]
ディエゴ・オルティス:レセルカーダとその基となった歌曲およびマドリガル集(Diego Ortiz:Recercadas, Songs And Madrigals)
(Lute)ヴァルター・ゲルヴィッヒ (Vdg)アウグスト・ヴェンツィンガ (harpsichord)エドゥアルト・ミュラー 1953年10月8日~9日録音(Walter Gerwig:(Vdg)August Wenzinger (harpsichord)Eduard Muller Recorded on October 8-9, 1953)
[2026-10-25]
ヴォーン・ウィリアムス:トマス・タリスの主題による幻想曲(Vaughan Williams:Fantasia on a Theme_by Thomas Tallis)
マルコム・サージェント指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1959年録音(Sir Malcolm Sargent:The Philharmonia Orchestra Recorded on 1959)
[2026-10-23]
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番 ニ短調 Op.30(Rachmaninov:Piano Concerto No.3 in D minor, Op.30)
(P)モーラ・リンパニー:アンソニー・コリンズ指揮、ロンドン新交響楽団(Moura Lympany:(Con)Anthony Collins New Symphony Orchestra of London Recorded on 1952)
[2026-10-21]
リリ・ブーランジェ:古い仏教の祈り(Boulanger:Vieille Priere Bouddhique)
イーゴリ・マルケヴィチ指揮:ラムルー管弦楽団 エリーザベト・ブラッスール合唱団 (T)レイモンド・アマデ 1958年録音(Igor Markevitch:Orchestre Des Concerts Lamoureux Elisabeth Brasseur (T)Alain Fauqueur Recorded on 1958)
[2026-10-19]
エマヌエル・ポンセ:イ短調組曲(Poncw:Suite In A minor)
(Gt)アンドレス・セゴビア:1930年録音(Andres Segovia:Recorded on 1930)
[2026-10-17]
ベートーベン:ヴィンターの歌劇「妨げられた奉納式」より四重唱「子供よ、静かにお休み」の主題による7つの変奏曲 WoO 75(Beethoven:7 Variations on the Quartet Kind, willst du ruhig schlafen from Winter's Das unterbrochene Opferfest, WoO 75)
(P)アルフレッド・ブレンデル 1958年&1960年録音(Alfred Brendel:Recorded on 1958 & 1960)
[2026-10-15]
メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番 ト短調, Op.25(Mendelssohn:Piano Concerto No.1 in G minor, Op.25)
(P)モーラ・リンパニー:ラファエル・クーベリック指揮、フィルハーモニア管弦楽団 1952年録音(Moura Lympany:(Con)Rafael Kubelik The Philharmonia Orchestra Recorded on 1952)
[2026-10-13]
ドヴォルザーク:スラブ舞曲 第2集 作品72(Dvorak:Slavonic Dances Op.72)
クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1952年&1954年録音(Kurt Sanderling:Leningrad Philharmonic Orchestra Recorded on, 1952 & 1954)
[2026-10-11]
ヴィオッティ:ヴァイオリン二重奏曲 ト長調(Viotti:Duet for Violin Solo in G minor)
(Vn)ジョコンダ・デ・ヴィート:(Vn)イェフディ・メニューイン 1955年12月4日&6日録音(Gioconda de Vito:(Vn)Yehudi Menuhin Recorded on Decembr 4&6, 1955)