クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:ハイドンの主題による変奏曲 変ロ長調 op.56a

ヴォルフガング・サヴァリッシュ指揮 ウィーン交響楽団 1959年11月録音





Brahms:Variations on a Theme by Haydn, Op.56a


変奏曲という形式にける最高傑作の一つ

これが、オーケストラによる変奏曲と括りを小さくすれば、間違いなくこの作品が最高傑作です。
「One of The Best」ではなく「The Best」であることに異論を差しはさむ人は少ないでしょう。

あまり知られていませんが、この変奏曲には「オーケストラ版」以外に「2台のピアノによる版」もあります。最初にピアノ版が作曲され、その後にオーケストラ版が作られたのだろうと思いますが、時期的にはほとんど同時に作曲されています。(ブラームスの作品は交響曲でもピアノのスコアが透けて見えるといわれるほどですから・・・)

しかし、ピアノ版が評判となって、その後にオーケストラ版が作られた、という「よくあるケース」とは違います。作品番号も、オーケストラ版が「Op.56a」で、ピアノ版が「Op.56b」ですから、ほとんど一体のものとして作曲されたと言えます。

この作品が作曲されたのはブラームスが40歳を迎えた1873年です。
この前年にウィーン楽友協会の芸術監督に就任したブラームスは、付属している図書館の司書から興味深いハイドンの楽譜を見せられます。野外での合奏用に書かれた音楽で「賛美歌(コラール)聖アントニー」と言う作品です。
この作品の主題がすっかり気に入ったブラームスは夏の休暇を使って一気に書き上げたと言われています。

しかし、最近の研究では、この旋律はハイドン自身が作曲したのではなく、おそらくは古くからある賛美歌の主題を引用したのだろうと言われています。
それが事実だとすると、、この旋律はハイドン、ブラームスと二人の偉大な音楽家を魅了したわけです。
確かに、この冒頭の主題はいつ聞いても魅力的で、一度聞けば絶対に忘れられません。
参考までに全体の構成を紹介しておきます。


  1. 主題:アンダンテ

  2. 第1変奏:ポコ・ピウ・アニマート

  3. 第2変奏:ピウ・ヴィヴァーチェ

  4. 第3変奏:コン・モート

  5. 第4変奏:アンダンテ・コン・モート

  6. 第5変奏:ヴィヴァーチェ

  7. 第6変奏:ヴィヴァーチェ

  8. 第7変奏:グラツィオーソ

  9. 第8変奏:プレスト・ノン・トロッポ

  10. 終曲:アンダンテ



冒頭の魅力的な主題が様々な試練を経て(?)、最後に堂々たる姿で回帰して大団円を迎えると言う形式はまさに変奏曲のお手本とも言うべき見事さです。

美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに写ります


サヴァリッシュがこの世を去ってから6年の時が過ぎてしまいました。早いものです。
サヴァリッシュと言えば、良くも悪くもつねにN響の指揮台に立っていた人であり、それ故に、良くも悪くも私たち日本人にとっては実になじみ深いマエストロだったわけです。そんなサヴァリッシュが最後にN響の指揮台に立ったのは(椅子に座っていましたが・・・^^;)2004年でしたから、その姿に接することがなくなってから15年の時が経過しているわけです。

「十年一昔」という言葉を信じるならば、その年月は多くの人の記憶から忘れ去られるのには十分すぎるほどの時の経過なのですが、その姿はまだまだ私たちの記憶の中でしっかりと生き続けています。
毎年、毎年、N響の指揮台に立って演奏している頃は、何の特徴もない凡庸な指揮者みたいなことをいわれたものでした。
しかし、こうして時を隔てて彼の業績を俯瞰できるようになれば、その「凡庸」と切って捨てた評価の半分は的を射ていていましたが、残りの半分はとても重要なことを見落としていたことに事に気づくのです。

私なりの結論を言えば、サヴァリッシュという人は、彼が若い時代には未だ現役として活躍していた往年のマエストロたちとは一線を画することを「使命」とした指揮者でした。

サヴァリッシュと言えば生粋のコンサート指揮者のように思われているのですが、アーヘン(1953年)→ヴィースバーデン(1958年)→ケルン(1960年)→バイエルン(1971年)という形でキャリアの階段を上っていったのです。そのキャリアを眺めてみれば、彼もまた古きヨーロッパの伝統に従って地方の小さな歌劇場からの叩き上げてきた指揮者である事が分かります。

しかし、キャリア的には伝統的な道筋を駆け上がりながら、その音楽は同時代のマエストロたちとは全く異なるものでした。
その違いを誤解を恐れずに言い切ってしまえば、当時のマエストロたちがどのような作品であってもそこに自分なりの「味付け」を施すことが常であり、聞き手もまたその「味付け」を期待して音楽に耳を傾けていたのに対して、サヴァリッシュはその様な「味付け」を施すことを意図的に拒否したことでした。
でも、それってトスカニーニを源流とする「ザッハリヒカイト」の流れの中にあるという事じゃないの、と言われそうなのですが、どうもそれとも違うようなのです。例えば、トスカニーニ、ライナー、セルと並べてくれば、そこからは「ザッハリヒカイト」という「強烈な意志」に基づく「味付け」を感じてしまうのです。それは、クレンペラーにしても同様です。

そう言う意味では、フルトヴェングラーやクナパーツブッシュなどは言うまでもないのですが、トスカニーニ以降のザッハリヒカイトな流れともまた違う、さらにその先の音楽の姿を求めた人だったのです。
その背景には、当時の「ザッハリヒカイト」を標榜した指揮者達以上に作曲家の書いたスコアに対する信頼感があったのでしょう。
それは、言葉をかえれば、指揮者の仕事とは、その書かれてあるスコアを読み違えることなく、そのあるがままの姿で聞き手に対して提供することだという「信念」があったのです。ですから、彼にとって絶対に必要だったのは「これで演奏できなければ嘘だろう・・・と思うほどに正確無比な指揮ぶり」だったのです。

しかし、そう言う彼が指向する音楽は、21世紀に入っても未だ50~60年代のマエストロたちがしぶとく生き残っているこの国では肯定的にとらえられることはありませんでした。
曰く、「音楽が持つ楽しさや香りが希薄」、曰く、「柔軟性や楽しさが乏しい」などと言われたものでした。
ですから、彼のことを「凡庸」と切って捨てた評価には一定の根拠はあったのです。

しかしながら、彼は最初からその様な「味付け」は放棄しているのであって、意図的に放棄しているものがどこを探しても見つからないと言って文句を言うのは世間では「言いがかり」と言います。つまりは、彼のことを「凡庸」と切って捨てた人たちはサヴァリッシュが指向した「とても大切なこと」を見落としていたのです。

そう言えば、富士フイルムのコマーシャルで「美しい方はより美しく、そうでない方はそれなりに写ります」というキャッチコピーがありました。あれはそうしたサヴァリッシュの方法論に言い表すのにもピッタリだったのかもしれません。
そう言う意味では、フルトヴェングラーなんかでは何をやっても「フルトヴェングラーの音楽」になってしまっているのですが、サヴァリッシュの場合は「サヴァリッシュの音楽」を聞かせようなどという思いは全くなく、あるのは「ベートーベンの音楽」や「ブラームスの音楽」であったはずです。
ですから、あまりにも生真面目で遊びがなさ過ぎると言われる彼の音楽が、時に思わぬほどの瑞々しさで羽ばたくような瞬間があるのですが、それもまたその功は作曲家の書いたスコアにあるというのがサヴァリッシュのスタンスだったのです。

そして、そんなサヴァリッシュの美質が遺憾なく発揮されているのが60年代のフィリップスでの録音だったのかもしれません。
このブラームスの一連の小品などは、どれをとってもそう言うサヴァリッシュの姿が見事に刻み込まれています。

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