モーツァルト:ディヴェルティメント 第17番 ニ長調 K.334 「ロビニッヒ・ディヴェルティメント」
クルト・ザンデルリング指揮 レニングラード・フィルハーモニー交響楽団 1950年&1951年録音
Mozart:Divertimento in D major, K.334/320b [1.Allegro]
Mozart:Divertimento in D major, K.334/320b [2.Thema mit Variationen: Andante]
Mozart:Divertimento in D major, K.334/320b [3.Menuetto]
Mozart:Divertimento in D major, K.334/320b [4.Rondo: Allegro]
弦楽器と管楽器のためのディヴェルティメント
ディヴェルティメントというのは18世紀に流行した音楽形式で、日本語では「嬉遊曲」と訳されていました。しかし、最近ではこの怪しげな訳語はあまり使われることがなく、そのままの「ディヴェルティメント」と表示されることが一般的なようです。
さて、このディヴェルティメントとよく似た形式としてセレナードとかカッサシオンなどがあります。これらは全て貴族などの上流階級のための娯楽音楽として書かれたものだと言われていますが、その区分はあまり厳密ではありません。
ディヴェルティメントは屋内用の音楽で、セレナードは屋外用の音楽だったと説明していることが多いのですが、例えば有名なK.525のセレナード(アイネク)がはたして屋外での演奏を目的に作曲されたのかと聞かれればいたって疑問です。さらに、ディヴェルティメントは6楽章構成、セレナードは8楽章構成が典型的な形と書かれていることも多いのですが、これもまた例外が多すぎます。
さらに言うまでもないことですが、19世紀以降に書かれたセレナード、例えばチャイコフスキーやドヴォルザークなどの「弦楽ためのセレナード」などは、18世紀おけるセレナードとは全く違う種類の音楽になっています。ディヴェルティメントに関しても20世紀になるとバルトークの「弦楽のためのディヴェルティメント」のような形で復活するのですが、これもまた18世紀のものとは全く異なった音楽となっています。
ですから、これらは厳密なジャンル分けを表す言葉として使われたのではなく、作曲家の雰囲気で命名されたもの・・・ぐらいに受け取っておいた方がいいようです。
実際、モーツァルトがディヴェルティメントと命名している音楽だけを概観してみても、それは同一のジャンルとしてくくることに困難を覚えるほどに多様なものとなっています。
楽章構成を見ても6楽章構成にこだわっているわけではありませんし、楽器構成を見ても管楽器だけによるもの、弦楽器だけのもの、さらには両者を必要とするものと多種多様です。作品の質においても、「卓上の音楽」にすぎないものから、アインシュタインが「音楽の形式をとった最も純粋で、明朗で、この上なく人を幸福にし、最も完成されたもの」と褒めちぎったものまで、これもまた多種多様です。アインシュタインは、全集版において「ディヴェルティメント」という名前がつけられていると言うだけで、騎馬バレーのための音楽と繊細この上ない室内楽曲がひとまとめにされていることを強く非難しています。ですから、彼は全集版にしたがって無造作に分類するのではなく、作品を一つ一つ個別に観察し、それがどのグループに入るかを決める必要があると述べています。
新モーツァルト全集においては、アインシュタインが指摘したような「無情」さは幾分は改善されているようで、楽器構成を基本にしながら以下のような3つのカテゴリーに分類しています。
<第1部> オーケストラのためのディヴェルティメント、カッサシオン
<第2部> 管楽器のためのディヴェルティメント
<第3部> 弦楽器と管楽器のためのディヴェルティメント
アインシュタインが「音楽の形式をとった最も純粋で、明朗で、この上なく人を幸福にし、最も完成されたもの」と評価したのは「K247・K287・K334」の3つの作品のことで、新全集では第3部の「弦楽器と管楽器のためのディヴェルティメント」のカテゴリに分類されています。さらに、姉ナンネルの誕生日のために書かれたK251(アインシュタインは「他の3曲よりもやや急いで投げやりに書かれた」と評しています)や、彼がこのような室内楽的な繊細さの先駆けと評したK205もこのカテゴリにおさめられています。
ただし、このカテゴリにはいくつかの断片作品の他にK.522:音楽の冗談 ヘ長調「村の音楽家の六重奏曲」がおさめられているのは謎です
K205:ディヴェルティメント 第7番 ニ長調…「5、6人の演奏者が行進曲とともに登場、退場し、庭にのぞんだ蝋燭の光に明るい広間で、本来のディヴェルティメントが演奏するさまが想像される。」
K247:ディヴェルティメント 第10番 ヘ長調「第1ロドロン・セレナーデ」…「二つの緩徐楽章の第1の方はアイネ・クライネのロマンツェを予感させる。」
K251:ディヴェルティメント 第11番 ニ長調「ナンネル・セプテット」…「なぜオーボエを使うのか?それはオーボエが非常にフランス的であるからである。ヴォルフガングはお姉さんの前でフランス風に振る舞いたかったのである。おそらくそれは、パリで一緒に住んでいた日々の思い出のためであろう。」
K287:ディヴェルティメント 第15番 変ロ長調「第2ロドロン・セレナード」…「2番目のアダージョはヴァイオリン・コンチェルトの純正で情の細やかな緩徐楽章となる。そして、フィナーレは、もはや「結末」ではなく、一つの偉大な、全体に王冠をかぶせる終楽章になっている。」
K334:ディヴェルティメント 第17番 ニ長調「ロビニッヒ・ディヴェルティメント」…「2番目の緩徐楽章はヴァイオリンのためのコンチェルト楽曲であって、独奏楽器がいっさいの個人的なことを述べたてるが、伴奏も全然沈黙してしまわないという「セレナード」の理想である。」
ザンデルリンク一族の「歌わせ」方の上手さ
ザンデルリンクと言えば私の中では「トーマス・ザンデルリンク」でした。何故ならば、どういう風の吹き回しだったのか、彼が地元の大阪シンフォニカー(今は大阪交響楽団)の常任指揮者を長くつとめていたからです。世間では「親の七光り」などと陰口をたたかれたりもしたのですが、彼の実演を何度も聞いた身としては、スケールが大きくてよく歌う音楽はいつも感心させられたものです。
ただし、世間の評価はそれほど高くはないのか、フィルハーモニア管と録音した4枚組のブラームスの交響曲全集が1000円で売られていたりしました。悲しいのは、その全集が定価1000円に見合うような「駄演」であれば仕方がないのですが、聴いてみれば私などには実演でのトーマスの演奏を思い出させてくれるような素晴らしい仕上がりなのです。
いや、当時の大阪シンフォニカーには申し訳ないのですが、オケの機能が優れているだけに、より素晴らしい演奏であると思ったものでした。
しかし、話がいささか横道にそれますが、昨今の日本のオケの技量は驚くほど向上していると思います。最近も、大阪交響楽団の演奏でマーラーの3番を聞かせてもらったのですが、それはもう見事なものでした。特に、日本のオケの弱点と言われた金管楽器も見事な演奏で、トロンボーンのソロは申し分のない出来でしたし、ホルンの響きなどはうっとりするほどに美しい響きを奏でていました。
こういう演奏を聞かせてもらうと、馬鹿高いチケットを買って外来のオケを聞きに行く必要なんてないのではないかと思ってしまいます。
そして、一つ気づかされるのが、このザンデルリンク一族の「歌わせ」方の上手さです。
親父のザンデルリングの「歌わせ方」についてはモーツァルトのハフナー・シンフォニーでも驚かされたのですが、この「ディヴェルティメント第17番 ニ長調 K.334」にはさらに驚かされました。レニングラード・フィルならではの分厚い低声部に下支えされながら、実に柔らかい響きでもって歌い上げていきます。
そして、その歌心はアンダンテ楽章だけでなく、両端のアレグロ楽章にも貫徹しているところがハフナー・シンフォニーとの違いです。
あちらは、出自はともかくとして一応はシンフォニーですから、アレグロ楽章は純粋器楽として処理していましたが、このディヴェルティメントでは全てが「歌」として処理されています。そして、その「歌」を聴いていると、それが「DNA」のように親から子へと引き継がれているように思えるのです。
さらに、そこにミュンヒンガーの初期の演奏を聞くことで、ある種の「伝統」のようなものがあったのではないかと想像をたくましくしてしまうのです。
それにしてもムラヴィンスキー統治下のレニングラード・フィルからこのような音楽を弾き出したザンデルリンクというのは、やはり、ただ者ではなかったようです。
よせられたコメント 2026-10-16:快晴の秋空の下 公園の片隅で、女房と二人組で小犬の毛刈をしてました。怒らせないよう気遣って進める作業に音楽が欲しくなり、昨日来聞き入っているザンデルリンクに食指が向かいました。嬉遊曲て昔いいました、この曲。なんとピッタリ合うではありませんか!特に第二楽章、犬様の機嫌を伺いながら、一房、二房、切り進むのに、絶妙なフィット感でした。カラヤンでこの曲は親しんでましたが大分違いますね。 この演奏は、旋律を慈しみながら、前へ行くまい、行くまい、とする超スローテンポがあちこちで立ち現れます。それが何とも言えない味わいで、飽きないもたれないのです。北極に近いペテルスブルグで、こんな明るく温かい演奏ができるなんて、芸術とは場所を選ばんですねえ。録音の1950年、ワルター、フルベン、トスカニーニいずれも存命中。締めに、拙い比例式を一つ。
フルベン:ヨッフム=ムラビン:ザンデルリンク
いかがなものかと?
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