ヨゼフ・スーク: 4つの小品 Op. 17
(Vn)ジネット・ヌヴー (P)ブルーノ・ザイドラー=ヴィンクラー 1938年録音
Suk:Four Pieces for Violin and_Piano, Op17 [2.Appassionato]
Suk:Four Pieces for Violin and_Piano, Op17 [3.Un Poco Triste]
ヴァイオリニストにとっては自らの腕前を披露するにはちょうどいい「小品」です

ヨゼフ・スークと言えば普通はヴァイオリニストの方を連想するのですが、ここでのヨゼフ・スークはお祖父さんの方の「ヨゼフ・スーク」です。
ドヴォルザークに学び、さらにはドヴォルザークの娘を妻として迎え入れているのですから、当初はドヴォルザークのコピーのような音楽を書いていました。しかし、その後は次第に時代の流れに沿ってそう言う民族的な色合いを薄めていき、より現代的で複雑な響きに傾斜していきます。
しかしながら、皮肉なことに、今も演奏される機会が多いのはドヴォルザークのコピーのような作品の方です。
とりわけ、音楽院時代の10代に書いた「弦楽セレナード」がもっとも演奏機会の多い作品だというのは、スークも向こう側の世界で苦笑いしているかも知れません。
この「ピアノとヴァイオリンのための4つの小品」も20台半ばの1900年に書かれた作品なので、「弦楽セレナード」ほどではないにしても、ドヴォルザークからの影響が残っている作品です。
考えてみれば、1900年といえば未だドヴォルザークは存命なのですから、それは当然すぎるくらい当然だったのでしょう。
そして、困ったことに、晩年のいささか晦渋な作品(それほどたくさん聞いたわけではありませんが^^;)と較べれば、この時代の作品の方がはるかに楽しく聞けてしまうのです。おそらく、このあたりに、20世紀におけるクラシック音楽というジャンルが抱え込んでしまった問題の一端が垣間見えるようです。
若い頃のスークは「短調好み」だったようで、師であるドヴォルザークから人生のもっと明るい面にも目を向けるように忠告されています。
しかし、そう言う好みというものはそんなに簡単に払拭できるはずもなかったようで、第1曲と3曲にはスーク好み憂愁の雰囲気が漂っています。
ただし、作品のあちこちに胸のすくようなヴァイオリンの名人芸が用意されているのは、暗いだけでは駄目だというドヴォルザークの忠告が念頭にあったのかも知れません。
そして、ヴァイオリニストにとっては自らの腕前を披露するにはちょうどいい「小品」と言うことで、時々は演奏される機会があるようです。
- 第1楽章:Quasi Ballata
- 第2楽章:Appassionato
- 第3楽章:Un Poco Triste
- 第4楽章:Burleska
「内なる精神の炎が燃えさかっている」と称されるヌヴォーの特徴は初録音においても明瞭に刻み込まれています
ヌヴーの早熟については
こちらでふれていますので興味ある方はご覧ください。
そんな早熟の天才ヌヴーの初録音を紹介したいと思います。
とは言え、今さら1938年という80年も前の録音などは願い下げだという人がいるかも知れません。
しかし、そこは私を信じて(^^;一度は聞いてみてください。きっと驚かれるはずです。
ヌヴォーはこの1938年(19歳)に以下の小品を録音しています。
- クライスラー:バッハの様式によるグラーヴェ ハ短調
- スーク:4つの小品 op.17 第3曲「ウン・ポコ・トリステ」
- スーク:4つの小品 op.17 第2曲「アパッショナータ」
- ショパン/ロディオノフ編:夜想曲第20番嬰ハ短調(遺作)
- グルック:『オルフェオとエウリディーチェ』より「メロディー」
- パラディス/ドゥシキン編:シチリア舞曲
このうちスークの4つの小品とショパンの夜想曲は戦後の46年にもう一度録音していますが、「内なる精神の炎が燃えさかっている」と称されるヌヴォーの特徴がより明瞭に刻み込まれているのは38年の録音の方です。
そして、数多くの歴史的録音を聞いてきて分かったことは、文化的にも一つの爛熟期をむかえていた30年代の録音は、戦争の混乱の中で録音された40年代の録音よりも概ね良好なものが多いと言うことです。
この38年に録音されたヌヴォーの小品も、かなり良好な状態で録音が残されています。
そして、その良好さのおかげで、極限のピアニシモから音楽が立ち上がってくる凄みが見事なまでに刻み込まれています。
例えば、ヌヴォーの代表的な録音であるショーソンの「詩曲」においても、その極限とも言うべきピアニシモから見事に一本のラインを描き出していく凄みには圧倒されます。
そして、この38年の録音では、それと同じような凄みをもって、この何気ない小品たちが突きつけられるのです。
さらに付け加えておけば、硬質な緊張感を維持しながら艶やかな響きの美しさを失わないのも見事と言うしかありません。
オイストラフが第1回ヴィエニャフスキ・コンクールでヌヴォーに敗れたときに「悪魔のようだった」と妻に書き送ったのは正当な評価だったのです。
そして、それと比べれば46年盤の方には、そこまでの凄みはなく、どちらかと言えば余裕を持って小品を弾きこなしているという風情があります。
ヌヴォーも20代になってシベリウスやブラームスのようなコンチェルトに活動の軸足が移っていって、そこまで真剣に小品と向き合う気にもなれなくなったと言うことかも知れません。
さらに言えば、38年録音ではヴァイオリンはかなりオン気味に収録されていてピアノは影のように付き従うだけでしたが、46年録音ではそれなりのバランスでピアノも収録されています。
そう言えば、戦後のピアノ伴奏は兄のジャンが務めていましたから、そしてシャンもイヴ・ナットに学んだ優れたピアニストでしたから、そちらにも光を当てたいという思いもあったのかも知れません。
なお、あまり語られることはないのですが、アメリカでの演奏旅行に向かう飛行機にはジャンも同乗していました。
ジネットとジャンのヌヴォー兄妹、ピアフの恋人だったマルセル・セルダン、実に多くの悲劇を引き起こした事故でした。
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