クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 作品35

(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:トーマス・シッパーズ指揮 ニューヨーク・フィル 1961年12月1日録音



Tchaikovsky:Violin Concerto in D major Op.35 [1.Allegro moderato - Moderato assai]

Tchaikovsky:Violin Concerto in D major Op.35 [2.Canzonetta. Andante ]

Tchaikovsky:Violin Concerto in D major Op.35 [3.Finale. Allegro vivacissimo]


演奏不能! 〜初演の大失敗!

これほどまでに恵まれない環境でこの世に出た作品はそうあるものではありません。

まず生み出されたきっかけは「不幸な結婚」の破綻でした。これは有名な話のなので詳しくは述べませんが、その精神的なダメージから立ち直るためにスイスにきていたときにこの作品は創作されました。
ヴァイオリンという楽器にそれほど詳しくなかったために、作曲の課程ではコテックというヴァイオリン奏者の助言を得ながら進められました。

そしてようやくに完成した作品は、当時の高名なヴァイオリニストだったレオポルド・アウアーに献呈をされるのですが、スコアを見たアウアーは「演奏不能」として突き返してしまいます。ピアノ協奏曲もそうだったですが、どうもチャイコフスキーの協奏曲は当時の巨匠たちに「演奏不能」だと言ってよく突き返されます。

このアウアーによる仕打ちはチャイコフスキーにはかなりこたえたようで、作品はその後何年もお蔵入りすることになります。そして1881年の12月、親友であるアドルフ・ブロドスキーによってようやくにして初演が行われます。
しかし、ブドロスキーのテクニックにも大きな問題があったためにその初演は大失敗に終わり、チャイコフスキーは再び失意のどん底にたたき落とされます。

やはり、アウアーが演奏不能と評したように、この作品を完璧に演奏するのはかなり困難であったようです。
しかし、この作品の素晴らしさを確信していたブロドスキーは初演の失敗にもめげることなく、あちこちの演奏会でこの作品を取り上げていきます。やがて、その努力が実って次第にこの作品の真価が広く認められるようになり、ついにはアウアー自身もこの作品を取り上げるようになっていきました。

めでたし、めでたし、と言うのがこの作品の出生と世に出るまでのよく知られたエピソードです。

しかし、やはり演奏する上ではいくつかの問題があったようで、アウアーはこの作品を取り上げるに際して、いくつかの点でスコアに手を加えています。
そして、原典尊重が金科玉条にようにもてはやされる今日のコンサートにおいても、なぜかアウアーによって手直しをされたものが用いられています。

つまり、アウアーが「演奏不能」と評したのも根拠のない話ではなかったようです。ただ、上記のエピソードばかりが有名になって、アウアーが一人悪者扱いをされているようなので、それはちょっと気の毒かな?と思ったりもします。

ただし、最近はなんと言っても原典尊重の時代ですから、アウアーの版ではなく、オリジナルを使う人もポチポチと現れているようです。でも、数は少ないです。クレーメルぐらいかな?

フランチェスカッティは楽しそう


Joshuaさんより、音源が入れ替わっているのではないかというご指摘を戴きました。

一枚のレコードの裏表にセルとシッパーズが指揮した演奏が入っているのですが、それがどこでどう間違ったのか(^^;(申し訳ない)、入れ替わっていました。


  1. メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調作品64(1965年2月2日、ニューヨーク、マンハッタン・センター)セル/クリーヴランド管

  2. チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲ニ長調作品35(1961年12月1日、クリーヴランド、セヴェランス・ホール)シッパース/ニューヨーク・フィル



これが正解です。
既に録音された方がいれば、タグ情報が誤っていますので、ご自分で訂正されるか、もしくは再度ダウンロードしてください。



トーマス・シッパーズという指揮者の名前を今も覚えている人は多くはないでしょう。
若くしてメトロポリタン歌劇場にデビューし、その後もヨーロッパの歌劇場で活躍して、オペラ指揮者としての名声を確立した指揮者です。しかし、その傍らでシカゴやニューヨークのオケとも客演活動を続け、1970年にはシンシナティ交響楽団の常任指揮者に就任します。

この経歴をバーンスタインと比較してみれば、シッパーズの勢いがよく分かります。

1918年生まれのバーンスタインに対して、1930年生まれのシッパーズはちょうど一回り下です。
メトロポリタン歌劇場にデビューを果たしたのは23歳の時で、シンシナティ交響楽団の常任指揮者に就任したのが40歳です。

バーンスタインがワルターの代役として衝撃的なデビューを果たしたのは25歳の時で、ニューヨークフィルの音楽監督に就任したときは40歳でした。
旧大陸偏重のアメリカ音楽界の壁を打ち破ってバーンスタインが切り開いた道を、シッパーズは順調に駆け上がっていく次世代のホープだったわけです。

そして、シッパーズがシンシナティ交響楽団の常任指揮者に就任した1970年というのは、バーンスタインがニューヨーク・フィルの音楽監督を辞任した次の年ですから、彼への期待は非常に大きなものがあったはずです。

しかし、指揮者としてはまさにこれからと言うときに僅か47歳でこの世を去ってしまいます。

残念と言えば本当に残念なのですが、おそらく本人が一番無念だったことでしょう。
しかし、バーンスタインがシッパーズと同じ年で世を去っていたとしても、ニューヨークフィルとのコンビで膨大な量の録音を残していました。
ベートーベンやブラームスの交響曲は全て録音していますし、なんと言ってもマーラーの交響曲全集は残ります。

それと較べると、シッパーズの残した録音はあまりにも少ないのです。

シッパーズ自身が録音に対して消極的だったのか、レーベルがそこまでの商品価値を見いださなかったのかは分かりません。
バーンスタインのケースが特異だったのかもしれませんが、シッパーズと同じ年のマゼールは既にウィーンフィルとの録音を活発に行っていますか。

ですから、おそらくはレーベルの側がそこまでの商品価値を見いださなかったのかもしれません。

協奏曲の伴奏と言うこともあるのですが、ここでのシッパーズは実に丁寧にフレームを作っています。
そして、そのフレームの中でフランチェスカッティは自由に好き勝手をやっています。
そこには、バーンスタインとのコンビで感じたような、何とも言えない居心地の悪さのようなモノは全く感じません。

ここでのフランチェスカッティは楽しそうです。

ですから、これは聞いていて実に気持ちの良い演奏になっています。
そして、その事が逆にシッパーズという指揮者の人の良さを感じさせるのです。
ただし、こういう「芸」の世界で、「人がいい」というのは決してプラスにはならないこともシビアな事実です。

シッパーズにもう少し時間があれば、ここから大化けしたのか、そのまま手堅い「名匠」で終わったのかは分かりません。
雰囲気として「名匠」止まりだったような気がしますが、あのマゼールも最後の最後で化けましたから、こればかりは何とも言えませんね。

しかしながら、褒めるにしても貶すにしても、若くして亡くなった人に対してこのような言い方は失礼なだけかもしれません。
残されたものは残された業績だけでその人物を偲べばいいのでしょう。

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