チャイコフスキー:交響曲第5番 ホ短調 作品64
コンスタンティン・シルヴェストリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1957年2月21日&22日録音
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor Op.64 [1.Andante - Allegro con anima]
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor Op.64 [2.Andante cantabile , con alcuna Licenza]
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor Op.64 [3.Valse(Allegro moderato)]
Tchaikovsky:Symphony No.5 in E minor Op.64 [4.Finale(Andante maestoso - Allegro vivace)]
何故か今ひとつ評価が低い
チャイコフスキーの後期交響曲というと4・5・6番になるのですが、なぜかこの5番は評価が今ひとつ高くないようです。
4番が持っているある種の激情と6番が持つ深い憂愁。その中間にたつ5番がどこか「中途半端」というわけでしょうか。それから、この最終楽章を表面的効果に終始した音楽、「虚構に続く虚構。すべては虚構」と一部の識者に評されたことも無視できない影響力を持ったのかもしれません。また、作者自身も自分の指揮による初演のあとに「この作品にはこしらえものの不誠実さがある」と語るなど、どうも風向きがよくありません。
ただ、作曲者自身の思いとは別に一般的には大変好意的に受け入れられ、その様子を見てチャイコフスキー自身も自信を取り戻したことは事実のようです。
さてユング君はそれではどう思っているの?と聞かれれば「結構好きな作品です!」と明るく答えてしまいます。チャイコフスキーの「聞かせる技術」はやはり大したものです。確かに最終楽章は金管パートの人には重労働かもしれませんが、聞いている方にとっては実に爽快です。第2楽章のメランコリックな雰囲気も程良くスパイスが利いているし、第3楽章にワルツ形式を持ってきたのも面白い試みです。
そして第1楽章はソナタ形式の音楽としては実に立派な音楽として響きます。
確かに4番と比べるとある種の弱さというか、説得力のなさみたいなものも感じますが、同時代の民族主義的的な作曲家たちと比べると、そういう聞かせ上手な点については頭一つ抜けていると言わざるを得ません。
いかがなものでしょうか?
出来上がったオケに乗っかってこそ本領が発揮できるタイプ?
ドヴォルザークの9番に対応するのがチャイコフスキーの4番であり、7番に対応するのが6番「悲愴」なのかもしれません・・と書いたのですが、その延長線上でいけば8番に対応するのがこの5番という事になります。そして、その「当てはめ」はそれほど的を外していないことに気づかされます。
交響曲第4番 ヘ短調 作品36:フィルハーモニア管弦楽団 1957年2月15日&18日録音
交響曲第6番 ロ短調 作品74「悲愴」:フィルハーモニア管弦楽団 1957年2月19日&20日録音
交響曲第5番 ホ短調 作品64:フィルハーモニア管弦楽団 1957年2月21日&22日録音
ドヴォルザークの8番の最終楽章における特徴的な旋律の歌わせ方が、この第5番の第2楽章でもうかがえます。全体的な構成はかなり真っ当な部類に属するとは思うのですが、それでもこの緩徐楽章の歌わせ方は独特です。そして、ドヴォルザークの8番でも感じたように、この歌わせ方は決して嫌いではありません。
おそらく、この第5番と悲愴に関しては、何かの間違いで一番最初に聞いたとしてもそれほどの悲劇は招かないでしょう。
ただ、前半の3楽章を、基本的には静的なスタイルで貫きながら、ブラームスによって「効果に次ぐ効果」と酷評された最終楽章は、その酷評に対して開き直るかのようなたたき込み方です。その凄まじさ、または前半部分との落差がシルヴェストリらしい演奏にはなっています。
そして、その急加速もオケとの間で事前に打ち合わせをして機能的にきちんとまとめようという気が全くなかったようで、セッション録音であるにもかかわらず一発勝負のライブのようなスタイルで録音してしまっています。そう言うところも、シルヴェストリらしいといえばシルヴェストリらしいスタイルです。
もっとも、オケにしてみればたまったものではないでしょうが、それでも崩壊の一歩手前で踏みとどまれているのは、それがフィルハーモニア管だからです。
結局、シルヴェストリという人は、出来上がった一流のオケの性能の上に乗っかって自分の我が儘を押し通したときにこそ本領が発揮できるタイプの指揮者だったようです。
そして、ボーンマス響の首席指揮者に就任してからの凋落ぶり見ると、オケの土台作りから始まる一連の煩わしい作業を含めて自分の音楽を構築すると言うことは出来ない人だったようです。
その意味では、あえてアメリカの2流オケの音楽監督に就任して、それを真っ白なキャンパスとして、いかなる苦労や困難があろうと、そこに自分が理想とする音楽を描き出すことに生涯をかけたセルのような人とは真逆の存在だったと言えます。そして、それは煎じ詰めれば、音楽というものと向き合う覚悟の違いとも言えそうな気がします。
一部には、ジルヴェストリの異形の演奏をもって高く評価する向きもあるのですが、その「異形」がどこから来ているのかはもう少しシビアに見ていかないと、大きく評価を誤ることになりそうな気はします。
とは言え、この5番の演奏と録音は、悪くはありません。
よせられたコメント 2016-03-01:emanon シルヴェストリの「第5」は「第4」と比べて恣意性が後退しているので、比較的素直に聴くことができます。フィルハーモニア管弦楽団は、ウィーン・フィルと違って指揮者の言うことを聞くオーケストラなので、シルヴェストリはその中で自由にふるまっています。ただ私自身、前半の2つの楽章はもう少し速いテンポが好きです。しかし、第4楽章は一転して速いテンポをとっています。
点数はまたしても6点です。言葉ではうまく言い表せないのですが、全体にもう少し一貫して突き抜けたものが欲しいと思います。 2016-03-06:ヨシ様 シルヴェストリのこのチャイコフスキー。4番から6番のフィルハーモニア管弦楽団のトップホルン奏者は、あのデニスブレインらしいです。
そう思って聴くと、この5番の第2楽章のソロは完璧だと思います。
デニスブレインは1957年9月に自動車事故死しているので、この一連のシルヴェストリとの録音は、ほぼ最後のスタジオ録音だと思われます。
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