チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 作品64
ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 1954年9月2&3日録音
Tchaikovsky:交響曲 第5番 ホ短調 作品64 「第1楽章」
Tchaikovsky:交響曲 第5番 ホ短調 作品64 「第2楽章」
Tchaikovsky:交響曲 第5番 ホ短調 作品64 「第3楽章」
Tchaikovsky:交響曲 第5番 ホ短調 作品64 「第4楽章」
何故か今ひとつ評価が低いのですが・・・
チャイコフスキーの後期交響曲というと4・5・6番になるのですが、なぜかこの5番は評価が今ひとつ高くないようです。
4番が持っているある種の激情と6番が持つ深い憂愁。その中間にたつ5番がどこか「中途半端」というわけでしょうか。それから、この最終楽章を表面的効果に終始した音楽、「虚構に続く虚構。すべては虚構」と一部の識者に評されたことも無視できない影響力を持ったのかもしれません。また、作者自身も自分の指揮による初演のあとに「この作品にはこしらえものの不誠実さがある」と語るなど、どうも風向きがよくありません。
ただ、作曲者自身の思いとは別に一般的には大変好意的に受け入れられ、その様子を見てチャイコフスキー自身も自信を取り戻したことは事実のようです。
さてユング君はそれではどう思っているの?と聞かれれば「結構好きな作品です!」と明るく答えてしまいます。チャイコフスキーの「聞かせる技術」はやはり大したものです。確かに最終楽章は金管パートの人には重労働かもしれませんが、聞いている方にとっては実に爽快です。第2楽章のメランコリックな雰囲気も程良くスパイスが利いているし、第3楽章にワルツ形式を持ってきたのも面白い試みです。
そして第1楽章はソナタ形式の音楽としては実に立派な音楽として響きます。
確かに4番と比べるとある種の弱さというか、説得力のなさみたいなものも感じますが、同時代の民族主義的的な作曲家たちと比べると、そういう聞かせ上手な点については頭一つ抜けていると言わざるを得ません。
いかがなものでしょうか?
他ではちょっと聞けないような音楽
聞けば聞くほどに、ロジンスキーというのはただ者ではないと思わされます。特に、ロシア・東欧系の音楽に関しては独特な感性があるようで、他ではちょっと聞けないような音楽を聴かせてくれます。
それは、ヨーロッパから比べれば随分と音楽風土の異なったアメリカという場所でキャリアを積み上げたこと、さらにはトスカニーニの影響を強く受けたこと、そしてその根っこにポーランド出身というルーツがあること等が絡まり合って生み出されたもののように思います。
まず、聞いて驚くのは、その鮮烈なまでの直線性と一つ一つの楽器を決して疎かにしない精緻なアンサンブルへの執念です。
どこかドライな感じはアメリカンテイスト、そして精緻さへの執念はトスカニーニ譲りでしょうか。
ところが、全体として非常な推進力にあふれながら横への旋律ラインが意外なほどによく歌うのが実に面白いのです。
この不思議な歌心がポーランドの魂なのでしょうか?
そして、もう一つ面白いのは低声部を非常に分厚く響かせることです。それは、このチャイコフスキーの録音だけでなく、彼の録音全般に共通しますから「本能」みたいなものかもしれません。
そう言えば、ワルターもこんな感じで低声部を非常に分厚く響かせていましたから、このあたりは伝統的なヨーロピアンテイストと言うことなのでしょうか。
考えればすぐに分かることですが、こういう低声部を受け持つ楽器というのは小回りはききません。ですから、こういう小回りのきかない楽器を分厚く響かせるというのはアンサンブル的には不利です。それでも、ロジンスキーは小手先の精緻さではなくて、しっかりと中身のつまった響きでもって本当の精緻さを求めています。
あまりにも図式的すぎる割り切り方ですが、結果として他ではちょっと聞けないようなチャイコフスキーになっているのです。
もちろん、オケの性能は90年代以降飛躍的に向上しましたから、今のレベルでもってこれを云々するのは間違っています。
しかし、この演奏には馬鹿上手くなってしまった今のオケがともすれば失ないがちな「勢い」と「覇気」があふれています。そして、そう言う「熱さ」こそは50年代という黄金時代を特徴づける最大のセールスポイントでした。
そう思えば、トスカニーニでもないし、セルやライナーでもない、やはり「ロジンスキー」という男ならでわの「熱い音楽」が聴ける録音なんだなと思ってしまいます。こんな風な書き方は禅問答みたいで良くないのは分かっているのですが、なんだか不思議な音楽がロジンスキーの中にはつまっているような気がするのです。その「不思議」の中身が具体的に指摘できないのが何とも言えずもどかしいです。
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