ベートーベン:ヴァイオリンソナタ 第5番 「春」
Vn:アドルフ・ブッシュ P:ルドルフ・ゼルキン 1933年録音
Beethoven:ヴァイオリンソナタ 第5番 「春」 第1楽章
Beethoven:ヴァイオリンソナタ 第5番 「春」 第2楽章
Beethoven:ヴァイオリンソナタ 第5番 「春」 第3楽章
ヴァイオリンソナタにおけるヴァイオリンの復権
ヴァイオリンソナタという形式を定着させたのはイタリアの作曲コレルリ(1633〜1713)だと言われています。ヴァイオリンとチェンバロのための作品だったのですが、チェンバロはいわゆる「通奏低音」として扱われていました。ヴァイオリンが「主」で、チェンバロは「従」と言うのが初期の様式だったようです。
この関係に変更を迫ったのがバッハでした。彼は通奏低音しか任されていなかったチェンバロと言う楽器にも音楽を語らせようとしたのです。ヴァイオリンとチェンバロの左右の手から生み出される3つの音でやりとりをさせるというトリオ・ソナタ的な扱いを試みました。
バッハにおいてはヴァイオリンとチェンバロとは対等な関係だったと言えます。
ところが、次のモーツァルトの時代になるとチェンバロはピアノに取って代わられます。そして、このピアノという楽器はチェンバロと比べればはるかに表現能力が高い楽器であり、その高い能力ゆえにめざましい発展を遂げていきます。
そのために、ヴァイオリンソナタと名付けられていても表現の主役はピアノに割り当てられ、「ヴァイオリン助奏付きのピアノソナタ」と言わざるを得ないような形式に変わっていきます。
もちろん後の方の作品になるとヴァイオリンにもそれなりの表現を割り当てるようになるのですが(例えばK454)、基本はピアノが「主」でありヴァイオリンが「従」であったことに変わりはありません。
前ふりが長くなりました。(^^;
このような歴史を持つヴァイオリンソナタという形式にさらなる変更を迫ったのがベートーベンでした。彼は「助奏」の地位に甘んじていたヴァイオリンという楽器を、もう一度主役として復権させようとしました。つまり、さらに高い次元においてピアノとヴァイオリンを対等に扱うというチャレンジを行なったのです。
そしてこの試みは作品12の最初の3曲では不十分さを残していたのですが、この第5番のソナタでは見事なまでに伸びやかでロマンティックな音楽を語っています。もちろんこのチャレンジは第9番の「クロイツェルソナタ」で完成をするのですが、ヴァイオリンソナタにおけるヴァイオリンの復権を告げる作品として第5番の重要性は大きいと言えます。
ちなみにこのソナタは「春」とか「スプリングソナタ」と呼ばれていますが、ベートーベン自身の命名ではありません。後の時代に、作品の雰囲気からニックネームのようにしてつけられたものです。ただ、その命名が結構的を射たものだったために広く世間に広まったようです。
独奏者としてのブッシュ
アドルフ・ブッシュと言えばブッシュ弦楽四重奏団を率いての演奏が有名です。彼らの手になるベートーベンの弦楽四重奏は戦前におけるスタンダードとも言うべき存在でした。
ソリストとしてよりはカルテットのリーダーとしての方が評価が高いことは事実ですが、ここで聞けるようにソリストとしての演奏も数多く残しています。今の耳からすれば「古い」演奏スタイルであることは事実ですが、一昔前のベートーベン演奏の一つの典型として興味深い演奏であることは事実です。(1933年にしては録音も良好です)
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