ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60
ブルーノ・ワルター指揮 ニューヨークフィル 1952年3月24日録音
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第1楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第2楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第3楽章」
Beethoven:交響曲第4番 変ロ長調 作品60 「第4楽章」
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。
そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。
最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)
改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています。
「歌いたい」という本能を完璧にコントロールした演奏
モノラル録音によるベートーベン録音は、アメリカに亡命をしてから演奏スタイルが大きく変化したワルターの典型だと言われます。戦前のワルターを特徴づけていた世紀末の崩れたようなロマンティシズムはどこにも見あたらず、男性的で剛毅な響きがその特徴だと言われてきました。
しかし、個々の演奏を聴いていくと事情はそれほど単純ではないことに気づかされます。例えば、もっとも男性的で剛毅に響くべきである第5番では、その最初の二つの楽章は実に入念に歌い上げていて驚かされます。それが、田園や9番の第3楽章のような音楽においてならば納得もするのですが、何で、よりによって運命をこんな風に演奏するのだろうと訝しく思ったものです。
そして、私なりの結論として、「こういう演奏を聴かされると、ワルターという人の本質は「歌う」事だったんだなとつくづくと納得させられます。」としながらも、「ところが、よりによってこの5番「運命」においてワルターの本性がこぼれだしているのです。それ故に、多くの人にとっては「違和感」の感じる演奏になっていることは間違いありません。」と書かざるを得ませんでした。
しかし、2番や4番を聞くと、まさに「あんたは歌いすぎる」という批判に応えて、おのれの「歌いたい」本能を抑え込んで、ひたすら剛毅で男性的な音楽に仕上げようというベクトルを感じ取ることが出来ます。
特に第2番では、第1楽章から構えが大きくて、ポスト・ハイドン、ポスト・モーツァルトのシンフォニーと言うよりは、まさにベートーベンらしい風格に溢れた堂々たるシンフォニーに仕上げています。そして、特に注目すべきは、第2楽章の緩徐楽章で聞ける美しいロマン性が、実にキリリとして引き締まった表情を崩さないことです。同じ事が、第4番の第2楽章にも言えます。
ワルターの本能から言えば、形を崩してでも念入りに歌いたくなる音楽でしょうが、ここでは、そう言う本能を完璧にコントロールしきっています。それゆえに、セルやトスカニーニ以上にザッハリヒカイトに聞こえるほどです。
ワルターというのは本当に一筋縄ではいかない人です。最晩年のステレオ録音が世間に広く流布してしまったために、それだけを持って彼の音楽が評価されてしまいました。しかし、同じベートーベンの交響曲を取り上げてみても、モノラルとステレオではかなりテイストが異なります。そして、晩年のステレオ録音では2番と6番を除けばあれこれと「留保条件」がつかざるを得ないことを考えれば、この40〜50年代の現役バリバリの指揮者として活躍していた時代の録音は貴重です。
功成り名を遂げた巨匠の手すさびの芸と、現役バリバリで活躍してた時期の芸とでは、何よりもその内から発するエネルギー感が異なります。そして、そう言うエネルギー感が何よりも求められるのがベートーベンという音楽家です。
録音に関しても、さすがに40年代初頭の6番と8番は流石に苦しいと言わざるをえませんが、47年録音の第1番、49年録音のエロイカあたりは十分に鑑賞領域のクオリティを持っています。50年代の録音に関しては何の問題もないでしょう。
そして、これらを聞けば、「ワルターは頭文字がMの作曲家はいいが、どうもBとは相性が悪い」という指摘は、一面の真実を含みながらも、事はそれほど単純ではないことを納得していただけるはずです。
よせられたコメント
【最近の更新(10件)】
[2025-10-02]
J.S.バッハ:幻想曲 ハ短調 BWV.562(Bach:Fantasia and Fugue in C minor, BWV 562)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)
[2025-09-30]
ベートーベン:合唱幻想曲 ハ短調 Op.80(Beethoven:Fantasia in C minor for Piano, Chorus and Orchestra, Op.80)
(P)ハンス・リヒター=ハーザー カール・ベーム指揮 ウィーン交響楽団 ウィーン国立歌劇場合唱団 (S)テレサ・シュティヒ=ランダル (A)ヒルデ・レッセル=マイダン (T)アントン・デルモータ (Br)パウル・シェフラ 1957年6月録音(Hans Richter-Haaser:(Con)Karl Bohm Wiener Wiener Symphoniker Staatsopernchor (S)Teresa Stich-Randall (A)Hilde Rossel-Majdan (T)Anton Dermota (Br)Paul Schoffler Recorded on June, 1957)
[2025-09-28]
エルガー:コケイン序曲 Op.40(Elgar:Cockaigne Overture, Op.40)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1962年5月9日&8月27日録音(Sir John Barbirolli:The Philharmonia Orchestra Recorded on May 9&August 27, 1962)
[2025-09-26]
ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 作品60(Beethoven:Symphony No.4 in Bflat major ,Op.60)
ジョルジュ・ジョルジェスク指揮 ブカレスト・ジョルジェ・エネスク・フィルハーモニー管弦楽団 1962年1月録音(George Georgescu:Bucharest George Enescu Philharmonic Orchestra Recorded on January, 1962)
[2025-09-24]
フォーレ:夜想曲第3番 変イ長調 作品33-3(Faure:Nocturne No.3 in A-flat major, Op.33 No.3)
(P)エリック・ハイドシェック:1960年10月21~22日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n October 21-22, 1960)
[2025-09-22]
ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op. 51-2(Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2)
アマデウス弦楽四重奏団 1955年2月11日~12日&14日録音(Amadeus String Quartet:Recorde in February 11-12&14, 1955)
[2025-09-20]
エルガー:序曲「フロワッサール」, Op.19(Elgar:Froissart, Op.19)
サー・ジョン・バルビローリ指揮 ニュー・フィルハーモニア管弦楽団 1966年7月14日~16日録音(Sir John Barbirolli:New Philharmonia Orchestra Recorded on July 14-16, 1966)
[2025-09-18]
バッハ:トッカータ、アダージョとフーガ ハ長調 BWV.564(Bach:Toccata, Adagio and Fugue in C major, BWV 564)
(Organ)マリー=クレール・アラン:1959年11月2日~4日録音(Marie-Claire Alain:Recorded November 2-4, 1959)
[2025-09-16]
メンデルスゾーン:厳格な変奏曲 Op.54(Mendelssohn:Variations Serieuses, Op.54)
(P)エリック・ハイドシェック:1957年9月20日録音(Eric Heidsieck:Recorded 0n September 20, 1957)
[2025-09-14]
フランク:天使の糧(Franck:Panis Angelicus)
ルネ・レイボヴィッツ指揮 ロンドン新交響楽団 1961年録音(Rene Leibowitz:New Symphony Orchestra Of London Recorded 1961)