クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ベートーベン:劇音楽「アテネの廃墟」

サー・トーマス・ビーチャ指揮 ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団 (合唱)ビーチャム・コーラル・ソサエティ 1957年3月29日録音



Beethoven:Beethoven:Die Ruinen von Athen, Op.113 [1.Overture, Andante con moto - Allegro ma non troppo]

Beethoven:Beethoven:Die Ruinen von Athen, Op.113 [2.Chorus (Tochter es machtigen Zeus!)]

Beethoven:Beethoven:Die Ruinen von Athen, Op.113 [3.Chorus (Chorus of Dervishes)]

Beethoven:Beethoven:Die Ruinen von Athen, Op.113 [4.Marcia alla turca. Vivace]

Beethoven:Beethoven:Die Ruinen von Athen, Op.113 [5.Chorus (Where freedom hath triunphed)]

Beethoven:Beethoven:Die Ruinen von Athen, Op.113 [6.March and Chorus (Twine ye gariands)]


滅多に演奏も録音もされない音楽

ハンガリーの都だったペスト市のドイツ劇場の落成のために上演された二つの祝祭劇のためにベートーベンは二つの劇音楽を書いています。
一つは「アテネの廃墟」のために序曲と8曲の付随音楽、もう一つは「シュテファン王」のために序曲と9曲の付随音楽です。

しかし、これらの音楽が今日のコンサートで取り上げられることも殆どありませんし、録音されることもほぼ皆無です。
例外としては「アテネの廃墟」の「トルコ行進曲」と「シュテファン王」の序曲が時々取り上げられるくらいかもしれません。特に、ピアノ編曲された「トルコ行進曲」はそれなりの知名度があるので、あの曲はもとからピアノ曲だと思っている人も人も少なくないのではないでしょうか。

「アテネの廃墟」という祝祭劇はそれほど深い内容を持った作品ではなくて、まさに落成記念に相応しい市民受けのする内容です。

お話はゼウスの怒りにふれて深い眠りに陥っていた知恵の女神ミネルヴァが2000年ぶりに目覚めることから始まります。ところが、目覚めたミネルヴァが故郷のアテネに帰ってみると、そこは長きにわたるトルコの支配によって廃墟となっていたのです。
その荒れ果てたアテネの町に呆然とミネルヴァは立ちつくすのですが、そこへゼウスの使いであるヘルメースがあらわれます。

ヘルメースはミネルヴァにミューズの神々はアテネを去り他の民族のもとに移ったと伝え、今やハンガリーの都ペスト市には新たな芸術の殿堂が生まれたと告げるのです。
それを聞いたミネルヴァもまたアテネを離れてペストへとおもむき、そして偉大なる芸術を保護した皇帝フランツの胸像に月桂冠を飾って幕は下りるのです。

つまりは、落成慶記念のために「よいしょの限り」を尽くした内容なのですが、ベートーベンもまた時にはこういう「儲け仕事」もしなければいけなかったと言うことなのでしょう。


  1. 序曲(Ouverture)

  2. 第1曲 合唱 「力強いゼウスの娘よ」(Tochter des machtigen Zeus)

  3. 第2曲 二重唱 「罪もなく、奴隷の身に耐え」(Ohne Verschulden Knechtschaft dulden)

  4. 第3曲 回教僧の合唱 「神は衣の袖に月を抱いて」(Du hast in deines Armels Falten)

  5. 第4曲 トルコ行進曲(Marcia alla turca)

  6. 第5曲 舞台裏からの音楽(Zwischenmusik)

  7. 第6曲 行進曲と合唱(Schmuckt die Altare)

  8. 第7曲 合唱 「感じやすい心で」(Wir tragen empfangliche Herzen im Busen)

  9. 第8曲 合唱 「国王万歳」(Heil unserm Konig! Heil!)



貴重な録音


今となっては滅多に演奏もされなければ録音もされない音楽ですから、このビーチャムによる録音は貴重です。
そして、ベートーベンにとっても「頼まれ仕事」と言うこともあって肩の力の抜けた音楽になっていますので、ビーチャムにしてみてもオケと合唱という華やかな組み合わせで、「退屈」にならないように盛りあげています。

そう言えば、この時期のビーチャムは声楽入り、特に合唱の入った音楽をよく取り上げています。
「The Beecham Choral Society」と言うのは「ビーチャム合唱協会」とでも訳せばいいのでしょうか。この合唱団がいつ頃から活動をはじめたのかは確認が取れませんでしたが、50年代の半ば頃からビーチャムの録音に登場してくることは間違いないようです。

録音クレジットを調べてみると、56年に録音したモーツァルトの「後宮からの誘拐」やハイドンの「四季」あたりから登場するようです。
もしかしたら、彼はオケだけでなく合唱団も自前で作ったので、その合唱団の活動の場を提供するためにこういう録音活動を行ったのかもしれません。

そう言えば、彼は若い頃から、「音楽の開拓者」として赤字になるのが分かっているような作品を次々と取り上げていました。そして、それらは当然の事ながら大変な赤字になるのですが、世界的製薬会社の御曹司であるビーチャムにとってはそんな赤字などは取るに足らないものだったのです。
ですから、50年代半ば以降、ビーチャムはこの合唱団を使ってかなりレアな作品をたくさん録音してくれています。
そういえば、EMIのボス的存在だったレッグはビーチャムのことを「イギリスが生んだ最後の偉大な変人」と称していました。

確かに、欧米の金持ちは社会的活動に金銭面で貢献することは一つの義務なのですが、最近の金持ちはみんな賢くなりすぎてつまらないですね。誰か一人くらい、こういう「馬鹿」が出来る金持ちが現れないものでしょうか。

なお、ビーチャムは「アテネの廃墟」から何曲かを選び、合唱団には英訳した歌詞で歌わせています。
録音クレジットは以下のようになっていて、原曲から適当に抜き出したと言うよりは、少し手を加えているかもしれません。


  1. 序曲

  2. 合唱 偉大なるゼウスの娘よ

  3. 回教僧の合唱 神は衣の袖に月を抱いて

  4. トルコ行進曲

  5. 合唱 感じやすい心で

  6. 行進曲と合唱 祭壇を飾って



それから、オケと合唱というのは録音的には難しいのですが、ステレオ録音黎明期としてはかなり頑張った部類に入ります。
悪くないです。

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