ベートーベン:ピアノソナタ第32番 ハ短調 作品111
(P)ソロモン 1951年5月16&21日録音
Beethoven:ピアノソナタ第32番 ハ短調 作品111 「第1楽章」
Beethoven:ピアノソナタ第32番 ハ短調 作品111 「第2楽章」
時間が不足だったので・・・
最後の最後で二楽章に圧縮されたソナタを書いたのですが、周囲は3楽章についてしきりに説明を求めました。それに対するベートーベンの答えが「時間が不足だったので・・・」だそうです。
もちろんこれはベートーベン一流の冗談であることは明らかです。
変奏曲形式の極限とも言える第2楽章の音楽を聴くとき、そしてその最後の音がはるかな高みへと消えていくのを聞くとき、これに続く音楽などは存在しないことを誰もが納得できるはずです。
ピアノソナタ32番 Op.111 ハ短調
第1楽章
マエストーソーアレグロ・コン・ブリオ・エド・アッパッシオナート ハ短調 4分の4拍子 ソナタ形式
第2楽章
アダージョ・モルト・センプリーチェ・エ・カンタービレ ハ長調 16分の9拍子 変奏曲形式
まさに変奏曲形式の行き着く先を示したような音楽。主題旋律は次第にその姿を漂う霧の中に姿を没していきます。
まあ、聞いてみてください。(^^v
ソロモンの美質は繊細さにあるのでしょう。そして、その繊細さは響きの完璧なコントロールによってもたらされているように感じました。さらに言えば、そのコントロールされた響きがさらさらと流れていくような風情があります。昨今の若手のピアニストによくあるような、俺って上手いだろう!オーラが満開でガンガンと力任せに引きまくるような演奏とは対極にあるピアノです。
そんなソロモンは1956年に、まさにキャリアの絶頂で突然引退してしまいます。
最初は引退の理由は謎だったのですが、その後左手の故障が原因突伝えられました。脳梗塞による左手の小指と薬指の麻痺だったようです。
そう思って彼の演奏を聴いてしまうと、54年あたりから彼の演奏が少しずつ変わっていったような気がします。
第23番「熱情」あたりはそれほど不満は感じないのですが、何よりも繊細さがほしい28番のソナタではどこかもどかしげに力ませで押し切ってしまっているような部分も散見されます。もちろん、そう感じるフィナーレの部分は「速く、しかし速すぎないように、そして断固として」と書いているので、そう言う力ませの部分があっても悪くはないのですが、それでも、それまでのソロモンの音楽とは少し違うなと思ってしまいました。
しかし、それも56年に録音された31番のソナタとなると、これはもうはっきり脳梗塞の影響が出ています。その影響は、最終楽章でのミステイクだけでなく、それまでのソロモンには絶対有り得なかった力任せのタッチがあちこちで顔を出していることですぐに分かってしまいます。
おそらくは、完全に指が麻痺をして動かなくなってしまう事を自覚する前から、何とも言えないもどかしさは感じていたのではないでしょうか。そういうもどかしさの中でも「嘆きの歌」は見事に歌い上げていますが、それに続くフーガのような複雑な音楽になると、残念ながらもう、何をやっているのか分かりません。
それと同じようなことは、翌日に録音された27番のソナタにも言えます。
31番ソナタが8月20日、27番ソナタが8月21日に録音されています。そして、9月の17日から26日にかけて3曲のコンチェルトを録音して自らのキャリアに幕を閉じました。
よく知られているように、31番ソナタの最終楽章で2小節にわたって修正が必要なミスが発生します。そのミスタッチはすぐにでも修正するつもりでいたのでしょうが、おそらくは一連のコンチェルトの録音の後に指が完全に動かなくなり、結果として修正されないままに放置されることになったようなのです。
EMIも最初はさすがに発売を躊躇ったようなのですが、後期の三大ソナタという形でどうしても発売したい営業上の理由もあったのでしょう。結果として、録音から6年後の1962年に、修正できなかった2小節はカットするという「荒技」でリリースしてしまいます。
そう言う経緯を思えば、誰かが書いていたように、ソロモンの名誉のためには世に出ない方がよかった録音かもしれません。
それらと比べると、51年から52年にかけて録音されたソナタはどれもこれも素晴らしい演奏です。
とりわけ26番の告別ソナタや32番のソナタなどは本当に素晴らしい。もちろん、巨大なハンマー・クラヴィーアや30番のソナタも文句なしです。よくないものには、演奏者に成り代わって言い訳することも必要ですが、良いものは良いと言うだけでいいのかもしれないと最近になって思うようになってきました。
言うべき事は一つだけでしょうか。
さらさら流れていくだけの微温系の演奏という向きもありますが、まあ、聞いてみてください。(^^v
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