タレガ:アルハンブラの思い出
(ギター)セゴビア 1955年3月4日録音
Tarrega:アルハンブラの思い出
ギターを習ったなら是非とも弾いてみたい曲のようです。
高校生の時に友人にギター部のやつがいました。彼は、暇があるとこの「アルハンブラの思い出」ばかり練習していました。ギターをやり始めたなら、これだけは絶対に演奏してみたいと誰もが思うようです。ネットで「アルハンブラの思い出」と検索すると、曲の解説だけでなく、〜これから、「アルハンブラの思い出」の弾き方を説明いたします。〜というのがあちこちにあって驚かされました。まずは、「禁じられた遊び」で入り口に佇んで、それが弾けるようになると次は「アルハンブラ」という流れなのでしょうか?とにかく、数あるギター曲の中でこの二つだけは断トツの有名曲であることは間違いありません。
この有名な作品は、「現在ギター音楽の父「とも呼ばれるフランシスコ・タレガがアルハンブラ宮殿を訪れたときの印象を音楽にしたものだと言われています。彼は、日中に訪れた宮殿の印象に圧倒され、宿に引き上げてからその時の印象をトレモロを使った美しい音楽に仕上げました。得てして、こういう優れた小品というのは机の前でうんうん唸ったできあがるのではなくて、このような外的要因に触発されてまるで何かが降り立ったようにして仕上がることが多いようです。
スペイン半島を長きにわたって支配したイスラム勢力がその最後の時を迎えたのがこのアルハンブラでした。その宮殿は、滅び行くイスラム文化の誇りを示すかのように緻密な装飾で埋め尽くされ、訪れるものを驚かせます。そこには、疑いもなく滅びの美学があふれています。そして、この作品が多くの人に愛され続けたのは、滅びの美学としてのアルハンブラ宮殿を音楽で表現し得ているからでしょう。
1490年、追い詰められたイスラム勢力最後の拠点グラナダもキリスト教徒によって包囲されます。そして、2年にわたる攻防戦の末に、1942年1月6日、アルハンブラ宮殿が陥落して最後のイスラム王朝であるナスル朝は滅亡します。
ただし、タレガの音楽は滅びで終わるのではなく、最後は切ない祈りと希望へと転調します。滅びの中にあって、彼らもまた一筋の祈りと希望を見いだすことができたのでしょうか。
滅びの美学としてのアルハンブラ
セゴビアは「現代クラシック・ギター奏法の父」と呼ばれ、田舎者の大衆的な楽器と見下されていたギターを、コンサートホールでも演奏される地位にまで引き上げた功績はどれほど評価しても評価しすぎることはありません。
確かに、現在の耳からすると、彼のギター演奏はいささか無骨でテクニック的に万全とは言えない部分も散見されます。
しかし、例えば、ここで聞くことのできる「アルハンブラの思い出」などは、ただ表面的にきれいなだけの演奏とは一線を画すだけの深い叙情性に満ちています。私たちがこの作品から聞き取りたい「滅びの美学」をこれほど切々と歌い上げる演奏は他には思い当たりません。
正直言って、セゴビアはあまり聞いたことがありませんでした。しかし、最近、ある程度まとめて聴く機会があって、なるほどこれは確かに立派なものだと感心させられました。
録音の方も、最近のホールトーンまで美しく取り込むようなものではなくて、かなりオンマイクでギターの音をガッチリと録っています。ですから、最初は少し違和感があったのですが、聞き続ける内にセゴビアの息づかいまでも聞こえてくるような雰囲気で、これはこれでいいものだと思いました。
よせられたコメント
2009-04-30:たこやき太郎
- >「禁じられた遊び」で入り口に佇んで、それが弾けるようになると次は「アルハンブラ」という流れなのでしょうか
「禁じられた遊び」は、入門曲、初心者の者でも割合簡単に弾けますが、「アルハンブラ」はかなり難曲です。トレモロは綺麗に出ないし、低音部分もかなり運指がやっかいです。
高尾山と日本アルプスぐらいの違いがあるのではないかと思います。
>無骨でテクニック的に万全とは言えない部分も散見
確かにおっしゃる通りだと私も思います。
>叙情性に満ちています
このあたりはよく理解できません。
個人的にはトレモロの旋律をもっと感情豊かに唄いあげてほしいなあと思います。
素人クラシックギタリストです。
2010-04-22:いずみっち
- さすがに巨匠の演奏だけあって、荘厳なものを感じます。
ところでふと気づいたんですが、
終盤、Codaに入る前の1章節分が抜けているのでは???
試しに併せて弾いてみましたが、う〜むむむ。
これは巨匠のオリジナルなのでしょうか。それとも弘法も筆の誤りなのでしょうか……
2010-11-27:鴨川魚影
- 久しぶりに聞きました。滅びゆく国家の哀調が十二分に出ていて感動しました。
高校生時代にわたしも少しばかり夢中になったものですが、こればかりはとうとう弾けませんでした。
今、多少ヒマができてギターでもと思い、昔のモノを出してみましたが、時すでに遅く指が動きません。脳梗塞を患っているからです。
2012-09-22:oTetsudai
- この曲はイエペスで聞いたことがあるのですが本家の演奏を聞くのは初めてです。あまり違った印象はありません。この曲にはこの曲の弾き方があるのかもしれません。ところで蛇足になりますが、ギターのだんとつ有名曲にクラシックではないのですが、スタンリー・マイヤースのカバティーナも超有名です。
2012-10-27:ひろこ
- セゴビアの演奏は情緒があっていいですね。独学で「ギターの神様」と呼ばれるまでになった巨匠の名演です。セゴビアというと若干エコーがかかったようなウェットな音色を思い浮かべます。個人的にはセゴビアではバッハの「無伴奏チェロ組曲第3番」や「シャコンヌ」が好きです。いずれもギター用に編曲されていますが、その編曲、演奏がすばらしいです。もちろんここでの小品の演奏も品があります。まるでギターが体の一部のように一体化した演奏(動画で見ました)でこんなに自分ひとりで弾けたらいいなあと思います。
2013-02-23:シンザト
2014-10-31:マオ
- クラシックギター大好きです。逆説のようですが、一度出した音がはかなく消えていくところが何ともいいです。ヴァイオリンやフルートと違って。でも音楽の心は続いているのですから。いわゆるセゴビア奏法で、必ずしも音楽的でないアクセントや独特の癖があるので時々抵抗感があります。イエペスはもっと即物的で冷たい感じがあり、その中間くらいが私の好みです。ギターはクラシック音楽の中では異色の分野になるかもしれませんが、個人的にはあらゆる楽器で一番すきです。自分で演奏できたらどんなに幸せでしょうか。
2019-06-07:マルメ
- 私は色々なクラシック音楽を紹介する場所でガーシュインやジョップリン、タレガ、或いはホルストを聞くたび、毎回何故これがクラシック系のサイトで紹介されているんだろう?と思うような雰囲気を感じてしまいます。それは今日の様々な文化の発信地であるアメリカの開拓に関わったイギリスやスペイン、そして開拓によって作られたアメリカ自身の響きが、現代の様々な分野や文化に繋がっている為、クラシックとは違う"故郷、或いは魂"の響きを彼らの曲から感じとってしまう為であると思います。
唯、そういった歴史的なアレコレが、こういった曲を日本人である私にさえ、ある種"文化的な故郷"としてのシンパシーを持たせてくれている(しまっている)点も事実。事実、このサイト上の評価も含め、この曲には私含め、とても多くの人か共感しているだろう(してしまっているだろう)と思います。とにかく何故か日本人の心に沁みやすい曲だと思います。
非常にわがままな想いなのですが、ユングさんお勧めの"ラグリマ"も聴いてみたいです。
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