クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ブラームス:弦楽四重奏曲 第2番 イ短調 Op. 51-2(Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2)

アマデウス弦楽四重奏団 1955年2月11日~12日&14日録音(Amadeus String Quartet:Recorde in February 11-12&14, 1955)



Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [1.Allegro non troppo]

Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [2.Andante moderato]

Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [3.Quasi Minuetto, moderato]

Brahms:String Quartet No.2 in A minor, Op.51 No.2 [4.Finale. Allegro non assai]


ベートーベンの影

ブラームスという人は常にベートーベンの存在を意識しながら創作活動に取り組んだ人でした。もう少し分かりやすく言えば、ベートーベンの作品がこの世に既に存在しているという状況の中で、自分の音楽が存在する意義があるのかを問い続けた人だったといえます。
そして、困ったことは、ベートーベンという人は全てのジャンルにおいて一つの頂点とも言えるような作品を生み出した男だったことです。
ですから、ブラームスは全てのジャンルにおいて、この巨人と向き合う必要がありました。もしも、ブラームスという人にオペラを作曲する気持ちがあったのならば少しは救われたかもしれませんが、そういう性向までも同一だったのですから、これは実に持ってしんどい作曲家人生だったといえます。

そう言う「しんどさ」の中でも、とりわけしんどかったのが「弦楽四重奏曲」というジャンルだったでしょう。
これは言うまでもなく、作品番号18の初期の6作品からラズモフスキーの3曲、そして後期のあまりにも偉大な作品まで、まさに巨峰と言うに相応しい作品群が既に存在しているからです。この巨峰を前にして、いったい何を付けくわえるものがあるのか、というのがたいていの作曲家たちの思いだったようです。
しかし、ロマン派の時代にあって、ベートーベンの後継者を自認していたブラームスであれば、それがいかに困難な課題であっても、やはり登ってみなければならないジャンルだったのです。

ブラームスが残したこのジャンルの作品はわずか3つです。
それは、ベートーベンの16と比べるとあまりにもささやかな成果のように思えます。しかし、残された資料を調べてみると、彼は第1番の弦楽四重奏曲を発表するまでに20曲近い弦楽四重奏曲を作曲していたらしいのです。そして、あまりにも自己批判力強いこの男は、それらの作品を「発表するに値しない作品」として、全て廃棄してしまったらしいのです。
シューマンはそのうちの何曲かを出版するように勧め、ブラームス自身も一時はその気になったようなのですが、結果的には「その価値なし」」と判断して廃棄していまいました。

実に持って、勿体ない話ですが、そう思えば残された3曲の重みが分かろうというものです。

しかしなのです。そう言う重みが分かったとしても、実際に聞いてみればある種の物足りなさを感じてしまいます。
それは、ベートーベンの作品を引き継いで発展させたと言うよりは、ロマン派の時代に相応しい濃厚な感情が表出された作品というように聞こえます。
おそらく、そのように受け取られることをブラームスは良しとはしないでしょうが、残念ながらそのような作品として私は受け取りたいと思いますし、評価したいと思います。

その意味では、ベートーベンの影を意識しすぎるあまり、結果として強い緊張感に満ちた作品となってしまった第1番よりは、どこかシューベルト的な風情が感じられる第2番の方が私には好ましく思えます。また、ブラームスの人生の最も幸福な時代に創作された第3番には、その幸福感が満ちあふれていて、これもまた実に好ましく思えます。
もっとも、暗い緊張感に満ちた第1番も若い頃に聞いていたならば感想は変わったかもしれません。

ブラームスにとって、この3曲で「弦楽四重奏曲」というジャンルから提出された宿題は終わったのでしょう。
これ以後、彼はベートーベンがあまり試みなかった楽器の組み合わせで室内楽作品を書いていきます。弦楽5重奏曲や6重奏曲のように内声部を拡大した組み合わせの方が、彼のロマン的な性向には向いていたいようです。ピアノ四重奏曲や五重奏曲においても事情は同じです。
不思議なことですが、ブラームスという男は、終生、ベートーベンを意識しながら、逆にその重荷から解放されたときに優れた作品を生み出しているように見えます。
それなら、最初から自分の好きなように振る舞えばいいのにと思うのですが、それが簡単にできないのが「人生」というものの難しさなのでしょう。

弦楽四重奏曲第1番 ハ短調 op.51-1(1873年)
弦楽四重奏曲第2番 イ短調 op.51-2(1873年)
弦楽四重奏曲第3番 変ロ長調 op.67(1875年?1876年)

彼らの若き時代の歩みが感じ取れる


ブラームスの弦楽四重奏曲はグラモフォンのステレオ録音をすでに紹介していて、その時にこんなことを書いていたようです。
アマデウス弦楽四重奏団のブラームスと言えば、真っ先に思い浮かぶのはセシル・アロノヴィッツ(ヴィオラ)とウィリアム・プリース(チェロ)を招いて録音した六重奏曲の方です。
そのロマン的な上にもロマン的な音楽を実に見事に歌い上げていて、何度も聴き直したくなる名演でした。

こんな事を書くと怒られそうですが、アマデウス弦楽四重奏団というのは、ベートーベンなどを聞くとあまりよろしくないような気がします。モーツァルトはそれよりは適性があるようには思うのですが、それほどうまくいっているとは思えません。
しかし、ドヴォルザークの「アメリカ」みたいな、旋律を歌い上げるような音楽になると、実に魅力的な演奏をするように思います。
その意味では、ブラームスの六重奏曲で名演を聞かせてくれるのも納得ですし、この渋めの四重奏曲もなかなかいい感じ演奏を聴かせてくれます。

最近は、どちらかというと忘れ去られつつあるカルテットですが、こういうロマン派の音楽を聴く上ではしっかりと記憶にとどめておいた方がいいようです。

「ベートーベンはあまりよろしくない」とか「モーツァルトもそれほどうまくいっていない」などと恐れ多いことをほざいていました。

確かに、アマデウス弦楽四重奏団の演奏は同時代に活躍したブダペスト弦楽四重奏団などと比べればそれほどハードな表現ではありません。しかし、十分すぎるほどの力強さと重厚感を持っています。
しかしながら、彼らが他のカルテットに対して差別化できるのは、ファーストヴァイオリンのブレイニンの歌いまわしと、それにピッタリ寄り添った他の3人のアンサンブルの魅力でしょう。それが最もうまくいっているのは、ブラームスの六重奏曲やクラリネット五重奏曲、ドヴォルザークの「アメリカ」などです。
そして、その様なぬくもりのある手触りが、どちらかといえば晦渋だと思われがちなブラームスの弦楽四重奏曲に対しては程よい中和剤になっています。
ただし、その歌いまわしが聞き手により語り掛けるのは、残念ながらグラモフォンのステレオ録音のほうです。

それでも、初期のモノラル録音には覇気あふれる51年録音の第1番から、その後のステレオ録音への方向性が感じ取れる57年録音の第3番まで、彼らの若き時代の歩みが感じ取れます。
その意味では取り上げる価値はあるでしょう。

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