クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

パガニーニ:カプリース, Op.1(第19番~第24番)

(Vn)ルジェーロ・リッチ:1950年録音





Paganini:24 Caprices for Solo Violin, Op.1 [19.Caprice in E-flat major: Lento - Allegro Assai]

Paganini:24 Caprices for Solo Violin, Op.1 [20.Caprice in D major: Allegretto]

Paganini:24 Caprices for Solo Violin, Op.1 [21.Caprice in A major: Amoroso - Presto]

Paganini:24 Caprices for Solo Violin, Op.1 [22.Caprice in F major: Marcato]

Paganini:24 Caprices for Solo Violin, Op.1 [23.Caprice in E-flat major: Posato]

Paganini:24 Caprices for Solo Violin, Op.1 [24.Caprice in A minor: Tema con Variazioni (Quasi Presto)]


多くの作曲家に多大なる影響を与えた作品

この作品は言ってみればヴァイオリンの演奏技術の見本市のようなものだといえます。ここには彼が独学で開発して習得した様々な高度な技術が詰め込まれています。(ダブルストップ・左手のピチカート・フラジョレットなどなど・・・)
しかし、聞いてみれば分かるように、この作品にはそれだけにとどまらない何か鬼気迫るような雰囲気が醸し出されていくところにも魅力があります。
ですから、意外なほどにこの作品は多くの作曲家にインスピレーションを与え、有名なところだけでもざっと以下のような作品を生み出すきっかけとなっています。

★ ヨハン・ネポムク・フンメル
ピアノのための幻想曲「パガニーニの思い出」
★ ロベルト・シューマン
パガニーニのカプリスによる練習曲 Op.3 (6曲)
パガニーニのカプリスによる練習曲 Op.10 (6曲)
★ フランツ・リスト
パガニーニによる超絶技巧練習曲集 S.140 (6曲)
パガニーニによる大練習曲 S.141 (6曲)
★ フェルッチョ・ブゾーニ
パガニーニ風の序奏とカプリッチョ
  ★ ヨハネス・ブラームス
     パガニーニの主題による変奏曲 イ短調 Op.35
  ★ セルゲイ・ラフマニノフ
パガニーニの主題による狂詩曲 イ短調 Op.43

この一事を見るだけで、単なる技巧のひけらかしとは言い切れない作品だと納得するはずです。

<曲目リスト>

1. 奇想曲第1番ホ長調
2. 奇想曲第2番ロ短調
3. 奇想曲第3番ホ短調
4. 奇想曲第4番変ホ長調
5. 奇想曲第5番イ短調
6. 奇想曲第6番ト短調
7. 奇想曲第7番イ長調
8. 奇想曲第8番変ホ長調
9. 奇想曲第9番ホ長調「狩猟」
10. 奇想曲第10番ト短調
11. 奇想曲第11番ハ長調
12. 奇想曲第12番変イ長調
13. 奇想曲第13番ト短調「悪魔の笑い」
14. 奇想曲第14番変ホ長調
15. 奇想曲第15番ト長調
16. 奇想曲第16番ト短調
17. 奇想曲第17番変ホ長調
18. 奇想曲第18番ハ長調
19. 奇想曲第19番変ホ長調
20. 奇想曲第20番ニ長調
21. 奇想曲第21番イ長調
22. 奇想曲第22番ヘ長調/ニ短調
23. 奇想曲第23番変ホ長調/ハ短調
24. 奇想曲第24番イ短調

二つの選択


この作品を演奏する時は二つの選択が迫られるように見えます。まずは、この作品が内包している内面的な凄味をだすことを優先してテクニック的にはいささかモタモタした感じがともなっても仕方がないとするスタンスです。もうひとつは、いや、そうではなくて、あくまでも超絶技巧の披露を優先すべきであって、濃厚な表情付けは無用であるというスタンスです。
ですから、この作品の演奏史を概観してみれば、この二つの陣営に分けることが可能なように思います。
当然のことかもしれませんが、最近のヴァイオリニストはほとんどが後者のスタンスをとっているように聞こえます。パールマン・ミンツ・レビンなどが若い頃に録音した演奏はどれもこれも見事なまでの技巧の冴えを見せてくれています。そして、ここで紹介したリッチの演奏も同様のスタンスの上に成り立っています。確かに上述した3人と比べてみるといささか荒っぽさを感じる部分はあるものの、聞いているときの爽快感と言う点では上回っているように聞こえます。とにかく一つ一つのフレーズのメリハリ感というのは大変なもので、ほとんどのヴァイオリニストにからかぎ取ることが出来る「モタモタ感」のようなものが皆無と言っていいほどの快演です。

なお、後者のグループにはユング君はあえて五島みどりをあげておきます。もちろんこの演奏はモタモタしたんかじは全くなくテクニック的には十全すぎるほどなのですが、聞き進うちにパガニーニがこの作品に込めた内面的な凄味みたいなものがにじみ出てくるので驚いたものです。こんな言い方をすると本人はきっと気を悪くするでしょうが、思春期の渦巻く情念のなかに身を置く10代の少女だからこそなしえた奇跡の演奏だといえるのかもしれません。きっと、今の彼女には絶対に再現不可能な演奏だと思います。

なお、意外なことですが、あのハイフェッツはこの作品の中の2〜3曲は録音していますが、全曲の録音はしていません。その理由を聞かれたときに彼は「私には難しすぎる」と答えたそうです。深い言葉です。

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