ハイドン:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)
アマデウス弦楽四重奏団 1951年録音
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「序奏」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「第1のソナタ」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「第2のソナタ」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「第3のソナタ」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「第4のソナタ」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「第5のソナタ」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「第6のソナタ」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「第7のソナタ」
Haydn:十字架上のキリストの最後の7つの言葉(弦楽四重奏曲版)「地震」
ハイドンの数ある作品の中ではとても特殊な作品の一つです。
この作品はハイドンが仕えていたエステルハージ家での演奏会のために作られたものではなくて、外部からの注文に応じて創作されたものです。
ハイドンといえば、30年以上の長きにわたって、あらゆる困難や理不尽に耐えてエステルハージ家宮廷楽団の楽長という地位と職務を全うしたというイメージがあります。しかし、よく調べてみると、1780年代にはハイドンの作品はすでにパリを中心としてかなりの数の作品が出版されていて、エステルハージ家という狭い世界にとどまるものではなかったことが分かります。
そして、この「最後の7つの言葉」も、その様な出版活動を通して名声を高めていたハイドンに、スペインの貴族であったホセ・サルーズという人物が依頼して生み出されたものだったのです。貴族の召使いでしかなかった音楽家が、やがては独立した芸術家へと飛躍していく萌芽がすでにハイドンの時代に存在したことに少しばかりの驚きを感じます。
ホセ・サルーズという人物は自らが司祭をつとめる教会での「心霊修行」のためにこの作品を依頼しました。そこでは、十字架に磔にされたキリストの最後の7つの言葉を唱えることが修行の中心を占めていて、ハイドンに依頼した作品は、その7つの言葉を一つずつ唱えて跪くとそれにあわせて演奏されることを想定していました。
重々しい序奏ではじまり、それに続いてソナタ形式の7つの音楽が続きます。もちろん、この7つの音楽は、それぞれキリストの「最後の7つの言葉」に対応します。そして、終曲はキリストが息絶えたときに起こった地震のシーンで閉じられるという構造を持っています。
序奏と終曲の間にえんえんと7曲ものアダージョの作品が続くというのは、演奏会の作品としてはいささか冗長にすぎる感じがするのですが、この作品のそのような成立過程を知れば納得がいきます。
しかし、ハイドン自身はその様な難しい条件の作品であることを理解しながらも、それでもなお聞き手を退屈させないための工夫に全力を傾注しています。そして、その成果にハイドン自身はいたく満足をしていたようで、もとは管弦楽作品として作られたものを、もっと気軽にどこででも演奏できるように自らの手で弦楽四重奏曲に編曲をしています。
さらに、イギリス旅行でこの作品が声楽入りの作品として編曲されたのを聞いて、帰国後、これまた自らの手でオラトリオ版に編曲したりもしています。さらに、他の人物によってピアノやチェンバロに編曲されたものを、監修者という形で手を加えたりもしていますから、ハイドン自身はよほどこの作品に愛着を持っていたことがうかがわれます。
1. 序奏
2. 第1ソナタ 父よ、彼らを赦したまえ。彼らは自分で何をしているのか自分でも分かっていないのですから
3. 第2ソナタ 真に私はあなたに言う。今日、あなたは私と共に天国にいるであろう
4. 第3ソナタ 女よ、汝の息子を見よ
5. 第4ソナタ 我が神よ、我が神よ、何ゆえ私を見捨て給うたのか?
6. 第5ソナタ 私は渇く
7. 第6ソナタ これで終わった
8. 第7ソナタ 父よ、御手に魂を委ねます
9. 地震
少しばかり影がうすくなってきていますが・・・
アマデウス弦楽四重奏団は日本では大変有名な団体だったのですが、活動を停止してから20年近い歳月がたってしまうといささかその存在の影が薄くなってきています。最近のハイテクカルテットを聞き慣れた耳には、彼らのシンフォニックとまで評された重厚な響きはいささか鈍重に聞こえることは否めません。また、彼らの前の時代を代表する歴史的なカルテットのような味の濃さは求めることも出来ません。そういう二つの潮流の中に身を置いてみるといささか影が薄くなってきているということです。
しかし、1987年にヴィオラのシドロフが急死をして活動を停止するまで、一人もメンバーを交代しなかったというのがこのアンサンブルの最大の特徴です。そして、第1ヴァイオリンのノーバート・ブレイニンの個性がこの団体の個性として深く刻印されていたのも特徴と言えば特徴です。このブレイニンがもつ豊穣なロマン性がぴたりとツボにはまるとカルテットとしてもうまくいくのですが、そうでないときは意外とつまらない演奏をしてしまうという、ある意味では実に分かりやすい(^^;団体ではありました。
そのブレイニンも亡くなり、もしかしたらますます記憶の彼方に消えていってしまうかもしれないのですが、それでも60年代から70年代にかけて世界の室内楽をリードした団体であることは間違いありません。
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