エリカ・モリーニ:ヴァイオリン小品集
(Vn)エリカ・モリーニ (P)レオン・ポマーズ 1956年録音
Godard:Concerto romantique, Op. 35~Canzonetta
Gounod:Faust~waltz
Tchaikovsky:Chant sans paroles, Op2-3
Tchaikovsky:The song of Naples, Op.39-18
エリカ・モリーニのヴァイオリン小品集
エリカ・モリーニのヴァイオリン小品集にすっかり感心をしたことはすでに紹介済みです。その時に「小品集」という形でまとめるのではなくて、出来れば一つずつ別々に作品の解説も付けて紹介をしたいと思い、シューベルトの「アヴェ・マリア」を筆頭にグルック、モーツァルト、パラディスの作品をアップしました。
しかし、それ以外の作品に関してはなかなかにマイナー作品であって、その作品に解説を付けるのが難しくていつの間にか放置状態になっていました。
と言うことで、今回は詳しい解説は潔く諦めて、残りの作品を「小品集」という形で取りあえず紹介しておきます。
- ゴダール:ヴァイオリン協奏曲「ロマンティック」~カンツォネッタOP.35
- グノー(サラサーテ編):歌劇「ファウスト~ワルツ
- チャイコフスキー(スウェット編):無言歌OP.2, NO.3
- チャイコフスキー(ブルメスタ編):ナポリの歌 OP.39, NO.18
この中でも特に「バンジャマン・ゴダール」はとりわけマイナーな作曲家で、今ではほとんど忘れ去られているのですが、存命中はあらゆるジャンルにおいて膨大な作品を残してかなり高い評価と人気を勝ち得た人だったようです。
なお、このアルバムにはこれ以外にもクライスラーの「美しきロスマリン」と「ウィーン奇想曲が含まれているのですが残念ながら著作権は未だ消失していないので紹介することは出来ません。また、クライスラー編曲によるホイベルガーの「真夜中の鐘」とシャミナードの「スペインのセレナード」にかんしても、著作権が切れていない可能性が否定できないので、それらも今回は外しました。
古き良きヨーロッパの象徴のような女性の目に映じた「滅び行くヨーロッパの姿」
エリカ・モリーニと言えば、その背筋の伸びた清冽な音楽がすぐにイメージされます。そして、彼女こそは古き良きヨーロッパの象徴のようなヴァイオリニストでした。
その経歴を見てみれば、20世紀の初頭にオーストリアに生まれ,、わずか14才にしてベルリン・フィルやゲヴァントハウス管弦楽団と共演して衝撃的なデビューをはたしています。父はヨアヒムの系列をくむヴァイオリニストであり、彼女もまた生粋のウィーンが生んだヴァイオリニストでした。
しかし、1938年にナチスの迫害を逃れてアメリカに渡り、その後はニューヨークを拠点として音楽活動を続けることになってしまうのですが、それでも多くの亡命演奏家たちのようにアメリカという新しい社会の価値観に迎合することはありませんでした。彼女のレパートリーはウィーン古典派からブラームスなどのロマン派の作品あたりに限られていて、そう言う基本的なスタンスを彼女はアメリカに移っても頑固なまでに崩さなかったのです。
そんな彼女の目に、戦争に巻き込まれ、あらゆる美しい伝統と文化が破壊され、焼き尽くされていく現実はどのように映ったのでしょう。
確かに、戦後に残された彼女の数少ない録音を聞けば、それでも彼女は凛と背筋を伸ばしているように見えます。
しかし、彼女にしては珍しいレパートリーと思われる幾つかの小品の録音を聞いたときに、そう言うけなげなモリーニとは全く違う姿にふれて呆然としたのです。
そこには、疑いもなく、モリーニという古き良きヨーロッパの象徴のような女性の目に映じた「滅び行くヨーロッパの姿」そのものが刻み込まれていました。
そして、そこでは老いた没落貴族の女性が、過ぎ去った栄光の過去を思い出しながら一人でダンスを踊っているような光景が浮かんでくるのです。
そして、それはどこかで観た映画の一シーンであったような記憶があるのですが、タイトルがどうしても思い出せないのです。もしかしたら、そんなシーンがあったというのは私の妄想かもしれませんが。
いや、そう言う曖昧な映像を引き合いに出すよりも、このモリーニの音楽こそはヨーロッパの没落を見事に描ききっています。
もちろん、言うまでもないことですが、戦争によってどれほど痛めつけられても「現実のヨーロッパ」は滅びることはなく再び蘇っていくのですが、そしてその事をモリーニもまた理解していたのでしょう。しかし、そうして蘇った「新しいヨーロッパ」は彼女にとってはそれはもう全く別のヨーロッパであったのです。
それはすべてのものが消えてなくる事よりも、さらに大きな喪失感を彼女に感じさせたことは容易に想像できます。
<追記>
難波のタワーレコードにはよく顔を出すのですが、最近はもっとも目立つ入り口のところがアナログ・レコードのコーナーになっています。アメリカほどではないにしても、日本でもアナログ・レコードの復権はジワジワ進行しているようです。
そして、驚いたのは、そのアナログ・レコードの売り場の一番目立つところに、このエリカ・モリーニの「小品集」の復刻盤が飾られていたことです。「Erica Morini Plays」と題されて1955年に発行された古いレコードが復刻されていたことにも驚きましたが、それが売り場の一番目立つ場所に置かれていると言うことにも驚かされました。
それは、逆から見れば、今の少なくない人々がどのような音楽を求めているかのあらわれでもあると感じました。
ただし、一つだけ気になったのがその価格設定です。通常価格は6000円を超えていて、タワー・レコードでは特別価格4500円という設定でした。おそらく、この価格設定ではオーディオ・マニアしか買わないでしょう。
アナログが本当に復活するためにはオーディオ・マニアではない音楽ファンをつかまないといつかは先細りするでしょう。
昔は新譜が2800円、再発盤で2000円か1500円、そして廉価盤が1300円というのが相場でした。少なくとも、新録音でない復刻盤ならば少なくとも再発盤程度の価格にまで下がってこないと未来は暗いように思うのですが、いかがなものでしょうか。
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