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ベートーベン:「レオノーレ」序曲 第1番

ミンシュ指揮:ボストン交響楽団 1956年2月27日録音



Beethoven:「レオノーレ」序曲 第1番


彫琢の限りを尽くした作品

ベートーベンは生涯にたった一つの歌劇しか残しませんでしたが、そのたった一つのために9年もの歳月を費やしています。そして、その改作のたびに彼は新しい序曲を作曲しましたので、後世の私たちはなんと幸いなことに合計で4曲もの素晴らしい管弦楽作品をもつことで出来たのです。
では、その改作の履歴と序曲の関係を簡単に振り返っておきましょう。

「レオノーレ」序曲第1番(1805年)
この作品はベートーベンの死後に遺品の競売に際して発見されたもので、実際に歌劇の序曲として演奏されたことはありません。おそらくは1805年に作曲されたものと思われリヒノフスキー邸で試演もされたようです。しかし、作品そのものが歌劇の序曲としては軽すぎると言うことでベートーベン自身も不満があり、さらには周辺の人々も好意的ではなかったためにお蔵入りになってしまったようです。
なお自筆楽譜には「性格的序曲」としか記述されていないのですが、フロレスタンのアリアの引用などがなされていることから、間違いなくフィデリオの序曲として考案されたものと思われます。

「レオノーレ」序曲第2番(1805年:第1版)
フィデリオの初演はナポレオンの軍隊がウィーンの町を占領する中で行われたために成功をおさめることは出来ず、わずか3日で上演は打ち切られます。それは、フランス語しか解さないフランスの兵士が聴衆の大部分を占める中でドイツ語による歌劇を上演したのですからやむを得なかった結果だと言えます。
今日、「レオノーレ」序曲第2番と呼ばれる作品は、この初演の時に使用された序曲です。ですから、フィデリオの序曲としてはこの作品はわずか3日にしか演奏されなかったことになります。

「レオノーレ」序曲第3番(1806年:第2版)
初演の大失敗を反省して、3幕だったフィデリオを2幕構成の作品に大改訂し、さらに序曲の方も大幅に改訂してほとんど新作といっていいほどの作品が生み出されます。それが今日、「レオノーレ」序曲第3番と呼ばれる作品です。
この作品はその後フィデリオ序曲が作曲されることで歌劇の序曲としてのポジションは失うのですが、純粋に管弦楽作品として見ても傑出した作品であるために、今ではコンサート・レパートリーとして演奏されるようになっています。
さらには、マーラーが始めたと言われているのですが、聴衆へのサービスとして第2幕第2場の前に演奏されることが一つの習慣として定着しています。(最近は原点尊重と言うことでこのサービスをカットする上演も増えてきているようです)

フィデリオ序曲(1814年:決定版)
1806年の第2版の上演はそこそこの成功をおさめたのですが、収入の分配で合意が出来ずにベートーベンは一方的には上演を打ち切ってしまいます。その後フィデリオは上演される機会をもたなかったのですが、1814年になって再び上演する機会が巡ってきます。
そして、この機会を捉えて台本に不満のあった部分を全面的に改定し、さらには序曲もよりすっきりしたフィデリオ序曲が作曲されました。
この上演は大変な大成功を納めこの作品の評価を確固たるものにしました。

この上もなくクリアな演奏です。


ミンシュと言えば真っ先に思い浮かぶのが最晩年のパリ管との録音です。とりわけブラームスの1番はフルトヴェングラーを思わせるような演奏で、あの熱くてうねるような音楽があまりにも強烈だったために、ミンシュというのはそう言う指揮者だったように刷り込まれてしまいました。
しかし、ここで聴くことのできる演奏は、あのパリ管との最晩年の録音とは同一人物だとは到底想像できないような姿を見せています。
そう言えば、吉田大明神がミンシュの初来日の時のことを何かに書いていたのを思い出します。その中で、大明神はミンシュの演奏をまるで目の前にスコアが浮かび上がってくるようだったと書いていました。実は、その時はその言葉の意味があまりピントこなかったのですが、今回この録音を聞いてみてハッキリと分かりました。なぜならば、ここで展開されている演奏が、まさに大明神が指摘していたような目の前にスコアが浮かび上がってくるほどの明晰さに貫かれていたからです。
なるほど、ミンシュという人はこういう音楽もする人だったんだと発見させてくれました。
ただし、同時代に録音されたベートーベンの交響曲を聴いてもこういう感じはしなかったので、常にこういう異常なまでの明晰さで音楽を作っていたわけではないのでしょう。それとも、この録音がそのようなミンシュの特徴を見事なまでにすくい上げた優れものだったのでしょうか?
その辺のことは録音と再生というフィルターがかかった向こうの話なので、確たる断定が出来ないのはもどかしい限りですが、それでもミンシュという人の新しい側面を発見させてくれた貴重な録音であることは間違いありません。

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