レスピーギ:バレエ音楽「風変りな店」(ロッシーニの「老いの過ち」より)
ゲオルク・ショルティ指揮 イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団 1957年3月録音
Respighi:La Boutique Fantasque [1.Overture]
Respighi:La Boutique Fantasque [2.Tarantella]
Respighi:La Boutique Fantasque [3.Mazurka]
Respighi:La Boutique Fantasque [4.Dance Cosaque]
Respighi:La Boutique Fantasque [5.Can Can]
Respighi:La Boutique Fantasque [6.Valse Lente]
Respighi:La Boutique Fantasque [7.Nocturne]
Respighi:La Boutique Fantasque [8.Galop]
レスピーギがロッシーニの小品集「老いのいたずら」に基づいて作曲
この作品はロシア・バレエ団が1919年に初演した1幕からなるバレエのための音楽で、レスピーギがロッシーニの小品集「老いのいたずら」に基づいて作曲しました。
ストーリーは愛し合う一組の人形が別々の客に買われていくことになり、その危機を仲間の人形達が救うというファンタジー物語となっています。
作品の構成は以下の8つの部分から成り立っています。
- 序曲
世界的にも有名な人形店ののどかな情景が描かれています。しかし、そのお店は魔法の人形達がいる「magic toyshop」なのです。
- タランテラ
人形店に二人のイギリス人女性とアメリカ人の家族がやってきて賑わい始めます。人形達は自分こそが買われようとパフォーマンスを披露していきます。
- マズルカ
トランプがデザインされた人形はマズルカを披露します。
- コサックダンス
ロシア人の家族が来店すると全ての人形は彼らを歓迎します。そしてコサック人形はロシアの伝統的な踊りを披露します。
- カン・カン
店主は彼のお店でもっとも洗練された一組のカン・カンダンサーの人形を披露します。華やかなドレスを身にまとった彼らは素晴らしい踊りを客に披露します。
- ゆっくりなワルツ
その素晴らしい踊りに感心したアメリカ人の家族は男性の人形を、ロシア人の家族は女性の人形を買うことにします。支払いは済まされ二人は別々の箱に入れら翌日には引き渡されることになります。
- 夜想曲
闇がおりると店の人形達は踊り始めます。そして、彼らは愛し合う二人が引き離されないようにお店から逃がします。
- ギャロップ
翌日訪れたお客は人形が消えたことに腹をたてるのですが、コサック人形が銃剣で彼らを追い払います。やがて、幸せそうに踊る二人のダンサーをお客達は驚きの目で見守る中で幕はおります。
ショルティの忍耐と能力がいかに優れたものかが如実に示されている
「Decca」は1957年からイスラエル・フィルとの録音を開始します。
「Decca」と言うレーベルは株式仲買人だったエドワード・ルイスが始めた会社なのですが、その後、モーリス・ローゼンガルテンが経営に参画し二頭体制となります。
ルイスはロンドンに本拠を置きイギリスでの録音を取り仕切り、ローゼンガルテンはジュネーブに本拠を置いて大陸での録音を取り仕切るようになるのです。そして、この二人は年に一度パリで落ち合って、その後一年間の録音計画を話し合うというのが「Decca」の経営スタイルだったようです。
このローゼンガルテンという人物は様々な事業を営むユダヤ人だったのですが、その様々な事業のうちの一つが「Decca」だったのです。彼は決してクラシック音楽に深い愛情を持っている人物ではなかったのですが(それは、エドワード・ルイスも同様)、スイス人としての愛国心とユダヤ人としての意識は強く持っていたようです。
そして、その内のスイス人としての愛国心がアンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団の重用につながっていたのですが、新たにユダヤ人としての意識からイスラエルフィルとの録音を思い立ったのです。
そして、その一番最初の録音を任されたのがカルショーとショルティだったのです。
ただし、その録音は困難を極めたようです。
その原因としてカルショーは二つの要因を挙げています。
一つは録音を行うのに相応しい会場がイスラエルには存在しなかったことです。
この初めての録音の時にもあちこちの会場を探し歩き、漸くにしてテルアビブ近郊の映画館を見つけ出したのですが、「Decca」の基準(ヴィクター・オロフが許可を出した録音会場)からすれば不十分なものでした。
二つめの要因は、イスラエルフィルが必ずしもバランスの取れたオケではなかったことです。
具体的に言えば、弦楽器は世界レベルで通用するものの、金管楽器に関しては著しく水準が下がるのです。
当時のイスラエルフィルはオーケストラを存続させるために、酷暑の砂漠をバスに乗って演奏旅行を続けるという過酷な活動を強いられていました。
ですから、欧米で働き口を見つけやすい金管楽器の奏者はイスラエルを離れてしまうのです。
さらに、この時の録音に関しては飛行機のトラブルによってショルティの到着が遅れるというハプニングも起こって、極めてタイトな日程の中で録音を行う必要が生じてしまいました。
慣れない外国であり、音響的にも満足できない録音会場というのは指揮者にとっては大変な負担です。
さらには、始めて顔合わせをするオーケストラであり、そのオーケストラが必ずしも機能的には満足できないものだとすれば、その負担はさらに大きくなります。
そして、飛行機のトラブルが原因だったとは言え、限られた時間内で録音を行わざるを得なかったのですから、それはも途轍もなく大変なことだったのです。
ところが、そう言う困難な状況であっても、それなりにやり遂げてしまう能力と粘り強さがショルティにはあったのです。
録音という行為であっても、音楽家には第一義的に素晴らしい音楽を生み出す能力がなければ話になりません。
それは確かなことなのですが、それでも、素晴らしい音楽を作り出す能力さえあれば素晴らしい録音が出来るのかといえば事はそれほど単純ではありません。
録音という行為には、実演とは異なる様々な困難や障害が発生します。
音楽家にはそう言う困難や障害と向き合ってそれを克服していく忍耐と能力が求められます。
ですから、どれほど素晴らしい音楽的才能に恵まれていても、その様な忍耐と能力に欠けている人は録音には不向きなのです。
もちろん、それほどの忍耐を強いられることなくスムーズに録音が進むときもありますから、そう言うときには素晴らしい録音が仕上がることはあります。しかし、そう言う僥倖にいつも恵まれるわけではありませんから、長きにわたって安定して録音活動を行うにはその様な忍耐と能力は不可欠なのです。
その意味では、このイスラエルフィルとのバレエ音楽「風変わりな店」は、ショルティの忍耐と能力がいかに優れたものかを如実に示しています。
優れた弦楽器と木管楽器の美質を引き出しながら、不都合のある金管楽器に関しては可能な限りその問題点を押さえ込んでいます。そこには、優れトーケストラ・トレーナーとしての能力が遺憾なく発揮されています。
ちなみに、この後にはラファエル・クーベリックがやってきてドヴォルザークの作品を録音するのですが、その内の第8番の交響曲は金管楽器の不都合のために発売が出来ずお蔵入りになってしまっています。
つまりは、そう言うことなのです。
よせられたコメント
2018-11-14:yk
- 私(個人)にとっては、ショルティと言う指揮者の評価は難しい問題ですが、フルトヴェングラーは1952年のある手紙で、コウ評価しています・・・
<・・・とにかく、あの人は骨のある人で、自分の芸術に対しても真摯な態度を貫いており、効果だの立身出世しか眼中に無い芸術家ではありません。今日のような状況では、それだけですでに立派なものです!>
他人に厳しい(自分に甘い?)フルトヴェングラーにしては随分高い評価ですが、こう言う50年代のショルティの演奏を聴くと解る様な気もします。それに、録音”効果”の技術革新のこの時代に、ショルティのような指揮者が現れたことは、録音技術の”黄金の50年(60年)”を築く上でも幸運であったとも納得しますね。
2021-02-16:コタロー
- レスピーギは、ロッシーニの「老いの過ち」を題材にした管弦楽曲をいくつか作曲しています。たとえば、以前「ロッシーニアーナ」という曲を聴いたことがありますが、音楽としてはさほど魅力を感じませんでした。
それに対して、このバレエ音楽は素敵なメロディーが随所に散りばめられており、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような楽しさが全篇にあふれています。なお、2曲目の「タランテラ」は、かつて一世を風靡したテナー歌手の藤原義江氏が十八番にしていました。
ショルティというと、あまりバレエ音楽とは縁がないように思われますが、華美になりすぎず、適度な活気をもって手堅くまとめた演奏です。珍しいレパートリーであり、また全曲版であることがこの演奏の価値を高めています。
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