リムスキー・コルサコフ:交響組曲(交響曲第2番) 「アンタール」 作品9
エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団 1954年6月録音
Rimsky-Korsakov:Symphonic Suite(Symphony No.2), Op.9 "Antar" [1.Largo - Allegro giocoso - Adagio - Largo - (Tempo I) - Allegretto vivace - Largo (Tempo I)]
Rimsky-Korsakov:Symphonic Suite(Symphony No.2), Op.9 "Antar" [2.Allegro - Molto allegro - Meno mosso, allargando - Allegro (Tempo I)]
Rimsky-Korsakov:Symphonic Suite(Symphony No.2), Op.9 "Antar" [3.Allegro Risoluto Alla Marcia
Rimsky-Korsakov:Symphonic Suite(Symphony No.2), Op.9 "Antar" [4.Allegretto vivace - Andante amoroso - Animato assai - Tempo I]
交響曲から交響組曲に衣替えをした作品
作品が持つ東洋趣味的な雰囲気と華やかな管弦楽法がもたらす響きは「シェエラザード」とよく似ているのですが、知名度という点では雲泥の差があります。
ただし、この作品は最初は交響曲として構想されましたし、今日でも交響組曲ではなくて「交響曲第2番」として取り上げられることがあります。
リムスキー・コルサコフが交響曲に取り組むようになったのはバラキレフの影響だと言われています。
遅れたロシアが音楽の分野でもヨーロッパに追いつくためには、ヨーロッパの音楽家が書いた交響曲に劣らないような「交響曲」を書くことが求められているとして、バラキレフは才能のある若者を見つけては交響曲を書くことを勧めていたのです。
まあ、無茶苦茶と言えば無茶苦茶な「お薦め」なのですが、それでも17歳だったコルサコフはその勧めに従って、管弦楽法の勉強をしながら4年の歳月をかけてファーストシンフォニーを完成させます。そして、その交響曲はバラキレフの指揮で初演が行われそれなりの成功をおさめます。
それに自信を得たコルサコフはその勢いに乗って第2番の交響曲を書き上げるのですが、それが最終的には交響組曲「アンタール」となる作品でした。
おそらく、最初は勢いに乗って「交響曲」としたのでしょうが、やがて年を重ねるにつれてその標題的な内容ゆえに交響曲としては問題が多いと感じざるを得なかったのでしょう。ただし、年を経てから身につけた「知恵」で若い頃の「勢い」を手直しをするのはよろしくない結果になることよくあります。
ただし、経験を積んだコルサコフの「知恵」はこの「交響曲」を多楽章形式の交響詩的雰囲気に改定した方がいいと命じたのでしょう。そこで、交響曲という看板は外して、より標題性に強い内容に改訂して「交響組曲アンタール」としたのでした。
コルサコフは1868年、24才の時に交響曲として書き上げた作品を1875年と1897年の2回にわたってその様な改訂を施しています。
なお、この組曲の下敷きとなったのは6世紀アラビアの詩人アンタールが見る夢と、その夢の中で実現を約束される3つの願望です。
アンタールが見る夢とは、パルミラの壮麗な廃墟の中で世を捨て生きていたアンタールが、巨大な鳥に襲われていたカモシカを救うというものでした。そして、そのカモシカがパルミラの女王である妖精ギュル・ナザールであり、アンタールは女王を救った褒美として3つの喜びが約束されるのです。
その喜びとは「復讐の喜び」と「権力の喜び」なのですが、やがてその様な人生に疲れ果てたアンタールは最後に「愛の喜び」の中で静かに息を引き取っていくのです。
- 第1楽章[アンタールの夢]:Largo(廃墟の描写、アンタールの主題) - Allegro(女王の主題、鳥の攻撃と撃退) - Largo - Allegretto(宮殿の描写) - Adagio(女王とアンタールの会話) - Allegretto(宮殿の描写) - Largo
全曲を通して何度も変奏されるアンタールの主題は実に魅力的です。
- 第2楽章[復讐の喜び]:Allegro - Molto allegro - Allegro - Molto allegro
猛々しい狂気に満ちた音楽です。
- 第3楽章[権力の喜び]:Allegro risoluto alla marcia
スケールの大きな皇居工夫の音楽です。
- 第4楽章[愛の喜び]:Allegretto vivace - Andante amoroso
木管群の響きの美しさが秀逸です。
「Decca」が始めてステレオ録音に取り組んだ歴史的音源
残された記録によると、「Decca」が始めてステレオ録音を行ったのが、エルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団によるリムスキー・コルサコフの交響組曲(交響曲第2番)「アンタール」でした。
録音会場は言うまでもなく、ジュネーブのビクトリア・ホールで、録音の指揮を執ったのは「Decca」でステレオ録音推進の中心メンバーだったRoy Wallaceでした。
その意味では、これはまさに「歴史的意義」のある録音だと言えます。
そして、ステレオ録音の幕開けの時に、既にこのレベルの録音クオリティを実現していたことには驚かざるを得ません。
もちろん、その背景にはアンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団による献身を忘れてはいけません。
ほぼワンポイントで録音されたことは間違いはないでしょうから、録音が完了してからの編集段階で手直しをする事などは不可能ですから、まさに録音の時にこのように現実のオケが鳴り響いていたと言うことです。
うっとりするようなアンタールの主題は言うまでもなく、愛の喜びの中で静かに息を引き取っていく場面での管楽器の響きなどは、まさにその様な音が鳴り響いていなければどれほど録音のクオリティが高くてもどうしようもありません。
しかしながら、この4ヶ月後にDeccaは御大ヴィクター・オロフ(Victor Olof)の指揮の下、アンセルメ&スイス・ロマンド管弦楽団という同じ顔ぶれでボロディンの交響曲を録音します。
それと比べれば、この録音も決して悪い録音ではないのですが、個々の楽器の響きの薄さみたいなモノは感じざるを得ません。
贅沢な注文になるかも知れないのですが、分離した楽器が「ステージ上のここに定位していますよ」みたいな押しつけがましさというか、あざとい感じがする録音になっていました。
それと比べると、ボロディンの交響曲ではそう言う音場空間の表現はきわめて自然ですし、個々の楽器の響きも混濁はしない透明感を保持しながら自然なボディ感を失ってはいません。
つまりは、Deccaはこの録音をスタート地点として、わずか半年も経たない間に現在でも優秀録音として通用するレベルにまで技術を磨き上げたのです。
そして、その事に音楽面で後見したのがエルネスト・アンセルメとスイス・ロマンド管弦楽団だったのです。
そして月並みな言い方になるのですが、録音という技術に関しては、この半世紀を超える時間をどのようにして浪費してきたのでしょうか。
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