ビゼー:「アルルの女」第1組曲
マルケヴィッチ指揮 ラムルー管弦楽団 1959年12月録音
Bizet:L'Arlesienne Suite No.1 [1.Prelude]
Bizet:L'Arlesienne Suite No.1 [2.Menuet]
Bizet:L'Arlesienne Suite No.1 [3.Adagietto]
Bizet:L'Arlesienne Suite No.1 [4.Carillon]
編成を変えて大成功
この作品はアルフォンス・ドーテの戯曲「アルルの女」の劇附随音楽として作曲されました。戯曲の方は大成功を収めアルフォンス・ドーテの名声を不動のものにしたそうです。残念ながらフランス文学には至って暗いので、アルフォンス・ドーテという名を聞かされても全くピントこないのですが、そちらの世界ではなかなかに有名な人らしいです。
ただ、ビゼーが必死の思いで作曲した方の音楽はあまり評判がよくなかったという話が伝わっています。
理由ははっきり分からないのですが、どうも「アルルの女」を上演した劇場のオーケストラが小編成で技術的にも問題があったのではないかと推測されています。
しかし、作曲をしたビゼーの方はこの作品に絶対の自信を持っていたようで、全27曲の中からお気に入りの4曲を選んで演奏会用の組曲に仕立て直しました。これがアルルの女の第1組曲です。劇判音楽の方はいびつな小編成のオケを前提としていましたが、組曲の方は通常の2巻編成のオケを前提として編曲がなされています。
そして、ビゼーの死後、親友のギローが新たに4曲を選んで(有名な第3曲のメヌエットは「美しいパースの女」からの転用)組曲にしたのが第2組曲です。
この組曲の方はビゼーの死後に発表されて大好評を博しました。
第1組曲:ビゼー自身が初演後すぐに組曲としたものです。
- 第1曲「前奏曲」:劇音楽No.1 序曲から
- 第2曲「メヌエット」:劇音楽No.17 間奏曲から
- 第3曲「アダージェット」:劇音楽No.19 メロドラマの中間部から
- 第4曲「カリヨン」:劇音楽No.18 導入曲および No.19 メロドラマ前後部から
第2組曲:ビゼーの死後、友人エルネスト・ギローの手により完成されました。
- 第1曲「パストラール」:劇音楽No.7 導入曲および合唱から
- 第2曲「間奏曲」:劇音楽No.15 導入曲から
- 第3曲「メヌエット」:「アルルの女」からではなく、「美しきパースの娘」の曲をギローが転用、編曲したもの
- 第4曲「ファランドール」:劇音楽No.21 ファランドールから
また一人、集中的に追跡しなければいけない指揮者と出会ってしまったようです。
一部の評論家によって振りまかれたイメージがいつの間にか広まってしまって判断を根本から間違ってしまうと言うことがよくあります。
その最たるものの一つが、セルは「冷たくて硬い」という評価でしょう。
さすがに、今の時代にこのような評価を真に受ける人はほとんど絶滅したとは思います。しかし、合奏の精度だけを狂気のように追い求めたという狭い評価は未だに根を張っていますから、最初に言い出した奴の罪は重いのです。
それから、ギレリスのことを「豪腕ピアニスト」などと言った評論家も酷いものです。しかしながら、これもまたこのキャッチコピーは長年にわたってギレリスにつきまといました。彼のピアニズムの基本は繊細なタッチから紡ぎ出される深い叙情性と、細部を曖昧にしないクリアな響きにあることはデビューの時からはっきりと刻印されているですから、こんなことを言い出した方のツミもかなり重いと言わざるを得ません。
まあ、それ以外にも酷いものはたくさんあります。
最晩年のごく一部の録音を聞いただけでシェルヘンのことを爆演指揮者と言ってみたり、古いところではライナーのことを「ミスター・メトロノーム」といった評論家もいました。
しかし、そうやって一度貼られてしまったレッテルというのはなかなか剥がせないので、受け取る方もよほど注意しないといけません。
聞くところによると、シェルヘンの娘さん(ミリアム・シェルヘン)が「Tahra」レーベルをはじめたのは、その様にして貼られた父へのレッテルを剥がしたいというのも動機の一つだったと聞いたことがあります。
そして、マルケヴィッチです。
彼に関しても、例えば「バイオレンス」「野蛮性」「バーバリズム」などと言うレッテルが貼り付けられています。そして、これもまたどういう聴き方をすればこういうレッテルが思いつくのか首をかしげざるを得ません。
しかし、正直に告白すれば、私もまたそう言うレッテルに目くらましをされて、長きにわたって彼とは距離を置いていたのです。
そして、ひょんなきっかけから彼の録音を幾つか聞く機会があり、そう言うレッテルのいかにアホくさいことかに気づかされて愕然としたのです。
しかし、過去に一度だけ彼の録音を取り上げていたことに気づきました。ハスキルの伴奏指揮者としての録音は幾つか取り上げてはいたのですが、マルケヴィッチそのものを取り上げたのは、1953年録音の「展覧会の絵」だけです。その時には、概ね以下のようなことを綴っていました。
「彼の演奏を聴いてみて驚くのは、オケの下手さを感じさせないほどに完成度が高いことです。もちろん、個々の奏者の力量はどうしようもないのでゴージャスでリッチな響きを求めるのは無理ですが、音楽の姿がいつも明確で実にクリアなのです。とにかく、一つ一つのフレーズが全て意味を持って鳴らされているので、曖昧さというものが全く存在しないのは実に驚くべき事です。」
と言うことは、このベルリンフィル以外の録音も聞いていたようです。
「このベルリンフィルとのコンビで録音された展覧会の絵も、音楽の造形を常にクリアにしようとするマルケヴィッチの手法がよくあらわれています。派手さはありませんが、「展覧会の絵」という作品の構造が手に取るように分かる演奏です。」
なるほど、「バイオレンス」「野蛮性」「バーバリズム」などと言うレッテルにとらわれることなく、自分なりに感じたことを正直に書いていたのでホッとしました。そして、「音楽の姿がいつも明確で実にクリア」だとか「一つ一つのフレーズが全て意味を持って鳴らされているので、曖昧さというものが全く存在しない」というのは、今回感じたことと大差ありません。
ただし、その時にその様に感じながら、さらに次ぎに繋がらなかったのは、そう言うことに感心はしながらも「感動」をするほどのレベルではなかったのでしょう。そして、件の録音を聞き直してみて、録音のクオリティに関わる問題もあって、それはそれで仕方の無かった出会いだったと認めざるを得ないものでした。
もしも、その時に、例えばここで紹介したビゼーの「アルルの女」や「カルメン」の組曲を聴いていれば、その後の展開は随分かわったことでしょう。
とりわけ、「アルルの女」の組曲を聴いて感じたのは、まるでチェリビダッケのようだと言うことでした。
私が聞いたことのある範囲では(あまりよいチェリの聞き手はありませんので)、ミュンヘンフィルとのシューマンの4番で感じた音楽の作り方と相似形のものを感じました。
オケは力感というものを一切排して、一つ一つの響きがまるで脆いガラス細工のように積み上げられていきます。ただし、その偏執ぶりはさすがにチェリに域にまでは達していませんが、それは彼らの時の隔たりを考えてみれば仕方のないことです。今から半世紀以上も前の時代にあって、このような演奏を指向していたとは驚くほかありません。
言うまでもないことですが、オケからこのような響きを出そうと思えば、それこそ死ぬほどのリハーサルが必要です。そして、聞くところによると、マルケヴィッチもまたチェリと同じような常軌を逸したほどの厳しいリハーサルを要求し、その結果として一つのオーケストラと長く関係を維持できなかったと伝えられています。
このパリの(かつては名門であった)ラムルー管弦楽団でもその厳しい練習に楽団員が反旗を翻して、わずか数年(1957年~1961年)で首になっています。と言うか、練習嫌いで有名なこのオケで、よくぞ4年ももったものだと、その方を驚きます。
それから、「アルルの女」の組曲と言えば、もう一人ケーゲルの録音も思い出します。しかし、あの録音と較べてもマルケヴィッチの録音はさらに思い入れというようなものが希薄であり、ある意味ではさらに現代的ですらあります。
これは困った、また一人、集中的に追跡しなければいけない指揮者と出会ってしまったようです。
よせられたコメント
2016-03-05:emanon
- 「アルルの女」第1組曲の方は、さすがにビゼー自身が編んだだけにしっかりとした構成感があります。特に「前奏曲」は劇的な音楽で、ビゼーの天才性が刻印されています。
マルケヴィッチの演奏は相変わらずラムルー管弦楽団の魅力とあいまって立派なものです。
点数は8点です。いつまでも遺しておきたい演奏です。
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