R.シュトラウス:「サロメ」より7つのヴェールの踊り
カラヤン指揮 ウィーンフィル 1960年9月録音
R_Strauss:「サロメ」より7つのヴェールの踊り
危ない話・・・です。
サロメの物語は新約聖書の中の小さなエピソードとして記載されていたものです。ところが、その小さなエピソードをオスカー・ワイルドが「危ない話」へと仕立て直して一幕の劇とすることですっかり有名になってしまいました。
戯曲の方はまずは文学作品として有名となったのですが、実際に舞台で上演するまでには当時のヨーロッパの保守的な風土が邪魔をしてかなりの紆余曲折があったようです。(戯曲が書かれたのが1891年、すったもんだの末の初演が1896年だったそうです。)
そして、リヒャルト・シュトラウスがこの戯曲に興味を持ってオペラの作曲を思いついたのは1903年だったと言われています。
さすがにこの時期になると「サロメ」の評価は定着し、ヨーロッパの多くの劇場で上演されるようになり、シュトラウスのオペラもドレスデンの初演では大成功を収め、38回のカーテンコールがあったと記録されています。この時、サロメ役に決まっていた歌手が7枚のヴェールの踊りで本当にストリップを演じなければいけないことに難色を示して交代したことは有名な話ですが、果たして初演ではどこまで脱いだのかは残念ながら不明です。
しかしながら、この初演の大成功(?)の噂はたちまちヨーロッパ中に広まり、あっという間にヨーロッパの歌劇場の定番レパートリーとして定着していったのですから、やはり男とはそういう物のようです。
ただし、勘違いのないようにしてほしいのは、このオペラは決して「7枚のヴェールの踊り」だけが売りの際物ではありません。
シュトラウスはサロメの舞台を始めて見たときに「この劇は音楽を求めている」と直感したと語っています。ですから、オペラ「サロメ」は文学作品としての「サロメ」に大きな変更を加えることなく、まさにその劇が求めている音楽だけを追加した一編の音楽劇へと変身させたものとなっています。ただし、その音楽は彼のお得意だった一連の「交響詩」と同じ大規模なオーケストラによって演奏されるのですから、ワイルドの作品の中に込められた「危なさ」はよりいっそう際だっています。
ドイツではこういうスタイルのオペラを「文学オペラ」と呼ぶようになり、その後は「ヴォツェック」ヤ「ルル」へと引き継がれていくようになります。その意味でも、歴史的に極めて大きな意味を持った作品だったと言えます。
また、このオペラの一番の聞きもの(見もの?)である「7枚のヴェールの踊り」は独立したオーケストラピースとしても良く演奏されます。静かに始まった舞曲が最後は何かにとりつかれたような狂気の世界へと駆け上がっていく様は見事というか危ないというか、まさにシュトラウスの並外れた腕前を見せつけられます。
カラヤンの美質と非常に相性が良かったのがリヒャルト・シュトラウス
59年に録音されたカラヤン&ウィーンフィルによるデッカ録音に対してこんな風に書きました。
「カラヤンの音楽は気持ちよく横へ横へと流れていきます。その意味では、耳あたりのいい映画音楽のように聞こえるのかもしれません。
しかし、聞く耳をしっかり持っていれば、メロディラインが横へ横へと気持ちよく流れていっても、そこで鳴り響くオケの音は決して映画音楽のように薄っぺらいものでないことは容易に聞き取れるはずです。映画音楽が一般的に薄っぺらく聞こえるのは、耳に届きやすい主旋律はしっかり書き込んでいても、それを本当に魅力ある響きへと変えていく内声部がおざなりにしか書かれていないことが原因です。
そして、例え響きを魅力あるものに変える内声部がしっかりと書き込まれていても、主旋律にしか耳がいかない凡庸な指揮者の棒だと、それもまた薄っぺらい音楽になってしまうことも周知の事実です。
当然の事ですが、カラヤンはそのような凡庸な音楽家ではありません。
カラヤンの耳は全ての声部に対してコントロールを怠りませんし、それらの声部を極めてバランスよく配置していく能力には驚かされます。そして、彼の真骨頂は、強靱な集中力でそのような絶妙なバランスを保ちながら、確固とした意志でぐいぐいと旋律線を描き出していく「強さ」を持っていることです。
それは、例えてみれば、極めてコントロールしにくいレーシングカーで複雑な曲線路を勇気を持って鮮やかに走り抜けるようなものかもしれません。彼は、目の前の曲線路の中に己が走り抜けるべきラインをしっかりと設定すると、そのラインに躊躇うことなく突っ込んでいきます。カーブの入り口で様子を見ながら少しずつハンドルを切るというような、凡庸な指揮者がやるよう不細工なことは決してしないのです。」
おそらく、そう言うカラヤンの美質と非常に相性が良かったのがリヒャルト・シュトラウスの音楽だったことは間違いありません。
デッカ録音は非常に優秀で、分解度は抜群です。おかげで、アンサンブルの緩さは一目(一聴?)瞭然ですが、ウィーンフィルはそんなことはお構いなしにグイグイと己の信ずる音楽を描き出していきます。当然のことながらカラヤンもそう言うオケの言い分に水を差すような野暮なことは一切していません。彼はマシンの性能を信じて、己の描き出したラインに沿って曲線路へと突っ込んでいきます。そのラインが己の思い描いたラインと多少のズレがあっても、決してクラッシュしないことは確信して、細部はオケにゆだねている感じです。
それから、何と言っても、未だに地方性を残していたウィーンフィルのどこかくすんだような響きはこの上もなく魅力的です。こういうオケの響きがこの地上から消え去ってしまったことは痛恨の極みです。
これと比べれば、後年のベルリンフィルとの録音ははるかに精緻であり、管楽法の大家たるリヒャルト・シュトラウスの真価がより明らかにされているとは言えるでしょう。しかし、その事によって失われた音楽の勢いというものの大切さも教えてくれる録音でもあります。
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