クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~

ハイドン:交響曲第100番 ト長調「軍隊」, Hob.I-100

ベルンハルト・パウムガルトナー指揮 ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院管弦楽団 1960年4月録音





Haydn:Symphony No.100 in G major Hob.I-100 "Military" [1.Adagio - Allegro]

Haydn:Symphony No.100 in G major Hob.I-100 "Military" [2.Allegretto]

Haydn:Symphony No.100 in G major Hob.I-100 "Military" [3.Menuet (Moderato) - Trio]

Haydn:Symphony No.100 in G major Hob.I-100 "Military" [4.Finale (Presto)]


ソナタ形式による完璧な造形はハイドンが書いたもっとも充実した音楽の一つといえます

エステルハージ候の死によって事実上自由の身となってウィーンに出てきたハイドンに、「イギリスで演奏会をしませんか」と持ちかけてきたのがペーターザロモンでした。
彼はロンドンにおいてザロモンコンサートなる定期演奏会を開催していた興行主でした。

当時ロンドンでは彼の演奏会とプロフェッショナルコンサートという演奏会が激しい競争状態にありました。
そして、その競争相手であるプロフェッショナルコンサートはエステルハージ候が存命中にもハイドンの招聘を何度も願い出ていました。

しかし、エステルハージ候がその依頼には頑としてイエスと言わなかったために、やむなく別の人物を指揮者として招いて演奏会を行っていたという経緯がありました。
それだけに、ザロモンはエステルハージ候の死を知ると素早く行動を開始し、破格とも言えるギャランティでハイドンを口説き落とします。

そのギャラとは、伝えられるところによると、「新作の交響曲に対してそれぞれ一曲あたり300ポンド、それらの指揮に対して120ポンド」等々だったといわれています。
ハイドンが30年にわたってエステルハージ家に仕えることで貯蓄できたお金は200ポンドだったといわれますから、これはまさに「破格」の提示でした。

このザロモンによる口説き落としによって、1791年、1792年、1794年の3年間にハイドンを指揮者に招いてのザロモン演奏会が行われることになりました。そして、ハイドンもその演奏会のために93番から104番に至る多くの名作、いわゆる「ザロモンセット」とよばれる交響曲を生み出したわけですから、私たちはザロモンに対してどれほどの感謝を捧げたとして捧げすぎるということはありません。

この「軍隊」とあだ名のついた交響曲は、おそらくは、94番「驚愕」と並んで、もっともポピュラリティーの高い作品でしょう。
この作品は2回目のロンドン訪問に当たる1794年に作曲され演奏されました。この94年の演奏会は、かつてのような社会現象ともいうべき熱狂的な騒ぎは巻き起こさなかったようですが、演奏会そのものは好意的に迎え入れられ大きな成功を収めることが出来ました。

全編、実に魅力的なメロディにあふれていますし、この作品のニックネームのもとになった第2楽章のコーダも実に粋です。ザロモンによるコンサートでもすでにこの作品は「軍隊交響曲」と予告されていましたから、あの軍隊信号はこの作品の象徴みたいなものです。

しかし、この作品の最大に聞き所は言うまでもなく最終楽章です。ソナタ形式による完璧な造形は104番のロンドンシンフォニーと並んでハイドンが書いたもっとも充実した音楽の一つといえます。


ハイドンの音楽が持つ優美さと気品


パウムガルトナーは若い頃にワルターに師事していて、さらに彼がモーツァルテウム音楽院の学院長をつとめているときの教え子にカラヤンがいます。しかし、こうして3人の名前を並べてみると、ヴァイオリンとは違って、指揮者というのはサラブレッドの血統のようなつながりは持たないもののようです。
例えば、ここで聞くことのできるハイドンの交響曲はワルターと較べればはるかに速いテンポで颯爽と演奏しているので、古き良きワルターのハイドンとは随分異なります。ましてや、カラヤンのハイドンとは較べるまでもありません。

しかし、このパウムガルトナーのハイドンは悪くはありません。いや、その様な持って回った言い方ではなくて、素直に「素晴らしい」と言うべきでしょう。
おそらく、この時代には少しずつ頭をもたげはじめていた古楽復興の動きとは全く無縁の演奏だとは思うのですが、それでも当時の巨匠たちのハイドンと較べればかなり小規模の編成で演奏しているように思われます。それでいて、決してこぢんまりとした音楽になることなく、優美であると同時に気品に溢れたハイドンがここにはあります。

いつも思うのですが、ハイドンというのは指揮者にとってもオーケストラにとっても「コスト・パフォーマンス」の悪い作品です。何故ならば、どれほど上手く演奏しても聞き手を圧倒するような演奏効果を生み出す音楽ではありません。それどころか、そう言うものを狙って、例えば103番の
「太鼓連打」で轟くような太鼓の連打をしたならば、それは下品を通りこして阿保です。
そこは、このパウムガルトナーのように、遠くから聞こえてきてやがて遠くに過ぎ去っていくように演奏すべきでしょう。

100番の「軍隊」のトランペットにしても気品を持った吹奏でなければいけません。
しかし、それでは「分かる人にしか分からない」というジレンマに陥り、結果としてハイドンの交響曲というのはどこか「お勉強モード」で聞くという習慣が身についてしまいます。

そう言う中において、これは実に傾聴に値すべき演奏と言えるでしょう。
決して鬼面人を驚かすような効果とは全く無縁ですが、ハイドンの音楽が持つ優美さと気品、そして颯爽とした佇まいなどを雰囲気としてではなく、徹底したスコアリーディングに基づく内部の見通しの良さを通して実現しています。
それ故に、これを持ってライナーのハイドンに肩を並べると主張する人の言い分にも最少は随分と「?」マークがついたのですが、そこまで持ち上げる理由が何となく納得できます。

そして、パウムガルトナーが創設した「ザルツブルク・モーツァルテウム音楽院管弦楽団」の優れた能力と同時に、この両者がいかに強い絆で結ばれていたかを証明する録音だとも言えます。
ただし、いささか盤面のコンディションが悪いのが残念です。そこはご容赦あれ。

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