ブルックナー:交響曲第8番 ハ短調
ヤッシャ・ホーレンシュタイン指揮 ウィーン・プロ・ムジカ管弦楽団 1955年録音
Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [I. Allegro moderato]
Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [II. Scherzo. Allegro moderato; Trio. Langsam]
Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [III. Adagio. Feierlich langsam, doch nicht schleppend]
Bruckner:Symphony No.8 in C minor, WAB 108 [IV. Finale. Feierlich, nicht schnell]
ブルックナーの最高傑作
おそらくブルックナーの最高傑作であり、交響曲というジャンルにおける一つの頂点をなす作品であることは間違いありません。
もっとも、第9番こそがブルックナーの最高傑作と主張する人も多いですし、少数ですが第5番こそがと言う人もいないわけではありません。しかし、9番の素晴らしさや、5番のフィナーレの圧倒的な迫力は認めつつも、トータルで考えればやはり8番こそがブルックナーを代表するにもっともふさわしい作品ではないでしょうか。
実際、ブルックナー自身もこの8番を自分の作品の中でもっとも美しいものだと述べています。
規模の大きなブルックナー作品の中でもとりわけ規模の大きな作品で、普通に演奏しても80分程度は要する作品です。
また、時間だけでなくオーケストラの楽器編成も巨大化しています。
木管楽器を3本にしたのはこれがはじめてですし、ホルンも8本に増強されています。ハープについても「できれば3台」と指定されています。
つまり、今までになく響きがゴージャスになっています。ともすれば、白黒のモノトーンな響きがブルックナーの特徴だっただけに、この拡張された響きは耳を引きつけます。
また、楽曲構成においても、死の予感が漂う第1楽章(ブルックナーは、第1楽章の最後近くにトランペットとホルンが死の予告を告げる、と語っています)の雰囲気が第2楽所へと引き継がれていきますが、それが第3楽章の宗教的ともいえる美しい音楽によって浄化され、最終楽章での輝かしいフィナーレで結ばれるという、実に分かりやすいものになっています。
もちろん、ブルックナー自身がそのようなプログラムを想定していたのかどうかは分かりませんが、聞き手にとってはそういう筋道は簡単に把握できる構成となっています。
とかく晦渋な作品が多いブルックナーの交響曲の中では4番や7番と並んで聞き易い作品だとはいえます。
マーラーやブルックナーのスペシャリスト
ホーレンシュタインのブルックナーを聞いていて記憶に蘇ってきたのはクラウス・テンシュテットのブルックナーでした。残念ながら私が聞いた公演のメインはマーラー(1984年4月13日 大阪・フェスティバルホール)とブラームス(1984年4月14日 大阪・フェスティバルホール)で、ブルックナー(1984年4月11日 東京簡易保険ホール)の実演は聞く事が出来ていません。
ですから、その印象は録音によるものなのですが、当時の日本のブルックナー信者の間に広まっていた「神秘」的なブルックナーではなく、清々しいまでに後期ロマン派の交響曲として割り切った演奏でした。そして、そのうねるような音楽は、その解釈の根っこにマーラーに対するのと同じ視点があるように思ったものでした。
おそらく、こういうブルックナーは「何も考えない」指揮者の手になる演奏では絶対に実現しません。
必要なのは精緻な楽曲分析と、それを現実の音として実現するためのオケに対する絶対的なコントロール能力です。
そう言えば、テンシュテットはイギリスではフルトヴェングラーの再来と期待された指揮者でしたし、ホーレンシュタインはフルトヴェングラーの助手でした。そしてこの二人のブルックナーを聞いていてもう一人思い出すのは疑いもなくフルトヴェングラーのブルックナーです。
そして、フルトヴェングラーのブルックナーはとある評論家の強い影響力によって「外道」のブルックナーと見なされ続け、それはテンシュテットのブルックナー演奏においても同様でした。
ホーレンシュタインと言えば今では一部の好事家くらいしか注目しない存在なのですが、50年代においてはマーラーやブルックナーのスペシャリストと見なされていました。
予算が余ったBBCがその予算を消化するために急遽実施したマーラーの8番を、一度も全体であわせる機会もないまま本番の公演に臨み見事な演奏を成し遂げたのは今も伝説として語り継がれています。
ですから、彼の本領が一番発揮されるのはブルックナーではなくてマーラーだと思うのですが、50年代の初めにVoxで録音したブルックナーの8番と9番の演奏は実見事なものです。
ただし、一昔前の「ブルックナー信者」にしてみれば到底許し難いような演奏だったでしょうから、ほとんど無視され続けてきたのではないでしょうか。
この私にしてもブルックナーの録音はかなり聞いてきていますが、ホーレンシュタインの演奏にふれたのはこれが初めてでした。
私がブルックナーの素晴らしさを教えてもらったのは大フィルと朝比奈であり、その演奏を影響力のある評論家が褒めちぎっていたので、その呪縛から逃れるには時間がかかりました。
とは言え、クラシック音楽などと言う世界にのめり込むにはそう言う「呪縛」も時には推進力にもなるので、その全てを否定するつもりはありません。しかし、その「呪縛」の先に広がる広大な世界に気づいたときに、初めてこの世界の豊かさの大いなる事を知ることになるのです。
ホーレンシュタインの音楽はいつも自然な流れによって支配されています。そして、低声部をやや厚めにならすことで実に柔らな暖色系の響きをつくり出して聞くものの心を穏やかにしてくれます。おそらく、これこそがホーレンシュタインが持つ最大の魅力でしょう。
しかし、ここぞという場面では踏み込むことがあったり、踏み込まなかったりすることもあるのですが、このブルックナーではいい方の芽が出ています。
第9番の第1楽章の終結部などはその一番いい例で、ホーレンシュタインが踏み込んだときの魅力が溢れています。
そして、第8番の第3楽章では自然な音楽に流れの中で美しい響きと美しい旋律がこの上もなく感動的な世界を作りあげているのは、まさにホーレンシュタインの真骨頂と言えるでしょう。
よせられたコメント
2022-02-12:エラム
- あまり期待せずに聞き出したのですがどうしてどうして。大名演であります。
そしてあまり上手く言えませんが、実に先進的な空気も感じる演奏だと思いました。聞いていて終始、2022年現在に演奏されても不思議ではない表現だと感じていましたから。
現代まで時代が下ると、かつては「外道」だった表現が「王道」になってきたのでしょうか。
【最近の更新(10件)】
[2024-11-24]
ブラームス:交響曲第4番 ホ短調, Op.98(Brahms:Symphony No.4 in E minor, Op.98)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)
[2024-11-21]
ショパン:ピアノ協奏曲 第1番 ホ短調, Op.11(Chopin:Piano Concerto No.1, Op.11)
(P)エドワード・キレニ:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ミネアポリス交響楽団 1941年12月6日録音((P)Edword Kilenyi:(Con)Dimitris Mitropoulos Minneapolis Symphony Orchestra Recorded on December 6, 1941)
[2024-11-19]
ブラームス:ヴァイオリン協奏曲 ニ長調 Op.77(Brahms:Violin Concerto in D major. Op.77)
(Vn)ジネット・ヌヴー:イサイ・ドヴローウェン指揮 フィルハーモニア管弦楽 1946年録音(Ginette Neveu:(Con)Issay Dobrowen Philharmonia Orchestra Recorded on 1946)
[2024-11-17]
フランク:ヴァイオリンソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(Vn)ミッシャ・エルマン:(P)ジョセフ・シーガー 1955年録音(Mischa Elman:Joseph Seger Recorded on 1955)
[2024-11-15]
モーツァルト:弦楽四重奏曲第17番「狩」 変ロ長調 K.458(Mozart:String Quartet No.17 in B-flat major, K.458 "Hunt")
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)
[2024-11-13]
ショパン:「華麗なる大円舞曲」 変ホ長調, Op.18&3つの華麗なるワルツ(第2番~第4番.Op.34(Chopin:Waltzes No.1 In E-Flat, Op.18&Waltzes, Op.34)
(P)ギオマール・ノヴァエス:1953年発行(Guiomar Novaes:Published in 1953)
[2024-11-11]
ドヴォルザーク:ヴァイオリン協奏曲 イ短調, Op.53(Dvorak:Violin Concerto in A minor, Op.53)
(Vn)アイザック・スターン:ディミトリ・ミトロプーロス指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1951年3月4日録音(Isaac Stern:(Con)Dimitris Mitropoulos The New York Philharmonic Orchestra Recorded on March 4, 1951)
[2024-11-09]
ワーグナー:「神々の黄昏」夜明けとジークフリートの旅立ち&ジークフリートの葬送(Wagner:Dawn And Siegfried's Rhine Journey&Siegfried's Funeral Music From "Die Gotterdammerung")
アルトゥール・ロジンスキー指揮 ロイヤル・フィルハーモニ管弦楽団 1955年4月録音(Artur Rodzinski:Royal Philharmonic Orchestra Recorded on April, 1955)
[2024-11-07]
ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58(Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58)
(P)クララ・ハスキル:カルロ・ゼッキ指揮 ロンドン・フィルハーモニック管弦楽団 1947年6月録音(Clara Haskil:(Con)Carlo Zecchi London Philharmonic Orchestra Recorded om June, 1947)
[2024-11-04]
ブラームス:交響曲第3番 ヘ長調, Op.90(Brahms:Symphony No.3 in F major, Op.90)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 フィルハーモニア管弦楽団 1952年9月29日&10月1日録音(Arturo Toscanini:The Philharmonia Orchestra Recorded on September 29&October 1, 1952)